第7話 魔道具


「魔道具…?」


「そうです。ちなみに、そのような言葉を聞いたことはありますか?」


聞き覚えのない言葉に僕は首を横に振った。


「では、イメージしやすいように、少しその歴史について話してみましょうか」


ロイドはコホンと咳払いを一つ挟んで話し始めた。




「大昔、世界では『魔法』と呼ばれるものが大いに発展していました」


魔法…?

また、新しい言葉だ。

何なんだろう…


「魔法とは、目視することは出来ませんが、体内や空間に存在している『魔力』というものを使って扱う超能力…のようなものです」


超能力のようなもの…?

今のところ、ロイドさんが何を言っているのかまったくわからない。


内心が表情に現れていたようで、ロイドが微笑みながら補足した。


「例えば、指先から火を出したり、旋風を起こしたり、中にはある地点まで一瞬で移動するなんて魔法もあったみたいですよ」


なるほど、それはすごいな!


自分の指を眺めるながら思うも、もちろん、火なんて出てこない。

出てこられても困るし。


「なんとなく、イメージは出来ましたかね?」


ロイドの問いに「まあ、なんとなく…」と小さく頷く。


「では、続けますね」


「当時、魔法の発展に合わせて、研究が行われていたもの、それが『魔道具』なんです」


なんかロイドさんの目がキラキラしてきた。


「魔道具とは、魔力の濃度が著しく低い空間や、それ以前に魔力を感知できない人の対策を目的として製作された、物体内に魔法を込め扱えるようにした物全般の道具のことを指します」


高揚した様子のロイドが早口でまくし立てる。


「じゃあ、さっきの石も魔法が込められているってことですか…?」


「そうです…!この魔道具には、物を自在に出し入れできる収納の…っと長くなってしまいそうなのでここらで」


自分でブレーキをかけた。


それより、あんな小さな石に物を収納できるの!?

そんなの一家に一つは欲しい魔道具じゃないですか…!




あんな物が世界中にいっぱいあるのかな…?




「なんとなくわかっていただけましたか?魔道具について」


いつもの声色に戻ったロイドが服装を整えながら尋ねてくる。


「はい、面白かったです…!ところで、僕たちは魔法は使えないんですか?」


「…ええ、先ほどの説明では飛ばしてしまいましたが、エミルは興味がありそうなので、もう一つだけ話ましょうかね」


重々しく頷いたロイドは咳ばらいをすると口を開いた。



「結論から申しますと、私たちは現状、魔道具の使用以外で魔法は扱えません」


「先ほど説明した魔法文明そのものが既に失われてしまったことが大まかな理由です」


「無くなっちゃった…?どうしてですか…?」


「理由まではわかりません。大昔に高度な魔法文明が存在していたことだって、最近判明したことなんですよ。おっ、着きましたか」




ロイドの説明に聞き入っていると、辺りはいつの間にか見慣れた景色に変わっていた。


日はすっかり傾き、空は深い青が濃い橙をゆっくりと飲み込もうとしていた。




家の前に母が立っていた。


寒そうに腕を組んでいる母に手を振って合図すると、母も僕と隣を歩く紳士に気づく。


「お帰り。こんな暗くなるまで、大変だったでしょ」


母の口から少し白い息が漏れる。


「ただいま。でも、問題は解決できたよ!」


「そりゃあ良かった!さ、私はこの方に挨拶するから先に中に入っちゃいな。ごはんはできてるから、先食べてていいよ」



母に背中を押されるまま、家の中に入るとキッチンから美味しそうな匂いが漂ってきた。


ぐぅ~

お腹が鳴る。


今日は一日動きっぱなしだったのを忘れてた。

手洗ったらご飯食べよ~



ところでなんでロイドさんは僕の家の場所知ってたんだろう…僕別に先導はしてないよな?


まあ、いっか!


食欲に負けた僕は考えることをやめて、手を合わせた。




————————————————————————




「久しぶりね、ロイド、調子はどう?」


エミルの母が傍の木柵に体を預ける。


「ぼちぼちですかね。そちらは?カルナ」


ロイドがハットを取って、埃を払いながら答えた。


「変わらないわよ。楽しくやってるわ」


カルナがそう答えると二人はお互いフフッと笑みをこぼした。



「ところで、旅の話をしたんだって?エミルに」


「ええ、目的が必要だと言われたと相談を受けましたよ」


「あんたと過ごしてエミルは何か掴めたかしら」


「掴めたかどうかはわかりませんが、魔道具に少なからず興味を持っていましたよ。それと魔法についても」


「あんた、その話しちゃったの~!?」


カルナが頭を抱える。


「まあ、何度も尋ねられましたので…」


「そう…でも、仕方ないわね。これからどうするもエミル次第だしね」


「ええ、ただ、私の責任もありますから何かあれば連絡してください。しばらくはカンドにいますから」


そう言うとロイドはハットをかぶり直す。


「あら、もう行くの?久々だっていうのに、ご飯は?」


「また今度、時間があるときにゆっくりしましょう」


後ろに歩き去りながら、無邪気に手を振るロイドを見て


「変わらないわね」

カルナはそっと呟いて、微笑んだ。

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エミルと『百の導』 わだち @ssuraikakumei

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