第32話 恋の町、人狼の街その3 実り

久しぶりに宿屋で誰にも起こされない。

なんて優雅な一日だ。


「なんか気にならない?僕は気になるですぞ。」


「まぁ…気になるな、喫茶店見に行くか…。完全に野次馬だがそれくらいしてもバチは当たらないでしょ。」


朝ごはんを食べてのんびりと喫茶店に向かう


「あらま…なんか行列ができてますぞ…」


「アイスだろ、数量限定だし売り切れたら落ち着くと思うから買い物回るか」


そしてポメヤは爺さんの店で生きてるか確認しに行くというので2時間自由行動にし、僕は旅の不足品を揃えた。


二時間後、喫茶店に行ってみると…


「なんか行列増えてますぞ…なにあれアリみたい」


「アイスはとっくに終わったと思うんだけど…ちょっと声かけてみるか。」


従業員ですとウソを付き、中に入ると全席埋まっていて、普通にドリンクを飲んでいるが…

あぁ、そう言う事か…


ポメヤの絵を見ながら飲み物を飲み、帰らない


元々回転率など気にする店ではないんだ。喫茶店という店はゆっくりと飲み物を飲み、自分の時間を過ごす場所。

かと言って今の状況は非常に宜しくない。


外には行列が出来ており、急かされる気持ちが無いわけではないだろうが…それほどこの空間は人を惹きつけてしまうんだ。


とりあえず、落ち着いたら空間でヒロキくんとハルカだけがアワアワしていた。


「大丈夫?なんか外えらい事なってるけど」


ヒロキ君は小声で答える。

「そうなんですけど…帰れとも言えないし…困ってしまって…」


「これは全席指定の予約制にするしかないですぞ、時間で区切って」


「あと…もう一つ困った事が…」

ヒロキ君は言いづらそうに続ける

「あの…ハルカさんの絵で感動する人が多いのは良いんですが、本人がここで働いてるので…その、求婚が後をたたなくて…」


ハルカは恥ずかしそうに下を向いている、これは相当口説かれたな。


「簡単ですぞ、夫婦って事にすれば良いんですぞ、少し考えたら分かるよそんな事はね」


「え?でもそんな、僕なんかじゃ釣り合いませんよ…ハルカちゃん今日だけでも100人くらいから求婚されてるんですよ?」


100人かぁ…このまま放置したら魔女とか言われて焼き討ちされるかも知れない。


「魔性ですぞ…魔女狩りとかされたら目も当てられないですぞ。」

声に出すな、シャレになってないだろ。お前の絵のせいでもあるんだぞ、まあ悪気はないだろうけど。


「魔女狩りって何か分からないけど狩られるの?私」


「とりあえず今いるお客さんと外の人達を捌いてから少し相談してみるといいよ、今はゆっくり話せる状態じゃ無さそうだし…」


今日は品切れという事にして、今お店にいるお客さん以外には予約を取ってサービス券もオマケして帰って貰った。


早めに店を閉めて相談した結果、ポメヤの言った全席指定の予約制の店になった、急に超有名喫茶店になってしまったワケだ。


残る問題はハルカの問題、正直もう付き合っちゃえよって感じだが、僕達が口を挟むのは違うと思う。

これ以上は二人の問題だし、ゆっくり時間をかけていけばいいさ。

ハルカは色々ありすぎてぼんやりしてるし、もう気力も体力も限界だろう


「とりあえず夫婦って事にすれば良いですぞ、いや本当ウソ言わないですぞ。」


ポメヤ…お前、なんでもかんでも口に出すなよ…失敗した事ないとでも思ってるのか?


「ヒロキさんのお嫁さんかぁ…夢みたいだなぁ…ふふ」

ぼんやりしていて一人の世界にいた?声出てるよ、声


「ハルカさん…今のってどういう…」

ヒロキ君は赤面しながら声をかけた。


「えっ!?あの、違くて!いや違くないんですけど、あの、違くないです!」

ハッと我に返ったハルカは分かりやすいほど慌てている。


「あの!?えっと違うんじゃなくて、えっと…宜しくお願いします!」

慌てすぎてよく分からない感じになっちゃった…


「あの、僕は初めて見た時から気になっていたんです、三年前、泣きながら帰っているハルカさんを見た時から。」


「これは良い話の予感ですぞ」

ポメヤ、今は黙る時だ。


「あの日もお客さんが少なくてボーッと外を見ていたら女の子が泣きながら歩いていたんです。

純粋に助けてあげたいと思いました。その日から毎日ボロボロの服で花を一生懸命に売って回るハルカさんを見ていると僕も頑張ろうって気持ちになったんです。」


ハルカは驚きと嬉しさの入り混じったなんとも言えない表情で真剣に聴いている。


「そしていよいよ経営も限界だっていう時にトーマさんが来て…ポメヤさんとハルカさんが入って来ました。

服装とか髪型は変わっていましたけどすぐにあの女の子だって分かりました。

僕は…きっと恋をしていたんです、3年前のあの日から…」


ハルカの方に目をやると、大粒の涙を流している、そして…

「私も!ハルキさんの優しさのお陰でここまで生きてこれたんです!あの日!ご飯を食べさせてくれた優しい男の人が居なかったら私はもう心が折れていました!あなたのおかげなんです!

ヒロキさん!!大好きです!」


「僕も、毎日のハルカさんの頑張りを見ていなかったらもう店を畳んでどうなっていたか分かりません!

ハルカさん!僕と結婚して下さい!」


「はい…!」

ハルカは当たり前だがプロポーズを受け入れ、二人は夫婦となった。

まさか3年間両思いだったとは…まあ僕達なんかいなくてもいずれこうなってたような気もする。


店も繁盛したしもう大丈夫だろう。

ポメヤも流石に軽口を叩かず嬉しそうに二人を見ている。


「それじゃ、僕たちは明日出発するからさ、お幸せに」

「ケンカしちゃだめですぞー」


二人に深々と頭を下げられて御礼を言われ、僕達は宿に戻った。


「いやーイイもん見ましたぞ、ナイスな展開」


「確かになぁ、僕たちまで嬉しくなったよな。」

気分よくベッドに入り、僕達は眠るのだった。


翌朝、宿屋を出ると……最悪だ…

スライム族が待ち構えていた。

そして僕たちを確認すると膝をついてこう言った。


「我らが王、お迎えに参りました」


他人の恋に夢中になって長居しすぎた…最悪だ…


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界転移ぶらり旅〜間抜けな相棒と異世界を旅していたらいつの間にか王にされたんだが? 自来也 @POMESU3129

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ