Ex4 メリザベータ

 揺り篭でスヤスヤと眠る赤ん坊を覗き込む、幼い少女と少年の姿がある。

 「可愛いでしょ?メリランダっていうの」

 「お前とあんまり似てねーな」

 「いーの。私の可愛い妹なんだから」


 私には幼い頃、ロミリオという友人がいた。私を墓守の一族だと知っても唯一傍に居てくれた男の子。私の初恋の相手でもあるわね。


 「なぁ、大カタコンベの中ってどうなってるんだ?お前入った事あるんだろ?」

 「んー、ロミリオじゃ怖くて腰抜かしちゃうかもね」

 「なんだよ、馬鹿にしてんのか」

 「この前ちょっと帰りが遅くなって、暗いのが怖いって泣きそうになってたの誰かなー」

 「う、うるせぇな」


 そう、彼は怖がりだった。裕福な家の子だったから、たぶん夜も灯りが絶えない様な家だったのかもしれないわね。何回暗くなった道を送ってあげた事か。


 幼い彼女は懐から革で出来たブレスレットを取り出す。

 「そうだ、これ片方ロミリオにあげる。私の手作りよ、未完成だけど」

 「なんだよ、未完成って」

 「石を付けたら完成なの。だから今日は河原で綺麗な石を探しに行きましょ」

 「お、丁度川遊びしたかったんだ」

 「ほどほどにね。今日の目的は石探しなんだから」


 今となれば本物の宝石の美しさを知っているけど、その時はあれが本当に綺麗だと思ったの。彼は家で本物をよく見ていたかもしれなかったけど、ちゃんと喜びを共有してくれてた。合わせてくれてるなんてその時は思ってもいなかった。


 彼女は拾った石をブレスレットに器用に括りつける。完成した物を笑顔で彼に手渡した。

 「お揃いなんだからちゃんと着けてよね」

 「ええ、着けなきゃだめか?お揃いなんて恥ずかしいんだけど」

 「もう、せっかく作ったんだから」

 「わ、わかったよ」


 彼がそれを身に着けてくれた時は本当に嬉しかった。そんな時間が永遠に続くと思っていた。


 河原からの帰り道、川沿いの人気の無い道で二人の男がロミリオに話しかけてきた。

 「ロミリオ君かい?俺たちは君のお父さんの知り合いなんだが、ちょっと一緒に来てほしい場所があるんだ」

 「知らない人にはついて行くなって言われてる」

 男達は顔を見合わせると彼を無理やり連れ去ろうとした。メリザベータは彼を助けようと、掴む男の腕に噛みついた。だか、大人と子供の力の差など目に見えて明らかで、彼女は振り払われ川の方へと転がっていった。

 「リズ!!」

 彼が自分を呼ぶ声が聞こえた。彼女が浅瀬の中で立ち上がると既に彼らの姿は無かった。

 彼女は濡れて重くなった服を引きずりながら、必死に助けを求めて走った。


 身代金目的の誘拐だったわ。それから彼と会う事は無かった。そう、あんな形で再開するまでは・・・・。

 墓守の一族である以上、知り合いの死を否応なしに知る事も多々あるの。あれから一年程立ったある日。父はその日、厳しい顔で私に埋葬区域の手伝いをするよう言ってきた。

 彼はあの時のままだった。服も、二人で作ったブレスレットも。

 そう、朽ち果てた肉体以外はね。

 怖がりだった彼はどんな思いをしたのか、想像するだけで胃から込み上げてくるものがあった。けれども不思議と涙は流れる事はなかった。淡々と墓守としての役目を果たし、私は一言も発することなく父と二人で彼を手厚く葬った。

 それからはぽっかり空いた何かを埋めるように、私は魔術の習得に没頭した。あの時、私に力があれば・・・・。

 そして何より、一人の誰かを愛する事が怖くなったの。

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シたい彼女と寝てたい彼女~ちょっとエッチなアンデッド少女たちがダンジョン攻略始めたようです~ とちのとき @Tochinotoki

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