第6話 解決!

少女の家に通されて、狭い廊下を進んでいく。


「ここの部屋です…」


一つの部屋の前で少女が振り返って囁いた。


ロイドが頷くと少女は部屋をノックして中に入った。


ロイドと僕も後を追う。


ちなみに黒猫は頑なに家に入ろうとしなかったので、外で待っていてもらっている。




「お母さん、ただいま」


少女がベッドからぼんやり窓の外の広場を眺めている少女の母親に声をかけると、声に反応した母親が振り向いた。



「あら、アリスお帰り。そちらはお客さん?」


少女、アリスそっくりのツヤのある赤い長髪が印象的なその女性はアリスから順に僕たちの顔を見て尋ねる。


「うん…」


アリスが小さな声で頷いた。



アリスの母が「じゃあ、おもてなししないとね」とベッドから降りようとする。


すると、ロイドが一歩ベッドに近寄って「少し話をしに来ただけですので、その必要はありませんよ。楽な態勢でいてください」と声をかける。


「話ですか…?」


戸惑いながらもベッドに身を引いたアリスの母に、ロイドは事の経緯を語り始めた。






「そんなことが…すみませんでした…!」


ロイドの話を聞き終えたアリスの母が声を震わせて深く頭を下げる。


顔をあげた母は、今度はアリスの方を向いて声をあげた。


「アリス…!なんてことしたの……あなたも謝りなさい…!」


ビクッと体を震わせたアリスだったが、すぐに母の傍に寄って母同様ロイドに深く頭を下げた。



「いえ、謝るなら通りに店を構えている果物屋の店主にお願いします」


ロイドが胸の前で手を振る。


「そうですね…すみません、娘のやったことのためにわざわざこんなところまで…」


「まあ、それもありますが、家まで通してもらったのは別の件で…」


すると、ロイドは内ポケットから四角い整えられた石のような物を取り出した。




「このことは出来れば、口外しないでいただきたい」


ロイドが口元に指を立てて、僕たち三人を見やる。


僕たちが頷いたことを確認すると、その縦長の石のてっぺんに軽く触れた。



すると——


ロイドの手にある石の真ん中辺りに薄っすらと切れるように線が入った。


ジーっと目を凝らして見ていると、今度はその線から上の部分が空中に持ち上げられているかのように、数センチ浮き上がる。


そして、石が分かれたことによってできた新たな隙間に青白い半透明な球体が現れた。


「ロイドさん…これって…?」


僕の問いかけに再び口元に指を立てたロイドは、その半透明な球体にそっと触れる。


触れられた球体は反応したように光ると、次の瞬間には最初にあった形に戻ってしまった。



なんだこれ…?

ほんとに現実か…?



「ロイドさん、今のって何なんですか?」


今、目の前で起こった出来事に追いつけない頭をなんとかひねって、再びロイドに尋ねる。


「今は説明しきれそうにないので後で話しますね」


そう言うとロイドはいつの間にか手に持っていた指先程度の小さな瓶をアリスの母に手渡した。


「これは何でしょう…?」


瓶を渡されて困惑した様子のアリスの母。


そんなアリスの母にロイドは笑顔で「その薬を飲んでみてください」と告げた。


「これですか…?」


アリスの母が不安そうに手の中の瓶を見つめる。


「はい、恐らく病気が治ります」


そう言い切ったロイドの目を見たアリスの母は意を決したのか、瓶を栓を抜いて中身を呷った。



「はい、これでもう大丈夫だと思います」


アリスの母から瓶を受け取りながらロイドが言う。


飲み終えた後、何度も瞬きを繰り返しているアリスの母を見ると治っているようには見えない。


「大丈夫って、お母さんはもう治ったの?」


アリスがロイドに尋ねるとロイドは「ええ」と優しく頷いて続ける。


「その薬に即効性はありませんが、遅くても一か月後には視力は元通りになっていると思います。私もしばらくはこの街に滞在していますので、何かあれば駆けつけますよ」


それを聞いたアリスが笑顔で母親に飛びついた。


「お母さんっ、良かったね、良かったね」


アリスの母は何度も目元を拭いながら、アリスを抱きしめ続けていた。





「バイバーイ!おじさん、お兄ちゃん、ありがとーう!」


サルベナの木の傍で、大きく両手を振るアリスとその横にチョコンと座っている黒猫に挨拶を返すと、僕たちはその小さな広場を出た。


こうして、一か月にわたるセルべド泥棒猫事件は幕を閉じたのであった。






「おじさんか…」


最後のアリスの言葉が刺さっているのか、隣を歩くロイドが何度もため息をついている。


「別にアリスちゃんだって傷つけようと思って言ったわけじゃないですよ。気にする必要ないと思いますよ。それより…」


アリスの家で起きた非現実的な出来事の方が気になる。


「あの石みたいなやつ、あれの説明してくださいよー」


そう言うと、ロイドは石の入った内ポケットを叩く。


「これのことですね、いいでしょう」


ロイドは指を一つ立て、声を潜めて言った。



「果物屋の前でも少し話しましたが…これが私の研究対象の『魔道具』です」

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