第52話 私にもお友達が出来そうです

「アンネリアの踊りが上手すぎて、皆が見とれていたね。疲れただろう?少し休もう」


 旦那様に連れられ、ちょっとした休憩スペースへとやって来た。そして2人で、ジュースを頂く。


 その時だった。


「旦那様、少し宜しいでしょうか?」


 ガウンが旦那様に話しかけてきたのだ。なんだか急用の様だ。


「悪いが今は、対応できない。アンネリアを1人会場に残しておく訳にはいかないからね」


「しかし…」


 困り顔のガウン。


「旦那様、私なら1人で平気ですわ。カレッサム伯爵夫人もいらっしゃいますし、何なら両親やアランもおりますから」


 ここでお友達のところに行って参りますわ!そう言えないのが辛いが、それは仕方がない事だ。


「でも、アンネリアを1人にしておく訳には…」


 渋い顔をする旦那様。私は本当に1人で平気だ。


「旦那様、私は子供ではないのです。ほら、早く行ってください」


 旦那様の背中を押す。


「分かったよ、それじゃあ、急いで片づけてくるから、君はここにいてくれ」


 よほど急用だったのだろう。旦那様が急ぎ足てその場を去って行ったのだ。さて、1人きりになってしまった。どうしようかしら?


 その時だった。


「アンネリア夫人、よろしければ私と踊ってくださいませんか?」


「いいえ、私と」


「私と一緒に踊ってください」


 なぜか一斉に殿方たちが私の元にやって来たのだ。これは一体どうなっているの?もしかしたら皆様、旦那様とお近づきになりたくて、私に話しかけて下さっているのかしら?


 ここは丁重にお断りしよう。


「皆様、私に気遣って下さり、ありがとうございます。とても有難い申し出なのですが、少し疲れてしまって。また今度、ぜひ一緒に踊ってください。それでは、私はこれで」


 笑顔でカーテシーを決め、その場を後にする。なぜか皆、頬が赤くなっていた気がするが、ここの会場、もしかして暑いのかしら?メイド長に空調を調整してもらう様に伝えよう。


「ついこの前まで、貧乏令嬢で社交界にすら出ていらっしゃっていなかったのに、よいご身分だこと。品のある貴族夫人なら、もっとスマートに振舞うべきですわ」


「本当ですわ、少し殿方からオモテになったからって、いい気にならないでほしいわ。どうしてこんな下品な女が、モテるのかしら?」


「あのビュッファン侯爵様と結婚するだなんて、どんな素敵な方かと思ったら、あんな貧相な方だなんて…」


 ん?女性たちの声が聞こえるわ。


 クルリと声の方を振り向くと、そこには扇子で口元を隠した女性4人が立っていた。どうやら私に話しかけてくれていた様だ。


 その上私の良くないところを、ご丁寧に指摘してくれている。こんな風に積極的に話し掛けて下さるだなんて、私にもついに貴族のお友達が出来るのかもしれないわ。


「皆様、ごきげんよう。あの、私の良くない点を今、教えて下さっていましたよね?私、最近貴族としての教育を受け始めたばかりで、どうすればもっと貴族らしい女性になれるのか分からなくて。もっと詳しくお話を聞かせて下さるかしら?もしよろしければ、私とお友達になって下さったら嬉しいですわ」


 4人に向かって、笑顔で話しかけたのだが…


「な…何なのあなた。頭が少しおかしいのではなくって。皆様、行きましょう」


 なぜかクルリと反対側を向いて歩き出した令嬢たち。


「お待ちください。あの、私、やっぱり貴族としては良くないのでしょうか?どこをどのように直したら、もっと良くなりますか?せっかくなので、詳しく話しを」


「付いてこないで頂戴」


 なぜか小走りで逃げていく女性たち。ちょっと待って!そんな思いで追いかけたのだが、中庭に出たところで、見失ってしまったのだ。


 せっかく同じ歳くらいの女性たちが話しかけてきてくれたのに、見失ってしまったわ。それにしても、どうして彼女たちは逃げてしまったのかしら?せっかくお友達が出来ると思ったのに。


 仕方がない、戻ろう。


 トボトボと中庭を歩きながら、ホールに戻ろうとした時だった。


 銀色の美しい髪の女性が、バラ園の前に立っていたのだ。月の光に照らされ、キラキラと輝く銀色の髪は、まるで月の女神様の様だ。


「なんて美しいお方なのでしょう。まるで月の女神様みたい…」


 ついポツリと呟いてしまったのだ。


 その瞬間、女性がゆっくりとこちらを振り向いた。暗くてはっきりと顔が見えないが、それでも整った顔立ちをしてるのが分かる。この人、どこかで見た様な…て、私ったら何を考えているのかしら?


「申し訳ございません、あなた様の髪があまりにも綺麗だったので、つい…」


 きっと来客よね。私ったら、いくら美しい方だとしても、それを声に出してしまうだなんて。


「あの…私の髪、美しいですか?」


 恐る恐る訪ねてくる女性。声もまた可愛らしい方だわ。

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家族の為に嫁いだのですが…いつの間にか旦那様に溺愛されていました @karamimi

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