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◇
「新入生勧誘として天体観測を企画しようと思う」
高森があからさまに嫌な顔をした。
「今月は中間テストがあるからその1週間前までにはやりたい」
浜本が何かを思い出したらしく、嫌な顔をした。
「19日からは原則部活動禁止だから来週中ってことだ」
晴山は黒板に11から19までの数字と曜日を書き並べた。
「準備や宣伝も含めて何日開催がいいか、みんなの意見を聞かせてくれ」
「はいはーい質問!何時からどこでするの?」
浜本が間髪入れずに質問した。確かに、場所や時間は日取りを考える上で最初に聞いておきたい。
「場所は河川敷の広場で考えてる。時間はあまり遅いのは不健全だから遅くとも9時には解散かな」
「9時って街明かり明るそうだけど星とか見えんの?」
高森が言った。どうせ「やっぱやめとくか」となるのを狙っているのだろう。わかりやすい。俺も加勢するべきかもしれない。
「うーん、田舎だからそこそこ見えるはずだけどなぁ」
「西の空に金星と火星が見えるはずだよ」
珀人が言った。必要な時に必要なことをしゃべれる男だ。高森の企みは早くも打ち砕かれた。
「じゃあ金星と火星の観測をメインで企画しよう」
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__その後も会議は踊り、最終的にはちょうど1週間後の18日木曜日にゴクセンの引率の下で夕方19時から『星を見る会』を行うことでまとまった。新入生への宣伝も明日の昼休みから行うことに決まった。
「土曜日にできたらよかったんだけどな」
「うん。まぁ時間が足りないから仕方ない。俺がもっと早く思いつけばよかった」
「いや晴山はよくやってるよ」
「ありがとう。先輩たちが代々存続させてきた部活だからそれを自分の世代で潰しちまうわけにはいかないからな」
本当に晴山はよくやってると思う。むしろ俺や高森や珀人は働かなさすぎだ。それは多分協調性がないというのもあるが、そもそもみんなで何かをするという部活ではないせいだと思う。
俺は屋上で雲を眺め、晴山は星を見たり雲を見たり天気を予測したり、高森は鳥や景色をたっかいカメラで撮影し、珀人は夜中に星を天体望遠鏡で見つめ、浜本は……よくわからないけど、彼女は空をただ眺める。
みんなバラバラの趣味だ。そんな俺たちを巡あわせたのはこの天望部の存在で、天望部がなければ出会っていなかっただろう。
しかし天望部がなかったとしても俺たちが趣味に困ることはない。みんな1人で完結できる。
じゃあ、俺たちを結びつけている天望部とは一体なんなんだろう。
◇
「深川先輩連れてきて新入生勧誘してもらえばみんな入部するんじゃない?」
自転車置き場で自転車をどこに停めたか忘れて探している浜本が言った。高森は結局途中で抜けて自転車でバイトに向かった。晴山と珀人と深川は徒歩通学だ。
「うーん、一理はある」
深川先輩は高身長な上非常に面がいい。世に言うイケメンというやつだ。ジーパンに無地の白Tシャツとかだけでもめちゃくちゃかっこいい。在校時から相当女子からモテていた。ファンクラブとかもあったんじゃなかろうか。
「でもそれ詐欺みたいなもんだろ」
あったあったと言って浜本が鍵を自転車に差し込んでいる。ロードバイク的な自転車。
「卒業した深川先輩と知り合える可能性があるってだけでも入部する価値あるでしょ」
自転車の鍵が開く音がカシャンと鳴り浜本がこちらを振り向いた。揺れる髪が夕日に照らされて毛先が金色に輝いているように見える。
「そんな深川先輩目当てで入部するやつに碌なのいなそうだな」
と言うと浜本がジト目で無言の圧をかけてきた。……こいつまさか深川先輩目当てで入部したのか?
「ま、いざとなれば深川先輩に知恵をお借りしましょー」
すいーっと自転車に片足をかけて門の方に向かう浜本を俺は自転車を押しながら追いかけた。
「あ!飛行機雲!」
「結構残ってるな、明日は雨かもなー」
「そういえば星を見る会の日雨だったらどうするか考えてなかったねー」
「ま、明日でいいだろ」
少し急な坂に差し掛かり自転車が速度を上げた。
暗くなっていく空を切り裂くように、西日に照らされた黄金色の飛行機雲が輝いていた。
机の中、横は空 山木 元春 @Yamaki_Motoharu
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