第50話 お披露目当日を迎えました

「リアナ、もう少しお花を多めに飾って。その方がより華やかに見えるわ」


「マーサ、お料理の位置、もっとこっちの方がいいのではないかしら?」


 今日はいよいよ、お披露目の日だ。昨日までに会場の準備をしたつもりだが、やはり当日もチェックしないと気が済まない。なんていっても、今日は私のお披露目も兼ねているのだ。


 それに我が家で行う大切なパーティー。旦那様の顔に泥を塗る訳にはいかない。最終チェックにも、自然と力が入る。


「奥様、随分と張り切っていらっしゃいますね。会場はもう完璧ですわ。どうか奥様は、ご自身のご準備をなさってください」


「そうね、そうさせていただくわ。メイド長、後はお願いね」


「承知いたしました」


 メイド長に後を任せ、自室に戻ってきた。物心ついた時から、実家は貧乏で、お茶会は愚か、夜会なんて参加したことがないのだ。そんな私が今回、主催者として公の場に出る。緊張しない訳がない。


 とにかく旦那様の顔を潰さない様に。それだけを頭に入れている。


「アンネリア様、そんなに心配しなくても大丈夫ですわ。あなた様は、度胸だけはあるお方ですから」


「そうですわ、アンネリア様。カレッサム伯爵夫人も、今のアンネリア様なら何ら問題ないとおっしゃっていたでしょう?胸を張って楽しんできてください」


 傍で私の準備をしてくれていたリアナとマーサが、笑顔で話しかけてくれる。


「ありがとう、そうよね。あまり肩の力を入れてもよくないわよね。分かってはいるのだけれど、緊張してしまって」


 生まれて初めて出るパーティーなのだ。この家でパーティーが主催される事を知ってから、何度も何度もダンスやマナーの練習を重ねてきた。カレッサム伯爵夫人やお母様からも、話しを聞いて来た。それでもやはり、緊張するのだ。


 何だか胃が痛くなってきたわ。


「出来上がりましたよ。ご覧ください、今日のアンネリア様、本当にお美しいですわ」


「もう、マーサったら。奥様はいつもお美しいですわ。きっと今日の奥様を見たら、旦那様はメロメロですわね」


「旦那様だけでなく、会場中の殿方がメロメロですわ。奥様の最大の武器は、笑顔です。笑顔を意識なさればいいのですよ」


「そうですわ、何かあっても、旦那様がフォローなされますでしょうし」


「旦那様の事ですから、きっと奥様から離れないのでしょうね…それはそれで問題でしょうけれど」


 何やらメイドたちが、盛り上がっている。ただ、私の事を心配してくれている事だけは、伝わったわ。


「皆、ありがとう。そうよね、笑顔でいれば何とかなるわよね。なんだか気持ちが少し軽くなったわ」


 マーサやリアナはもちろん、他のメイドたちとも、いつの間にか仲良くなった。皆私と同じくらいの年の子ばかり。そんな彼女たちの顔を見ていると、なんだか大丈夫なような気がして来たのだ。


 その時だった。


「アンネリア嬢、準備は出来たかい?」


「旦那様!はい、今準備が終わりましたわ」


 迎えに来てくれた旦那様の方に向かって、歩き出した。ただ、なぜか私を見て固まっているのだ。一体どうしたのかしら?


「旦那様?何かおかしいですか?」


 不安になって問いかけた。


「いや…今日のアンネリア嬢は、いつもに増して美しくて…これは困ったな…」


「何か困る事があるのですか?私、何かおかしいのでしょうか?」


 旦那様の言葉で、増々不安になる。


「何でもない。今日の君はいつもに増して美しいから、少し心配になったのだよ。いいかい?令息が近づいて来ても、無視するのだよ。分かったね」


 無視しろとはさすがに無礼だろう。そもそも、契約とはいえ一応私は人妻だ。そんな私に近づいてくる殿方なんていないだろう。


 と思ったものの、一応「はい、分かりましたわ」と、応えておいた。


「それじゃあ、今日の会場に行こうか?アンネリア嬢は僕の傍で、笑顔を作っていればいいのだからね」


 旦那様から差し出された手を握り、2人で会場でもある、大ホールへと向かった。


 なぜだろう、旦那様が一緒だと、心が落ち着く。なんだか大丈夫な気がして来たわ。


「アンネリア嬢は、緊張していない様だね。よかったよ」


 そう言ってほほ笑んでいる旦那様。さっきまではとても緊張したいたのよ、でもなぜか今は平気。なんて事は言えない。


「それにしても、素敵な会場だね。きっと貴族たちも、驚く事だろう。アンネリア嬢、素敵な会場を作ってくれて、ありがとう」


 会場を見つめ、満足そうに呟く旦那様。


 改めて会場を見つめるが、かなり立派だ。メイド長や執事のカミラを中心に、私の意見を取り入れつつ仕上げた会場。もちろん、旦那様も色々と協力してくれた。そのお陰で、素敵な会場が出来たのだ。


「お礼を言うのは私の方ですわ。旦那様を始め、沢山の人が協力してくださったから、こんなにも素敵な会場が出来たのです。まさか私が、社交界の会場のセッティングを行うだなんて、夢にも思いませんでしたわ」


 そうよ、私たちが作り上げた大切なお披露目パーティーなのだ。きっとうまく行くわ。なんだかそんな気がした。

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