小浜の風に吹かれて

OJH

プロローグ

 ――――二〇二五年七月下旬

 今年の夏休みも特にすることはないだろう。

 終業式が終わり一人で街中を歩きながらスマホを触っていた。

 家に着くと珍しく親が帰って来ていた。

 不思議に思っていると急にこちらを向いてこう言った。

「海人、仕事の都合で引っ越すことになった夏休み中には引っ越す」

「来月の中旬ぐらいに出発するから準備しときなさい」

「あっそ」

 親の仕事にも今の学校も特別気にしているわけではない。

 めんどいと思いつつも海人は引っ越しの準備を始めるのであった。

 ――――二〇二五年八月

 時間の関係もあり予定より早く家を出ることになった。

 今の学校を離れることにちっとも寂しいなんて思わない。

 たいして勉強もできず友人や学校での思い出なんてあるはずがない。

 親には、「学校にいけ」「いつまで閉じこもっているつもりだ」

 と何回も怒鳴られた。

 友達や勉強に恵まれず生まれてきた僕にとってその言葉は反抗心を強めるだけだった。

 引っ越し業者のトラックを見送り僕たち三人は車に乗り、福井県小浜市というところに向かうのであった。

 親からは住所だけ教えられており車内では沈黙がずっとなので色々検索することにした。

 地理が得意な自分でもわからなかった「福井県小浜市」

 ホームページには謎の白い集団が火をもってなにかの儀式を行っていたり、写真映えする寺の写真など東京と全く違うことに少し驚いた。

 だがいろいろな情報を見てくにつれ僕の中で小浜に対する興味が無くなっていた。

 無意識に溜め息がでるくらいに…

 気が付いたら眠っていたことに起きてから気づいた。

 窓越しに外を見るとこれまで景色とは一変していた。

 少しボーッとしているとこれから三人が住むアパートに到着した。

 アパートといっても部屋の数はそれなりにあったので広いスペースに荷物を運んでもらった。

 僕が持ってきたのはパソコンと日常で使うもの

 服とかもそんなに多くない。

 僕は早々と片付けを終えいつものようにパソコンを立ち上げた。


 何時間たったのだろう。

 ゲームをしていると時間がわからなくなる。

 時計を見ると七時だった。

 いつもだとそろそろ晩ごはんを食べる時間だ。

 親とはそこまで仲がいいわけではないがご飯を食べるときだけは家族揃っている。

「いただきます」

 小さな僕の声は周りの空気に溶けていった。

 会話はまったくなく聞こえるのは、テレビと物を動かす音だけ。

 毎日こんな空気だと親と話す気にもなれない。

 いつの間にか僕は、

(自分の部屋だけが癒しだ)

 そう思うようになった。

「ごちそうさまでした」

 やっと静かな空間から逃げられる。

 そう思い足早に自分の部屋へと逃げた。

 それを見た母親が少し心配そうな顔で海人を見ていた。

 部屋に入った途端中断していたゲームを始めた。

 東京にいた頃よりネット環境と自分の持っていたマウスの調子が悪く苛立ちを覚えた。


 時間が経ってふと時計を見ると二十三時だった。

 慣れない環境で自然と疲れており少し早く寝ることにした。

 引っ越して一日目

 特になにかをすることもなくいつも通りの僕の一日が終わった。

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