第29話 ダークエルフのヤラセ狩りツアー
「ヤラセですか?」
ダークエルフのメージュは意表を突かれたような声を上げた。
「まあ狩りツアーに参加したとして、今日は獲物が見つからないので帰ります、なんて事になっても困りますし、そのうち多分なります。」
常に大勢でゾロゾロ歩いて獲物を見つけたら囲んで滅多刺しなんて普通の魔物だったら逃げる。
「ドラマな感じあったら良いですぞ!人気でますぞ!」
「ドラマとはなんでしょうか…」
「例えば、ガイドと客は安全な場所から見てるだけだけど、急に魔物が客の後ろに現れて、それをガイドがカッコよく倒すとか、まあドキドキする感じだよ。」
我ながらひどいがまあ伝わるだろう。
「ゴミみてぇなドラマですぞ、誰が見んだよそんな三文芝居、いいか、ドラマっていうのは…」
ポメヤは数分喋り続け、結局世界を救う話になった。
メージュさん、しっかり聞いてるけど半分以上分かってないだろう。
「そこで僕はこう言ってやるんですぞ、ここは任せて…」
「ストップだ、なんでお前が出てくる。でしゃばんな」
ポメヤの妄想話で時間はかかったが、なんとなくメージュさんも把握したよう。
仲間達と相談してなんとかするそうだ。
宿屋に帰ってご飯を簡単に済ませてベッドに横になる。
「どうなると思う?」
「まあ逆に期待できるかも知れないですぞ、逆に面白い感じになったらそれはそれですぞ。」
僕達は少しの期待と大きな不安を抱えて眠るのであった。
翌朝
ドンドン!と扉が荒くノックされてメージュさんが部屋に入ってきた。
「おはようございます!狩りツアーが新しくなりました!昨日の事は一旦忘れて体験してください!1人2万ベルです!」
僕達は眠たい目を擦って起き上がる。
「えぇ…またお金取るの?」
着替えと朝食の時間を貰って広場に向かう。明らかに人数が昨日より少ない。
きっと森の中で準備でもしてるんだろう。
「朝のローテンションとこの絶妙な雰囲気で楽しめる気がしないですぞ…狩りは昨日見たし何を見に行くのかさっぱりわからん。」
そんな僕達を尻目に楽しそうなダークエルフ、まあ行ってみるか。お金取られたし…
メージュさんと一緒に昨日と同じルートを進む。
まずメージュさんの露出が増えていた。スカートは短くなり、胸元が露出している。
「メージュさん…その服って」
「気が付きました!?昨日考えて露出を多くすれば男性客は馬鹿だから満足するって話になったんです!別にそこまで恥ずかしくないし!」
「結構客の事舐めてる感じになってますぞ…まあ本音はみんなこんなもんですぞ。」
まあ実際効果はあるだろう、スタイル抜群の美女が露出の多い服で前を歩いて行くだけで喜ぶヤツは絶対多い。
メージュさんのお尻を眺めながら先に進んでいると…
「あっそう言えば!」
メージュさんが急に喋り出す。
「この森には大きな熊の魔物がいて、とても凶暴なんです。まあ滅多に出てこないし気にしなくて良いんですけどね。
あと狩りの最中は空気がピリついてますので些細な事で喧嘩になったりします。まあ滅多にそんな事無いんですけどね。
あとは狩りの最中に恋が芽生える事があります。まあ滅多に無いんですけどね。」
壮大なネタバレを食らった気分だ…まあお試しだし、気にせず楽しもう。
するとタイミングを見計らったかの如く前方から叫び声が聞こえる。
「うわああ!キングベアーの雄だぁ!今冬眠から起きたばかりで機嫌が悪いもんだから無茶苦茶だぁー!」
「クマらしいですぞ…冬眠から起きて機嫌の悪い感じの」
「そうだな…叫びながら説明してるな…」
するとメージュさんが慌てた様子で振り返り、
「皆さん!キングベアーです!焦らないで下さい!私の後ろに隠れて!」
数分待つと静かになり、先に進むとクマに最後の一撃を入れる所だった。動いてないので多分毛皮か死体だ。
「父親の仇きぃぃいいい!」
若者は泣きながら剣を突き刺していた。
「まだ喧嘩も恋も出てないのに新展開ですぞ…まあ良いけど。」
その後はもうひどいものだった。
獲物の取り合いでケンカし、乱闘に発展したのを遠くから眺め…
急に1人の若い女の子が男性に抱きつき告白したのを遠くから眺め…
急に川に飛び込んだエルフの服が透けているのを眺めてツアーは終了した。
「どうでしたか?!」
メージュさんは興奮して聞いてくる。
「まぁ、結論から言えば良いと思います。ただ狩りは前のものに戻してもいいかと…」
「えぇ?一生懸命考えたのに!」
「流石に見てる方が辛い演技はちょっと頂けないですぞ。」
「じゃあ良かった所というのは…」
「露出の多い服で前を歩くメージュさんと最後に川に飛び込んだ女の子ですね、正直これだけで良い気がしてきました」
結局狩りは前のものになり、狩りツアーはガイド役が3人に増えた。最後にダークエルフの川遊びを偶然見てしまうというツアーは大好評だった。
ダークエルフのみんなからは感謝され、僕達は出発の準備をする。
そこにメージュさんが紙を持って入って来た。
「今回って来たんですけどこれってトーマさんとポメヤさんによく似てる気がするのですが…」
そう言って見せて来た紙には似顔絵が載っており、
【王の器を持つ二人、発見し次第王都へ丁重にお連れする事、報奨金300万ベル】
「うわなんだこれ!僕とポメヤじゃないか!」
「きっと帝国を滅ぼせたのは僕達の助言のおかげだから感謝したいって話ですぞ。」
「王の器ってのはなんだ?」
「今王様がいないから僕達に王様やって欲しいって事じゃない?多分ですぞ?」
「王様なんてやった事ないよ!」
「やった事ある唯一の人間がこの前死んだんですぞ」
するとメージュが会話に割って入る。
「あの、王都行きませんか?私達で護衛しますよ?」
300万ベルの報奨金が欲しいのか…まあ当たり前だよな。
そして別に酷い事される訳じゃないし、まあ行きたくはないんだけど。
「バイバイですぞー」
「お二人ともお気をつけてー」
僕達は面倒な事になる前に村を出た。王様なんて絶対なりたくないもんな。
まだ僕達は旅がしたいんだ。
「メージュちゃん…500万ベルであっさりでしたな…」
「まあ良いだろ…お金あって良かったよほんと」
……………
ダークエルフの狩りツアーは連日高評だった。
男性客が圧倒的に多いのにはワケがある。
健康的な褐色のエルフが露出の高い服でどんどん前に進んでいのを眺めてるだけで元が取れる。
最後の川遊びを偶然発見するのも背徳感があって良いらしいのだった。
狩り?あの魔物イジメか?興味無いね。
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