第22話
「事件から3ヶ月を経過した現在でも、有力な手掛かりは得られていません」
ボクはテレビを消した。
連日の様に扱われていた謎の殺人事件は、だんだんと他のニュースに居場所を奪われつつあった。
同じような、いやもっと凄惨な事件や事故が、毎日のように起きている。
きっと犯人は捕まらない。
このまま進展がなく捜査が打ち切りになればいいのにと思った。
洗濯物を干している間、夫は家の中でワイドショーを観ていたが、例の事件の報道が終わるとテレビを消した。
やっぱり気になっているのだろう。
僅かな期間とはいえ、自分が滞在したアパートで隣人が殺害された事件。どれほどの関係があったのかは分からないが、気になって当たり前だと私は思った。
自分のした事は犯罪だ。許される事ではない。
でもいくつかの報道の中で「騒音やら罵声やらでしょっちゅう苦情なんかもも入ってたから、そういう揉め事が事件になっちゃったのかな」と、顔を映されず声も変えられたアパートの大家がインタビューに答えていた。
あの男が居なくなった事でせいせいしている人間も居るのだろう。
今の世の中、ご近所さんはただ「近くで生きてる人」で、特別関心を寄せる相手では無くなっている。
特に人の入れ替わりが激しいアパートなどでは。
私は犯した罪を明るみにすることは無い。
一生涯。たとえ愛する人にも。そうして一人で抱えて生きていく。誰にも知られず、苦しみと孤独をせめてもの償いに。
それは、逃げているのかも知れない。私の中の恐ろしい一面から。平凡な日常を壊してしまうことから。
わたしは、誰にも知られずに逃げ続ける、
逃亡者。
完
わたしは逃亡者 北前 憂 @yu-the-eye
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