第49話 僕の考えが間違っていた~アレグサンダー視点~
「旦那様、先ほど王太子殿下に話された事、本当ですか?奥様のお披露目を中止するという話は」
「ああ、本当だ。よく考えたら、あんな凶暴な貴族令嬢たちに、アンネリア嬢を会わせるのは不安だ。万が一キャサリンの様に、アンネリア嬢を傷つける者が現れたら大変だろう?」
「奥様はビュッファン侯爵夫人です。さすがの貴族令嬢たちも、奥様に手を出すことはしないでしょう。そんな事をすれば、大変な事になる事くらい、彼女たちも分かっています。少なくともキャサリン嬢よりは、彼女たちの方が賢いでしょうし」
要するに平民で教養のないキャサリンよりは、貴族令嬢の方がマシだと言いたいのだろう。そんな女に惚れた僕は一体…
て、今はキャサリンの事なんてどうでもいい。とにかく、アンネリア嬢の身の安全を確保する方が専決だ。
「そうは言っても、女の嫉妬は見苦しい。もしかしたら嫌味の一つでも言われるかもしれないだろう」
「嫌味の一つや二つ、貴族社会なら普通の事です。その嫌味をうまくスルーする事も、貴族夫人たちの仕事の一つ。それに奥様でしたら、嫌味すら気が付かないと思いますが。あのキャサリン嬢の嫌がらせですら、お気づきになっていらっしゃらない程でしたので」
「それはどういう意味だ?アンネリア嬢が鈍感とでも言いたいのかい?彼女は立派な女性だ。アンネリア嬢を侮辱すると、許さないぞ」
「いえ、そういう意味ではなくて。ただ、奥様は旦那様に守ってもらわなければいけない程、弱い女性ではないと私は思っております」
確かにアンネリア嬢は、芯の通った強い女性だ。でも、その分純粋で、貴族社会の汚さを知らない。そんな真っ白な彼女を、あのどす黒い貴族社会に放り込むだなんて…
「ガウンがどう言おうと、やっぱり今回のお披露目は中止だ。ファレソン伯爵一家だけを呼んで、身内だけでアンネリア嬢を祝おう。その方が彼女も喜ぶはずだ」
「旦那様!今更その様な事は出来ません。既に招待状も出しているのですよ」
「いいや、中止と言ったら中止だ!それじゃあ僕は、アンネリア嬢の元に向かうから」
ちょうどタイミングよく屋敷に着いたので、そのまま馬車から降り、その足でアンネリア嬢がいるであろう牧場へと向かった。案の定、ブランシュを上手に乗りこなしているアンネリア嬢の姿が。
「アンネリア嬢、また上達したね。ごめんね、最近忙しくて、中々乗馬の練習に付き合えなくて」
僕が声をかけると、すぐにブランシュから降りてくるアンネリア嬢。
「旦那様、おかえりなさいませ。今日は随分と早いのですね。それから、今度の私のお誕生日は、沢山の貴族の方を招待して私のお披露目を行うと聞きましたわ。侯爵夫人に恥じない様に、しっかり務めさせていただきます」
頑張ります!と言わんばかりに、両手を握りしめているアンネリア嬢。
どうして彼女がその事を知っているのだ?もしかして、誰かがしゃべったのか?
「アンネリア嬢、誰に聞いたのだい?」
「カレッサム伯爵夫人ですわ。私、社交界に出るのは初めてで。ですが、今まで沢山練習をして参りました。今までの勉強の成果を発揮する場所と思い、精一杯務めさせていただきますね。それにもしかしたら、貴族のご友人が出来るかもしれませんし」
なぜか嬉しそうに話をするアンネリア嬢。
「アンネリア嬢、貴族の世界は、君が思っている様な美しい世界ではない。見栄と欲望が渦巻く、汚らわしい世界のだよ。だから今回は…」
「確かに華やかさの裏には、貴族たちの思惑や見栄、欲望が渦巻いている事くらい私も知っております。ですが私は、元々伯爵令嬢です。たとえ旦那様と離縁したとしても、我が家が人並みの貴族となった今、今後は付き合っていかなければいけない世界なので」
だから、離縁の話はしないでくれ。
ただ…
アンネリア嬢がここまで腹をくくっているのなら、これ以上僕がとやかく言う事ではないか。それに、お披露目で僕たちの仲睦まじい姿を見たら、貴族界からもオシドリ夫婦として見られるだろう。
そうなったらアンネリア嬢も、そう簡単に離縁なんて言葉を出さなくなるかもしれないな。
よし!
「アンネリア嬢の気持ちは分かったよ。でも、無理はしないで欲しい。それから当日は、極力僕が傍にいるから、安心して欲しい」
「ええ、分かっておりますわ。やっと私にも、侯爵夫人らしい仕事が回ってきましたね。旦那様のお顔に泥を塗らない様に、しっかり務めさせていただきますね」
いつもの様に、満面の笑顔を向けてくれるアンネリア嬢。やっぱりこの笑顔を、他の令息たちには見せたくないな…
それでも彼女が、腹をくくってお披露目に参加すると言ってくれているのだ。その気持ちを尊重してあげたい。
「それから、お披露目の手配は私も一緒に行いますわ。カレッサム伯爵夫人が、夜会やパーティーの手配は、妻でもある夫人の仕事とおっしゃっておりましたの。ですから、ぜひ私にも手伝わせてください」
目を輝かせて迫って来るアンネリア嬢。
「分かったよ、それじゃあ、準備を手伝ってくれるかい?」
「はい、もちろんです」
嬉しそうに微笑むアンネリア嬢。彼女が嬉しいと、僕も嬉しい。
その日を境に、アンネリア嬢と一緒に、お披露目パーティーの準備を進めた。初めて主催するとは思えない程、テキパキと動くアンネリア嬢。
「旦那様、当日はこのお花を飾りましょう。ここにはこの飾りがあると、華やかですわ。せっかくですから、料理には領地の食材をふんだんに取り入れましょう。この際、領地の宣伝も合わせて行うなんてどうですか?」
僕が思いつかないようなアイデアを、次々と出して来るのだ。それに何よりも、本人が楽しそうにしている姿を見られるのが、一番嬉しい。
どうやら僕が間違っていた様だ。彼女は僕が思っているよりも、ずっと強い女性。とはいえ、やはり当日は、目を光らせておかないと。
この笑顔を守るためにも!
※次回、アンネリア視点に戻ります。
よろしくお願いいたします。
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