第6話 謝罪会見

 八月七日


 俺は相変わらず、二人の部屋に寄生している。

 というのも、どうせ護衛をするのであれば一緒に住んだ方が楽だという理由からだ。


 これを年頃の女子二人から言い出すのだからやっぱりあいつらは頭がおかしい。


 ……まあ、単に俺が男として見られていないだけかも知れないが……


 急に住むことになった俺に、部屋はない。

 リビングで寝て、リビングで過ごす。

 部屋自体は相当広く、タワマンと呼ばれる部類なのだが、余っていた部屋はリビアの荷物で占拠されていて使い物にならない。


 片付ければいいだけの話なのに、リビアから触るなと指示を受けているので、俺は毎日ソファで寝ている。

 そのせいか最近は体が痛い。


 どうやら、こういう習慣的な痛みは再生の力では治してくれないみたいだ。


 俺たち三人は皆が学生だが、今は夏休み。

 学校に行かなくていい分、起きる時間も人それぞれだ。


 まず、一番早いのが俺。

 これはそもそもリビングで寝てるから深い眠りにつけていないだけである。

 大体、毎日5時くらいに目が覚めてはぼーっとしてるか、自炊するかの二択。


 金がないから作ってただけなのに、気づけばこの家の食事当番は居候である俺の役目になってしまっていた。

 所詮は男の一人飯だからそんな洒落た物は作れないのに、無茶振りで色々作らされるから数日で料理の腕が上がった気がする。



 次に起きて来るのは高坂。

 高坂は毎日6時という決まった時間に起きて来るから、夏休みとか関係なく同じ時間に起きるタイプの人間なのだろう。


 無言でソファに座ってニュース番組を流し、俺が用意したコーヒーを飲みながら、新聞に目を通す。

 一通りのチェックが終わったら、今度は文庫本に手を伸ばし読書タイムスタート。

 これらは全て俺と同じ空間のリビングで行われているが、何時間経とうとも高坂の口が開くことはない。

 彼女が口を開くのは、リビアが起きて来てからだ。


 最後に起きるのは、当然リビア。

 起床時間は毎回バラバラだけど、確実なのは時間が二桁(10時過ぎ)を超えるまでは絶対に目を覚まさない。

 仮にもアイドルとしての仕事もあるだろうと言うと、どうやら彼女は謹慎中らしい。


 謹慎中に外出まくってたけど、この前のあれは大丈夫なのだろうか?


 そもそもよく考えたら、俺がリビアと一緒に住んでいるのって相当マズいのでは?


 リビアは仮にもアイドルだ。

 どんなに性格が終わっていて、俺とあいつの間にそういった感情が皆無だったとしても、リビアは紛れもなくアイドルなのだ。


 アイドルが男と同棲している。

 こんな場面を写真にでも撮られたら、アイドル人生が一気に終わる可能性すらある。


 という考えをリビアが起きて来る前のリビングで何も喋らない高坂にぶつけたところ、なんと彼女が口を開いた。


「……まあ、リビア先輩なら大丈夫だと思いますけど」

「いやいや、アイドルに男がいるのはマズいだろ。しかも一緒に住んでるし」

「心配なら、先輩に直接言ったらどうですか?たぶんすぐに解決しますよ」


 それだけ言うと、高坂は再び黙ってしまった。


 うーん。これって相談してどうにかなることなのか?

 解決策はバレる前に俺がこの家から出て行くしかないような……というかその方向でお願いしたいんだが……


 まあ、何はともあれ俺は12時過ぎに起きて来たリビアに、高坂に話した内容をそっくりそのまま伝えることにした。


 俺の話しを聞いたリビアは小さな声で「あー、そんなこと」と呟くと、何処かへ電話をかけた。


「会見」や「週刊誌」などあまりよくなさそうな言葉が飛び交うこと、数分後、リビアは電話を切ると早足で自室に戻る。

 ドタバタと激しい音が部屋の中から鳴り響き、次に出て来たリビアは、無地の白シャツに紺のスカートといったお洒落な彼女にしては大人しめな服装に変わっていた。


「ちょっと会見行って来る」


 会見……?


 何が何だか分からないまま、彼女は会見に行くという言葉だけ残して、早々に家を出てしまった。


 一連の流れがいまいち掴めなかった俺は、たぶん全てがわかっているであろう高坂に声をかける。


「なあ、会見って」

「会見は会見じゃないですか?芸能人が不祥事を起こした時によくやる、アレですよ」


 あー、あれね。はいはい。

 ……って、え?


「謝罪会見ってこと?」

「まあ、急に開かれる会見は大抵が謝罪会見かと思いますけど」

「何を謝罪するんだ?」

「それはまあ、タイミング的に志氣先輩のことでしょうね」

「それってあれか?俺が一緒に住んでたのって、とっくに記者にバレてた感じか?」

「さあ?テレビでも見た方が早いと思いますよ。ほら、ちょうど今からです」


 高坂がテレビをつけると、そこには数十分前までこの家にいたリビアがいた。

 謝罪会見とは思えない程、いつも通りの堂々とした姿勢。

 そんな中、一人の記者が手を上げた。


『リビアさん。数日前から同年代の男性と同棲しているという情報が入ったのですが……この件について、何かお聞かせ願えますか?』

『何かも何も事実よ。で、それがアンタらに何か関係あんの?』


「———ッ!?」


 この発言には流石の俺も、というかこの会見を見ている全員が驚いたと思う。

 っていうか謝罪会見じゃないのか?

 なぜこんなにも堂々としているのだろう。


 記者の人もリビアのあまりにもな発言に、困惑している様子だ。


『あ、アイドルですよ?ファンの方々を裏切っているとか、そういう気持ちにはならないのですか!?』

『は?好きであたしのファンやってんでしょ。別に頼んだ訳じゃないし裏切るも何もないでしょ。あんた頭大丈夫?』


 相変わらずの口の悪さだが……何だか言い負かされてしまいそうな、そんな強さがある。

 まあ、よく考えれば事務所が禁止してない限り、別にリビアが誰と恋愛しようが関係ないもんな。


 だがその口の悪さに、リビアの隣に立つ女性は謝れとあたふたしているが、肝心のリビア自身が断固として頭を下げない。


『先に言っとくけど、別にあの男は恋愛対象でもなんでもないし、ただ親が一緒に住めっていったから住んでるだけよ。人の家庭の問題に首突っ込まないでくれる?今日はそれだけ言いに来たから。じゃあね』


 言いたいことだけ言うと、リビアは会場を去ってしまった。


 俺はリビアの発言で気になったところを、一緒に見ていた高坂に聞く。


「なあ、親の許可ってなに?」

「上が改竄したんでしょうね。私たちの親、グリムの上司になってるんで」

「あいつなんで会見したの?」

「さあ?記者が鬱陶しかったとか、そんな理由だと思いますよ」


 なるほどなるほど。

 まあとりあえず、これで問題解決(?)ということでいいのだろう。


 後日、大方の予想通りにネットは大炎上していたのだが、不思議なことに彼女のファンは減らなかったらしい。

 それどころか、ごく一部の層に爆ウケだったようでコアなファンが増えたのだとか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2024年11月26日 07:05

魔法が使えない失敗作の俺。なぜか美少女護衛が二人も付くことになったんだが ーー電子と魔法のアーティファクトーー 朽木桜林 @sou1234

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画