妹の事を偏愛されている伯爵様。だから私はいらないのですね?
大舟
第1話
「お兄様、もう私サテラお姉様と一緒に暮らすのは嫌なの…」
「ルミア、今度はいったい何があったんだい?この僕にすべて話してごらん」
「はい…。私は今日、お姉様の部屋に行って、一緒にお食事でもどうでしょうとお誘いに行ったのです。そしたらお姉様、私と同じテーブルになんて座りたくないと言って、私に物を投げつけてきて帰れと怒鳴ったのです…。私はお姉様との仲を深めたい一心でお食事に誘ったというのに、いったいどうしてこんなことをされないといけないのかわかりません…」
「はぁ…。ルミアのやつ調子に乗って…」
広々とした伯爵屋敷の中において、クライス伯爵の妹であるルミアはそう言いながら兄であるクライスに泣きついていた。
ルミアが口にしているサテラという人物は、クライスが自身の婚約者として選んだ貴族令嬢である。
「お姉様からは毎日のようにこんな扱いを受けています…。私の事が気に入らないのでしょうね…」
「何度も何度も叱っているのに、一向に治す気配がない…。やはり生まれつきの性格だから無理というものなのか…」
「そんな…。私、これ以上お姉様と一緒にいるのはもう苦痛です…。お兄様、どうか私の事を助けてはいただけませんか…」
「ルミア…」
泣きそうな表情を浮かべながらそう懇願するルミア。
クライスは幼き頃からルミアの事を溺愛している性格であるため、そのようなお願いをされて聞き入れないはずがない。
「分かったよルミア。君がそこまで言うのなら、僕にはサテラはふさわしくなかったということなんだろう。僕にとって最も大切なのは君なのだから、その君の事をいじめてばかりのルミアに存在価値があるはずもない。僕との婚約関係を得ることができて安心して、君に高圧的な態度をとっているのだろうが、そんな相手はいらないということを教えてやらないといけないな」
「まぁ!!ありがとうございますお兄様!!それでこそ私の大好きなお兄様、きっと私の言うことを理解してくださると信じておりました!!」
クライスからの返事を聞いた途端、分かりやすくうれしそうな表情を浮かべるルミア。
彼女は最初からそれが目的でああり、こうなるであろうことを最初から予測していたのであろう葉、それでもこうして目的が達成された事を喜んでいる様子。
「(やっぱりお兄様は私の言うことを何でも信じてくれるんだもの。サテラからいじめられただなんてこと、あるはずがないというのにね。これだからお兄様の妹はやめられないわ♪)」
心の中にそう言葉をつぶやくルミア。
そう、彼女がこれまでクライスに訴えていたことはすべて嘘であり…。
――ルミアとサテラの会話――
「ねぇサテラ、私の大切にしていたお洋服がなくなっているのだけれど、なにか知らないかしら…?」
「はい?」
「ほら、青色が生地の袖が長くって…」
「ごめんなさいお姉様、私にはよくわかりません」
「…本当に?」
「……」
どこか疑っている雰囲気を発するサテラを前に、ルミアは悲しそうな表情を浮かべて言葉を返す。
「…まさかお姉様、私の事を疑っておられるのですか?…本当に本当に残念です、私は絶対にそんなことしていないのに…」
「…そう」
しかし、ルミアはその心の中でこうことばをつぶやいていた。
「(最悪、なんで私の事を一番に疑うわけ?義理とはいえ妹なわけでしょ?信じられないのだけれど。まぁやったのは私なんだけどね。それでも疑われるのは気持ちのいいものじゃないわ)」
ルミアはどこまでも自分のことを被害者にしたい様子。
そうする方がサテラの事を攻撃する上で都合がいいからだ。
「このことはお兄様にも相談しようと思います。お姉様が私の事をまるで犯人かのような目で見てきました。私がそんなことをするはずがないというのに…。私は本当に悲しいです…」
「……」
無言なままのサテラであるが、彼女はこれまでの過去から今回もまた同じことが繰り返されるのか、ということを想っていた。
ルミアの身勝手な行いはこれまでにも何度も行われており、その度にサテラはクライスから叱責を受けており、そのクライスの背中でルミアはほくそ笑んでいた。
クライスがそんなルミアの本性に気づくこともなく、サテラは全く悪くないということを察することもなく、同じことが何度も何度も繰り返されてきていた。
――――
「だからお兄様、もう何度も何度もお姉様は同じことを繰り返してきているのです。こんな相手、もう婚約者でも何でもないでしょう?あんな性格の悪い女を婚約者とするほど、お兄様は女性を見る目がないわけではないでしょう?」
「なるほど、君の目にはそう映っているか。僕は君の事を全面的に信頼しているから、君がそういうのならそれがサテラの本性ということになるな。はっきり言って、そんな相手など僕は求めていない。僕が求めるのは、伯爵としての僕とルミアの事を心から愛してくれる者のみだ」
ルミアがルミアである以上そんな相手など存在しないというのに、そこにも気づかないクライス。
一方で、自分の思い通りに事を運ぶことができたルミアは、一段と深い笑みを浮かべながら今後の二人の進展を悪い方向に妄想して楽しむのであった…。
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