1-2 スーツの男とムニムニの奴

扉を開いて外に出てみると


「おりゃー、せいっ」


剣を振るうスーツの男と沢山のスライムが戦っている。


「ムニムニと動くな、気色悪い」


スーツ男が地を這うスライムに剣を突き刺しこちらに振り向くと、スライムが炎に包まれる。


「おうっ、誰だお前は?」


「えっ、あっ、俺っ?ゾムです。ゾム・ゴブリでって、あっ危なーい」


ズキッン


(あっ、頭が)


「余裕で見えてるぜ」


スーツ男は後ろから飛びかかるスライムを振り向き様に真っ二つにする。


ズキッズキッ、、ズッッグム


(ああ、あの後ろ姿は・・)


――――――――――――――――


「うわぁー、怖いよ、ママ助けて、ママー」


「大丈夫よ大丈夫、望は」


周囲はバタバタと逃げ惑う人々の群れ、街の真ん中で飛び交う怒号や罵声


「にっ逃げろ、邪魔だ・・・」


パン パン パパン パン


「うわー、銃声だー」


「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、何だってアイツらが邪魔しにくるんだよ。おい、兄貴達は?」


黒いスーツの男はマフィアの構成員で自分より下っ端の男に怒鳴る


「ハッハッハッ、フレディーの兄貴、これからどうすれば・・・ケインの兄貴もマイキーの兄貴も龍符ロンフ達に何発も撃ち込まれてどうなったかわからないです」


「バッツもアインもやられちまった、お前と俺しか残ってないのか・・・おまけにこっちの獲物はナイフとハンドガンだ、こんなんじゃ龍符から逃げられるわけない」


やくも奪われてウロロッチの奴らも皆殺しだったみたいです。残ってるのはこの金だけですよ」


「どうにかして、この金だけでも持ってボスのところに戻らねぇと」


マフィアの抗争に巻き込まれないように人々は逃げ去っていたが路地に隠れるように母子が逃げ遅れていた。


「ちょうどいい、コロンそこの二人を連れてこい。こいつら盾にすれば、龍符の野郎共でも一般人を巻き込んで撃ってきたりはしないだろ?」


母子に近づくと、母親が子供の前に立ち塞がった。


「すみません、どうか子供だけは助けて下さい。私はどうなっても構いません。どうか子供だけは」


母親は必死に子供を庇い説得するがマフィアの男は聞く耳を持たない。


「うるせえ、日本語なんて何言ってんか分からねぇけど二人ともこっちに来い」


マフィアの男は金の入った鞄を片手に子供を抱えて持ってもう一人は母親を盾にして逃げ始めた。


「よしっ、後少しでホテルだ。ここまでくれば安心だ」


「兄貴の思った通りこの親子を盾にしたおかげでアイツらも追って来なくなりましたね」


バンッバンッ  ドサッ


「うわぁーママっ、ママー」


「望、あぁ望、お願い神様、望の命だけは・・・」


マフィアを追っていた奴らはホテルの前で待ち伏せし、母親を盾に逃げていた下っ端を人質諸共撃ち抜いた。


「こんな所まで追ってきやがって、うちとウロロッチファミリーの商談ぶち壊してやくを奪ったんだ、もう十分だろう?」


「十分?まだ金残てる。・・・それにお前返したら我らのしわざバレてしまう」


バンッバンッ


「うわぁー、あぁぁぁぁーカタが肩が、ママーかだがー」


少年の肩を銃弾が掠め後ろにいたスーツの男の胸に命中した。


「がはっ、はっ、はっ、日本でやられるなんて、平和な国が聞いて呆れるぜ。坊主、悪かったな。あぁついてな・い・・」


――――――――――――――――


(母が殺された時の記憶が、何で今になって・・・)


「おい、お前も見てねえで一緒に戦えや。コイツら斬っても全然きいてねぇ、すぐにくっついて元に戻っちまう」


「あぁ、こいつらはスライムって言って体の中にある核を破壊しないと倒せないんだ」


「何だ、お前詳しいのか?核を狙えば良いんだな。それっ、ひとっつ、ふたっつ、みっつ」


スーツ男はすごい速さでスライムをぶった斬り、しっかり核を破壊している。

余りの正確さにゾムが驚いていると、横からスライムが飛びかかってきた。


「あっぶねぇーぞ、ななっつ」


ゾムの目の前をスーツ男の剣が通り過ぎ二つに分かれたスライムは切り口から炎が現れ燃え尽きた。

突如現れた炎はゾムにも襲い掛かるが、慌てて顔を背けて躱そうとするが左頬に掠ってしまった。


「熱っつー、避け損なったー」


――ラーニング――

――スキル"火守性"を取得しました――


(何だ、ラーニングって俺のスキルだったよな。ヒシュセって何だ?って考えてる場合じゃない。あのスーツ男出鱈目に剣を振るうしらスライムも多すぎる俺も何か獲物がないと戦えない。こんな時こそ鞄に何か入ってるんじゃないか?)


ゾムは次元の鞄に手を入れると、何かが指先に触れた。

それらを掴み勢いよく取り出すと


――命中弾石――


「これって・・・石ころ?命中って名付いてるんだから投げたら当たる投擲武器って事か?」


ゾムが迷っているとスーツ男の背後からスライムが飛びついた。


「うぉっコイツ離れろ」


スーツ男がスライムを剥がそうと変な動きをしている。

ゾムは振りかぶって命中弾石を投げる。

通常よりスピードの乗った石は見事にスライムに命中し核を壊した。


(ほっほっー、この石ころ結構な威力があるんだね。俺のコントロールでちゃんと当たるって事は補正かかってますね確実に)


――レベルが上がりました――


「やるじゃねーか、俺様はマンリーってもんだ。そっちの奴らは任せた」


ゾムは任せられた方を向いてニヤッと笑い残りのスライムに向けて次々と石を投げた。

マンリーもスライムに突っ込み剣を振い続ける。

暫くたちゾムの手持ちの命中弾石が無くなると、マンリーも剣を鞘にしまう。

襲ってきたスライム達はことごとく核を破壊され消えていった。

スライムが消えた後に水色の石と瓶に入った液体が落ちていた。

二人は落ちているドロップ品を拾い集めて鞄に入れた。


「改めて俺様は"マンリー・エスシート"だ、よろしく!」


マンリーは手を出して挨拶をした。


(俺様・・・?)


「あっ、あぁぁ、俺はゾム・ゴブリよろしく」


ゾムも挨拶を返して握手を交わす。


マンリーは褐色の肌に高身長で細身の筋肉質な体格をしている。

見た目は金髪・金眼に高級そうなスーツを身に纏い、顔には頬から耳にかけて大きな傷跡がある。


「ゾム、お前・・・転生して来たんだろ?」

「マンリーさんも・・・転生者ですよね?」


お互いに服装や状況が不自然と感じ、同じ転生者だと確信した様だ。


「まぁ、お互いの身の上話は後にしてゆっくり出来る所まで移動しないか?」


気が付いたらゾムが出てきた建物は無くなっていた。二人の後ろは森が広がっており、前方には街道が見える。


「ところでマンリーさんは何であんなに大量のスライムに襲われてたんですか?」


「それは、俺様が転生した直後にあの辺の木を試し斬りに使って燃やしてたら、いつの間にか集まってきやがったんだ」


「あ〜それはダメですよ、スライムの好物は炭石だから燃やして炭化した木に集まってきたんだ」


「はぁ〜?炭化って何だ?」


「とにかくこんな森で木を意味なく燃やすと大火事になってもおかしくないし、スライムがまた集まってくるからやめて下さい」


「イヤ〜、神様のギフトの"魔剣まけんイブリース"が余りにもイケてるから早く使って威力を見たかったんだ」


マンリーは魔剣を掲げて鞘から抜いてみせた。

魔剣の刀身は赤く輝き禍々しいオーラを放っている。


「魔剣・・・少し刀身が揺らいで見える」


「この"魔剣イブリース"は炎を操り、斬って燃やす伝説の剣だ。どうだ俺様にピッタリだろう?」


マンリーが剣を振うと、剣筋の後に炎が後追いする。


ゴオゴオォォォ


「うん、凄い威力だとても似合ってるよ。でもマンリーさん・・・さっきも言ったけど無闇矢鱈と振るって炎を出すのはやめなさい」


「お、おう、そうか?まぁ後はこの袋の中に本が一冊だ。でもさっ、俺様がここでスライムを誘き寄せた結果、倒してレベルも上がって結果オーライって事だよな」


マンリーは魔剣を生き往々と見せたがゾムに戒められてしまい、剣を鞘に納めて軽口をたたいた。


「確かにレベルが上がった、体感で強くなった感じはしないがどうなんだろう?ステータスを確認してみるか」


「「ステータスオープン」」


――――――――――――――

名前:ゾム・ゴブリ

年齢:22歳

種族:転生者 貴人

職業:

Lv:3

力:G-

体:G-

速:G

知:B-

技:G  UP

魔:G-

運:B

スキル:短剣技 火守性(NEW) ラーニング 料理

装備:

――――――――――――――――


(やっぱり、耐性が追加されてる。能力もほんの少し上がってる)


「どうだったんだ?」


「レベル上がってました。レベル3です」


「まあまあだな、まぁ俺様には及ばねーが良かったじゃねぇーか。ちなみに俺様はレベル5だ。それもこれもスライムを集めた俺様のおかげだな」


「まだ言ってるんですか?どう考えても誉めた行いとは言えませんけどね」


マンリーはバツが悪く感じて話題を変えるためにゾムに質問した。


「ところでゾムも何かギフトを貰ったのか?」


「俺はこの鞄と財布だ。アイテムボックスで世界に一つしかない物みたい・・・後、俺も本を貰った」


「ブッハッハッハッハー何だ?鞄と財布?それだけなのか?財布なら俺も貰ったぞ、しばらくの生活費も入っていたしマジックアイテムだからいくらでもお金が入る、これなら銀行入らずだな」


「えっ・・・確かによく似ている」


(共有の財布ではないよな?)


「まぁ〜なんだ〜そういうこともあるな・・・まずはどっちの方向に行ってみる?」


ゾムとマンリーは森から離れ、大きな街道が交わる所まで歩いた。

街道の脇に案内標識が立っており

北・・・迷宮都市 北パトー

西・・・森林都市 ババイル

南・・・農業都市 南パトー

東の標識は折れて分からなくなっていた。


「何処に向かおうか?」


ゾムが尋ねると


「もちろん迷宮都市だ。俺様は冒険者になってこの魔剣で成り上がって見せる」


マンリーは街道を北の方へ歩き始めた。


ゾムも慌ててマンリーの後を着いて行く。

二人は街に着くまでお互いの事やこれからの事を話した。

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