第31話 恋の町、人狼の町その2、喫茶店を盛り上げろ!

夜、宿屋にて、


「うーんまずどうすれば良いかって話ですぞ」

小さな魔物のポメヤは頭を悩ませる。


「お前は絵が天才的に上手いんだからそれ飾ったりしたら?」


「それも良いですぞ、でもまだ足りないような…」


まあ確かに…素晴らしい絵がある喫茶店は魅力的だが繁盛させるとなると弱いような気もする。

新商品とかあれば…


あぁ、フェアリーの国でアイス作ったな、あれは転移前の世界にモノだし売れそうだ、甘いミルクとかいう商品あったしレシピを届けよう。


「アイス美味しいですぞ!売れる気しかしない!」


決まりだな、明日の朝ハルカと待ち合わせしてるし町を案内して貰って準備しよう。

明日は忙しくなるので今日は早く眠るのだった。


翌朝、宿屋の前でハルカは待っていた。

ポメヤに買ってもらった新しい服だ、淡い黄色のワンピースタイプのドレス、よく似合っている。


「よく似合ってますぞ!いいよ!すごくいい!」


「ちょっと恥ずかしいけど色んなお洋服着るのってワクワクするね!今日はどこいくの?」


「まず画材が売ってる店とかある?ついでに絵も書ける場所あったら良いんだけど。」


「それなら絵描きのお爺さんがやってる店で揃うと思う、絵を描く場所も中にあるよ」


ハルカに案内してもらい、案外近くにその店はあった。

「おぉ!爺さんだ!爺さんですぞ!画材一式買うからアトリエ貸して欲しいですぞー!」

店主のお爺さんはこの勢いにびっくりしていたが、ポメヤが爺さん爺さん連呼すると、すぐに心を許した。


「人狼ってどんな絵が好きなの?」


「夜の綺麗な絵とか私好き!でもやっぱり店主に聞いた方が良いんじゃないかな?」


それもそうだとお爺さんに聞いたところ、夜の風景画がよく売れると言っていた。

あまり人物の絵は描かないので分からないそうだ。


「んじゃそんな感じらしいぞ、頑張れよー」


「任せろですぞーはいやー!」

ここはポメヤに任せて僕達はアイスの用意をしよう


「あの…別に疑ってる訳じゃないんですけど…大丈夫なんですかポメヤさん…」

そりゃあんな間抜けな顔した魔物が絵なんか描けるとは誰も思わないだろうなぁ…

でも心配しないで欲しい、アイツは天才だから。


「まあ大丈夫でしょ、次は金物屋に行きたいんだけど」


「うーん…まあトーマさんが言うなら…。金物屋はこの先にありますよ。」

金物屋で大きめのボウルと小さめのボウルを買い、その他調理器具も複数買って店を出た。


「もう書き終わる頃だから戻ろうか」


「え?まだ30分も経ってないですよ?」

絵描きの爺さんに店に戻ると人だかりが出来ていた。

その中心には絵を書き終わってのんびりしているポメヤ、目を丸くしている爺さん。こうなるんだ、コイツが絵を書くと。


絵は8枚ほど出来上がっており、半分が夜の風景画、半分は人物画だった。

夜の風景か…確かにコイツと旅して沢山の夜を共に過ごした。


星空の綺麗な丘

虫の光で照らされた川

満月に吠える魔獣

月明かりの下で子供を守り眠る親子の魔獣


確かに色々あったなぁ…


人物画の方もすごいな…

驚いた顔の爺さんと絵の具を飛び散らせながら絵を描くポメヤ

夜の街を歩く二人のカップルの後ろ姿

おばあちゃん人狼と孫が玩具屋で玩具を選ぶ様子、

新しい服を着て笑う可憐な少女、あ、これハルカか


ハルカは自分の絵を見て固まっている。

「ポメヤさんって何者なんですか…」


基本的に間抜けだから気にしなくて良いよ。


幾らなら売ってくれるんだと騒ぐ人狼、非売品って売れるの?とか言うポメヤ。


「ポメヤー書いたなら行くぞー、8枚も飾れないから数枚この店に置いていけよー」


「はーいですぞー、じゃあこれとこれとこれ以外は爺さんの店で好きにしていいですぞ。」


その後、置いていった絵は一枚は店先に飾られ、その他はとんでもない額で売れたらしい。

持ってきた絵は3枚、1枚はハルカの絵だ、一際目を引いたので当然だろう。


それらを持って例の喫茶店へ、別にコソコソする意味も無いのだけれど、なんとなく今回は自然な感じにしたい。恩着せがましくならないように。


喫茶店に入るとガラガラだった、やはり繁盛はしていない。


「あ、昨日の旅人さん、いらっしゃいませ。」


「どーもですぞー」「こんにちはー」「ど、どうもです」


席に案内され、僕以外はミルクを注文、僕はアイスコーヒーだ。この店は普通に美味しい。


注文したものが届き、僕はわざと持って来た絵を見る


「うわぁ…素晴らしいですね、高かったんじゃないですか?」

食い付きが良くて助かるよヒロキ君。


「いやこの絵ポメヤが書いたんだけど大きくてどうしようかと思って、持っていくのは邪魔だし捨てるのはもったいないし、この店に飾ってくれたりしない?」


「え?良いんですか?是非にでもお願いしたいですが…その、お金が…」


「タダでいいよ、3枚ともあげるよ、持っていけないし」


「3枚も?他の絵はどんな…」

ヒロキはハルカの絵を見て見惚れてしまった。


「この絵ってアナタの絵ですよね、とっても綺麗で力強い、良いんですか?飾っても」


「い、イイですよ!私ハルカっていいます!よろしくお願いします!」

緊張してるなぁ…


「ハルカさんって言うんですね。嬉しいなぁ、殺風景だと思ってたんですけどこれを飾ったら雰囲気が明るくなりますね、お客さんも来そうだ。お礼になるか分からないですけど今日は僕のサービスという事で」


「え?いいの?じゃあお礼ついでに僕達の故郷のお菓子があるんだけど作るの手伝ってくれない?甘いミルクとあと果物なんかあったら嬉しいんだけど」


そんな事で良いならと厨房を使わせてもらい、氷の魔石を使ってアイスクリームが完成した。


「これは…素晴らしいお菓子だ…すごいなぁ、世の中には知らない事がまだまだあるんだ…」

感心しながら食べるヒロキ君、美味しいと連呼するハルカ、バクバク食べるポメヤ…


「懐かしい味だった、ありがとう、良かったら道具置いて行くから店で出せば?旅に持っていくにはちょっと邪魔なんだよね」


「良いんですか!?すごい人気になりそうです!」


「初めはみんな分からないからお店の外で作って試食して貰うと良いですぞ!知名度をあげればこっちのもん」


「ハルカはヒマだって言ってたから手伝ってあげたら?僕達はやる事あるから手伝えないけど。」


「え?は、はい!手伝えます!手伝い続けます!」


「お、お給料は出します!お願いします!」


なんか良い雰囲気だ。ぶっちゃけ言えば何してんの僕達だが、たまにはこんな事もしたって良いじゃないか。


すぐに準備します!と意気込んで厨房で作業するヒロキ君、ちょっとだけ気になっていた事があるのでハルカに聞いてみた。


「気になってたんだけど、なんでヒロキ君の事好きになったの?一目惚れとか?」


「な!急ですね…実は…


ハルカが昔花が全く売れなくてお腹がすいてどうしようもなくなり、泣きながらこの店の前を通ったそうだ。

店の中に目をやるとヒロキ君と目が合い、ヒロキ君は駆け寄って来てくれた。

理由を話すと売れ残った花を全部買ってくれてご飯まで食べさせてくれた。


会いに行きたいけどボロボロの服が恥ずかしくてずっと外から見るだけだったらしい、三年間


え?三年?長くない?

「三年も見てたんですぞ?あそこから?ずっと?よく通報されなかったですぞ」


「なんかこう、ギリギリを攻めていたから…」


隠密じゃん…まあそれは惚れるのも頷けるな。

そんな話を聞いていたらヒロキ君が準備をして出てきた。


「それではハルカさん!宜しくお願いします!」


真っ赤な顔でイソイソとアイスを作る2人、なんて愛らしい事。

僕達は邪魔をしてはいけないとその場から離れた。


数時間後、時間を潰して喫茶店の様子を見に行くと…

「これはやっべぇですぞ、2人死ぬかも」


大行列の先に目を回しながらアイスを売る2人、2人の距離は急接近!?なんてしてる暇なんてない、もう…世界の終わりのような顔をしている。


「手伝うか…」


「まあそうですな…」


僕達はミルクが切れるまで永遠にアイスを売りまくった。

終わったのは夜の9時を回ったところ。


3人と1匹は喫茶店内で死にかけの金魚のような目をして椅子に座っていた。


「なんか売り上げがとんでもない事に…というか毎日これでは身体が持ちません…」

ヒロキ君…ちょっとだけごめんの気持ちだよ…


「確かに…やりすぎは良くないですね…」

そうだね…限定商品にして仕込んだ分だけ売ろうね。


「ですぞ、で、ですぞ」

お前の絵はまだ見てもらってないな…ドンマイ


まず成功を喜ぼう、明日は朝仕込んだ分だけ売ろう。その他は通常営業で良いだろう…


「あの、ハルカさん!」

ヒロキ君が口を開く。


「は!はい!」


「正式にここで働いて貰えませんか!?」

ヒロキ君は頭を下げる、まあ1人で回せる店ではなくなったしな。


「は!はい!よろしくお願いします!」


良かった、頑張った甲斐がありました。


「トーマさん!ポメヤさん!本当にありがとうございます!これで店を畳まないで済みそうです!」


「良かったですぞ、明日も様子見にくるからね、明後日には出発だけど」


「そうだな、明日1日ゆっくりして出発だな」


明日は今日の疲れを取らないとな、恋の行方も気になるけど…


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