第51話 パーティーが始まりました

「そろそろ来場者がやってくる頃だね。僕たちは一度控室に向かおう」


 旦那様と一緒に、控室に向かう。貴族の方たちが集まったタイミングで、私たちは入場するらしい。わざわざそんな目立つ事をしなくても…そう思うが、これが貴族のしきたりなのだ。


「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。君は僕の隣にいればいいのだから。貴族たちに話しかけられても、僕がフォローするし。相打ちを打ってくれていたらいいから」


「分かりましたわ、そうさせていただきます」


 相打ちなら私にも出来るだろう。


「そろそろ行こうか」


 いよいよ始まるのね。2人でドアの前までやって来た。この扉の先には、沢山の貴族が。私の緊張は、ピークを迎えようとしている。そんな私の手をギュッと握ったのは、旦那様だ。


 ふと旦那様の方を見ると、優しい眼差しで見つめていた。旦那様と目が合った瞬間、少しだけ緊張がほぐれた。そうだ、私には旦那様が傍にいて下さる。きっと大丈夫よ。


 何だかそんな気がした。


「旦那様、奥様、そろそろご入場です」


 ガウンの言葉を聞き、スッと旦那様の腕に手を添えた。大丈夫よ、何度も何度も練習したのですもの。きっと大丈夫。


 扉が開くと


「ビュッファン侯爵夫妻、ご入場です」


 ガウンが大きな声でアナウンスする。背筋をまっすぐ伸ばし、ゆっくりと入場していく。たくさんの人に見られているはずだが、一度始まってみれば緊張も落ち着いて来た。


 さすがに周りを見渡す勇気はないが、それでも真っすぐ歩いていく。


 そして


「本日は妻、アンネリア・ビュッファンの17歳のお誕生日パーティーに参加して頂き、誠にありがとうございます。私どもは、結婚披露パーティーも行わずに結婚いたしました。その為、この場を借りてアンネリアを紹介できればと考えております。社交界初参加とあって、慣れない事も多々ありますが、どうかアンネリアをよろしくお願いいたします」


 旦那様が挨拶と同時に、頭を下げたのだ。私も一緒に頭を下げた。その瞬間、大きな拍手が沸き起こる。


「皆様、今日はゆっくりとお過ごしください」


 旦那様の挨拶でパーティーがスタートした。どうやら最初の難関、入場と挨拶は無事終わった様だ。と言っても、私は立っていただけだが。


「アンネリア、初めてなのに随分と堂々と歩いていたね。さすが僕の妻だ。さあ、貴族たちに挨拶に行こう。と言いたいところだが、既に皆集まってきているね」


 既に私たちの周りには、沢山の貴族が集まってきているのだ。


「ビュッファン侯爵殿、お久しぶりです。ビュッファン侯爵夫人、お初にお目にかかります。まさかファレソン伯爵家の令嬢が、こんなにも美しい方だっただなんて、驚きですな」


 ガハガハと笑っている男性。この人は確か…


「クラウディア侯爵殿、お久しぶりでございます。はい、我妻はとても美しいので、本当は社交界になど出したくなかったのですが、そうもいきませんからね」


 私の肩を抱き、ぐっと自分の方に引き寄せる旦那様。ちょっと、何をなさっているの?さすがに失礼だわ。


「はははは、侯爵殿は随分奥様の事を溺愛されている様ですな。それでは私はこれで」


 よくわからないが、笑顔で去っていく男性。その後も次々とあいさつにやって来ては、愛妻家をアピールする旦那様。中には私に話しかけてくる方もいたが、全て旦那様が答えてくれるのだ。本当に私は、傍にいるだけでよいみたい。


「アンネリア様」


 この声は。


「カレッサム伯爵夫人、来てくださったのですね」


「ええ、もちろんですよ。今日のあなたの入場、パーフェクトでしたわ。凛として堂々と歩く姿、見惚れてしまうほどでした。さすが私の生徒ですわ。それにこの会場。アンネリア様が手掛けたのでしょう。とても素敵よ、ねえ、あなた」


 近くにいた男性に話しかけた夫人。この人はカレッサム伯爵で、彼女の旦那様ね。


「お初にお目にかかります、アンネリア夫人。妻からあなた様のお話しはよく聞いておりましたが、想像以上に素晴らしい女性だ。社交界デビューで、こんな素敵な会場を演出するだなんて」


「お褒めの言葉、ありがとうございます。カレッサム伯爵様。いつも奥様には、大変お世話になっております。カレッサム伯爵夫人のお陰で、私も人並みの貴族になれましたわ」


「アンネリア様ったら、お口が上手いのですから」


 オホホホホッと笑うカレッサム伯爵夫人。


 その後も和やかな空気のまま、貴族たちに挨拶をしていく。途中、両親やアランにも会い、挨拶をした。いつの間にかしっかり貴族らしくなった家族を見ると、なんだか私も嬉しい気持ちになれる。


「アンネリア、せっかくだから一緒に踊ろう」


 一通り挨拶が済んだと、旦那様に誘われダンスを踊る。ついに練習の成果を発揮するときが来た。そんな思いで、張り切ってダンスを踊った。


 なぜか途中から周りの人達が踊るのやめ、私たちを見つめていたのが気になったが、そのまま踊り続けた。


 そしてダンスが終わると、会場中から大きな拍手を頂いたのだ。きっと今日、貴族世界に飛び込んだ私の為に、皆がエールを送ってくれているのだろう。


 そう思うと、なんだか嬉しくてたまらない。パーティーは、こんなにも楽しいものなのね。

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