第30話 恋の町、人狼の町

「報奨金とか言ってやってる事懸賞金ですぞ、困るじゃん、普通にさ。君もそうだろう?」

小さな魔物は僕を短い手で指差しながら喋り出す。


「たまに出るその鬱陶しい喋り方どうにかなんないの?」


僕達はそんな会話をしながら次の町に向かって歩いていた。

確かに理由はどうあれ追われる立場だ、一度帝国に行って話をつけた方が良いかもしれない。


「次は人狼、ワーウルフの町ですな、ワンワンパークですな」


人狼だからワンワンでは無いよ?分からないけど町に入ったら絶対言わないで?怒られそうだから。


しばらく歩いていると人狼の町が見えてきた、そこそこ大きな町だ、レンガで出来た町並みがとても美しい。


「なんかかなり楽しそうな気配がするですぞ、期待に膨らむよね、ここんとこ」

ポメヤはどこかが膨らんでいるらしい、面倒なので無視しておこう。


入り口はアーチ状になっており、1人の番兵が椅子に座ってのんびりしている。


「すいませーん、観光ですけど通っていいですかー?


「どーぞ、どーぞ、楽しんで行って下さいね。」


帝国が滅んでからというもの、世界は平和になった。悪者がいないとこんなにも生きやすいのか…

血は流れたが正直これで良かったのではないかと思ってしまう。


町に入ってすぐに宿屋があったので部屋を取って荷物を置く、そして町に繰り出したのだった。


「なんか活気がありますな!これは負けてられん!」


そうか、負けんなよ


市場には食材が溢れ、喫茶店や玩具屋、薬屋もあるのか、色々あって久しぶりにテンション上がるな。


しばらく歩いていると物陰から喫茶店を覗く怪しい女の子を発見した。


「おーい、何してん!不審ですぞ!」

ポメヤがなぜか大声で声をかける。


「ひゃっ!」

人狼の女の子は驚きながら恐る恐る後ろの振り返ると…

間抜けな顔したチビの魔物が座り込んでいた。


「ごめんな、コイツ久しぶりの町でおかしくなってんの。いや本当にごめんな。」


「びっくりしたぁ!何?旅人?急に大きい声出さないでよ!」

真っ白な髪にグレーの目、ボロボロの服を着た女の子は普通に怒ってる…ポメヤ、謝れ、お前が悪いぞ。


「んであの喫茶店にいる青年をコソコソ見て何してたんですぞ?まあ恋だろうけど見てるだけなら僕だってできますぞ。」


コイツ話そらすの少し上手いな。


「べ、べべべつにぃ?何か仕事で失敗しないか監視してただけだしぃ?はぁ?意味分かるぅ?」


分かりません、とりあえず落ち着いて。


「ふーん、楽しそうですぞ、僕も見よーっと」

お前本当にやめろよ…せっかく話逸らしたのにまた怒られるぞ。


しばらく喫茶店を見つめる二人と一匹。無駄な時間ほど無駄な物はないんだと知る。


「僕喉渇いたしぶっちゃけ何も感じないのであの喫茶店行ってくるですぞ。トーマも行くっしょ?」


行くっしょ?なんてどこで覚えたか知らないけど結構使わないで欲しい。


「まあ行くよ、こんな事する為にこの町来た訳じゃないし、君も来る?えーっと」


「ハルカよ、ハルカ。私は遠慮しておくわ…こんな格好であの店に入れないし…」

ポメヤ君、驚かせたのは君だし面倒に絡んだのも君だよ?お金使う時じゃないの?


「任せろですぞ!付いてきな!」


ポメヤはハルを強引に引っ張って買い物に行った。

「おーい、僕は先に入って休んでるからなー」


「勝手にしやがれー、席取っとく人になればいいですぞー」

「どこ連れてく気ー!?」


ふぅ…


僕は久しぶりにのんびりできる事に喜びを感じながら店に入った。


「ご注文はお決まりでしょうか?」

さっきの青年だ、接客業なので身綺麗にしているが、なんというか普通だ。

すごいカッコいいとかでも無いし…大人しそうな子、優しそうだがとびきりモテるという感じでも…


「あの、ご注文は…?」


「あぁ、ごめんね、アイスコーヒーを頼むよ。」


かしこまりましたと頭を下げてカウンターへ戻って行った。店員1人しかいないようだけどオーナーだろうか、それにしては若いような…


「こちらアイスコーヒーです。」


テーブルにコーヒーを置いて去っていく青年、なんか絵になるなぁ…。

のんびりと窓から町を見ているとバタバタとハルカとポメヤが走り回っている。服を買う前に髪の毛を整える為に美容院に行ってるようだ。


付いて行かなくて良かったほんと…


僕がコーヒーのおかわりを飲み干すタイミングで入り口のベルがチリンと鳴った。


「あそこのコーヒー飲んでる死にかけの連れですぞ」


生きてる生きてる。むしろお前がいない時間で生き返ったよ。


ポメヤの後ろから顔を覗かせる

……だれだあの美少女

髪の毛は綺麗に整えられ、可愛いヘアピンまで付いている、服は清楚を思わせる白のワンピースだが、細部に刺繍が施されており、気品すら感じる。

靴までそれに合わせて白で統一されており、なんというか、可憐だ。


「こんにちわ…」

ハルカは恥ずかしそうに挨拶した。


店員の青年は見惚れていたようで、しばらくしてハッと我に帰り席まで案内する、これは良い感じでは?


「ポメヤってほんとセンスだけは良いよな。」


カッカッカと笑い席に着き、ミルク甘めとかいうのを注文していた。

ハルカも同じものを注文し、ケーキも勧めたところ喜んで注文していた。


「結局どこ行ってきたんだ?ハルカ疲れなかった?」


「入った事ないお店ばかりで緊張したけど楽しかった!服もいっぱい買ってもらって一回家に置いて来たんだ!美容院も初めてで自分で切るのと全然違うの!あとはね!あとはね!」


楽しかったんだろうなぁ…こっちまで嬉しくなる。


そんな会話をしていると青年がミルクとケーキを持ってきた。


「ありがとうですぞ!ところで青年はここの店主なんですぞ?」

急だな、でも良いぞ、お前ならどのタイミングでも大丈夫なキャラだ。


「はい、父が亡くなってからなんとか一人でやっています。経営はギリギリですが思い出の場所なので…」


「恋人とか作って夫婦でやったらいいですぞ。一人より二人の方が楽しいですぞ。」


いいぞーポメヤ行け行け!


ハルカは真剣な表情で話を聞きながらミルクを飲んでいる。


「僕みたいなのに恋人なんて出来るわけないですよ。地味だし収入も少ないし…」


ハルカはちょっと嬉しそうだ。見てるだけで楽しい。


「へーそうなんですぞ…まあ頑張るですぞ!僕はポメヤ!この男はトーマ、さっき出会って無償で町を案内してくれてる優しいこの子はハルカですぞ!」


「そうなんですね。町を楽しんで行って下さい。僕はヒロキって言います。毎日営業しているので良かったら通って貰ったりしたら嬉しいです。」


そう言うとカウンターへ戻って行った。


「ヒロキさんって言うんだぁ…」

顔を赤くしてミルクを飲むハルカ、応援したくなる。


しかしポメヤの今回の活躍には目を見張るものがあった。いつもこのくらい気が利いたらいいのに、僕にも。


ハルカはヒロキを横目で見て目が合うとサッと目を逸らしてミルクを飲む、そんな事を繰り返していると外が暗くなってきたので僕達は店を出た。


「今日はありがとうございました、最初怒鳴っちゃってごめんなさい…お洋服も靴もありがとう…」

少し寂しそうだ、どうかしたのだろうか。


「でも私…貧乏だからあの店にもう行けないかも…」


「ハルカは何の仕事してるの?」


「私何も出来ないから町の外でお花摘んで売ってるの、でもそんなに売れないし…」


「じゃああの喫茶店で働けばいいですぞ!」

いやポメヤよ、経営もギリギリって言ってたしバイト雇う金なんかないだろ。

せめてもう少し繁盛したらなぁ…。


あ、ポメヤの絵とか飾れば人気出るんじゃないか?


「僕達が陰ながらあの喫茶店を繁盛させてハルカをバイトさせられるくらいの店にしますぞ!」


「え!?いやそこまでやって貰うのは流石に申し訳ないというか…」


確かにそうだ、僕達は色んな町を回る為に約束をしている。


最低1日は滞在する

身の危険を感じたらすぐに町を出る

次の日に約束などをした場合はその約束を守る


しかし最近バタバタしすぎて少し疲れた。

たまにはゆっくりしたいんだ、きっとポメヤもそう思ってる。


「いや、ヒマだし良いですぞ、楽しそうだし」


つまりそういう事だ。

明日からあの喫茶店を繁盛させるぞ!陰ながらね!

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