第48話 準備スタートです~アレグサンダー視点~
「落ち着いて下さい、旦那様。だからこそ奥様のお誕生日に、皆にお披露目をするのです。奥様の美しさを見たら、そんな噂も一気に吹き飛ぶでしょう。皆に見せつければよいのです、あなた様がいかに奥様を愛していらっしゃるかという事を」
「僕がいかにアンネリア嬢を愛しているかという事か。確かに貴族中に仲睦まじい姿を見せれば、アンネリア嬢も僕が別の令嬢と結婚して彼女を追い出すという、訳の分からない戯言を言わなくなるかもしれないな。わかった、すぐに招待客のリストアップを行わないと。それから、すぐにデザイナーと宝石商を呼んで、アンネリア嬢が当日着るドレスと宝石の準備をしてくれ。もちろん、僕の瞳や髪の色をイメージして…」
「旦那様、もしかして旦那様自ら、奥様のお誕生日パーティーのご準備をしようと考えていらっしゃる訳ではありませんよね?」
「アンネリア嬢と結婚して、初めての誕生日だ。パーティーのセッティングから招待客まで、僕が全て取り仕切るに決まっているだろう。他人になんて、任せられない!」
アンネリア嬢に関する事は、僕が自ら取り仕切る。当たり前の事を聞くだなんて、この男は一体どうしてしまったのだろう。
「お言葉ですが旦那様、最近王太子殿下から、旦那様のお仕事が滞っていると、お叱りの言葉を頂いたばかりです。まずはご自分のお仕事をこなして、それで手が空いた時間に、奥様のお誕生日の準備を出来る範囲で行ってください。奥様のお誕生日パーティーのご準備は、私共使用人一同で責任を持って執り行わせていただきますので」
「ふざけないでくれ。ルークが僕に仕事を押し付けすぎなんだ。元々はルークの仕事なのだから、あいつにやらせればいい。ただ…あいつから文句を言われるのは腹立たしいな。よし、わかった。王宮での仕事は完璧にこなす。もちろん、アンネリア嬢のお誕生日パーティーも、僕が取り仕切る。俄然やる気が出て来たぞ!」
アンネリア嬢の為なら、たとえ睡眠時間が取れなくても何ら問題はない。彼女の喜ぶ顔を想像しただけで、眠気も吹っ飛ぶと言うものだ。
アンネリア嬢のお誕生日まで、後2ヶ月。今からが楽しみになって来たぞ。
翌日から、王宮はもちろん、アンネリア嬢との時間は大切にしつつ、彼女の誕生日パーティーの準備に取り掛かった。とにかく時間がない、頑張らないと。
そんな思いで、仕事をこなしていく。
「アレグサンダー、最近の君、殺気立っているね。でも、仕事が早くて助かるよ。そうだ、この仕事も…」
「ルーク、調子にならないでくれ。僕は再来月に予定している、アンネリア嬢のお誕生日パーティーの準備で忙しいんだ。これ以上君の仕事の尻拭いをするつもりはない。自分の事は、自分でしてくれ」
忙しいのに、話しかけてこないでくれ。そんな思いで、ルークに伝えた。
「そういえば再来月、アンネリア夫人のお披露目兼お誕生日パーティーがあるのだったね。アンネリア夫人は、アレグサンダーの心をもつかむほど、優しい女性だそうだね。もしかしたら、マリンの友人になってくれるかも…」
「言っておくが、アンネリア嬢を君の妻と仲良くさせるつもりはないよ」
この際だから、ここははっきりと宣言しておかないと。そう思い、ルークにはっきりと告げた。
「そうは言っても、アンネリア夫人は今後、侯爵夫人として生きているのだろう?それなら、王太子妃でもあるマリンと仲良くしておいた方がいいと思うよ。それとも、気の強くてグイグイ来る貴族令嬢たちと、仲良くさせるつもりかい?」
「あんな性格の悪い連中とアンネリア嬢を、仲良くさせる訳がないだろう。アンネリア嬢の事だ、きっとあいつらの言いなりになって、最悪キャサリンの時の様に虐められるかもしれないだろう。やっぱり公の場に彼女を出すのは心配だ。お披露目は中止にしよう」
貴族世界にはキャサリンの様な女がゴロゴロいるのだ。万が一アンネリア嬢が傷ついたら…考えただけで、腹立たしい。
「いつも冷静なアレグサンダーが、アンネリア夫人の事になると、むきになるのだね。でも分かるよ、その気持ち。僕もマリンをあの貴族令嬢たちに関わらせたくなくて、ちょっと大事にしすぎたんだ。その結果がこれだ…今後王妃となるマリンにはやはり、最低限支えになってくれる貴族女性を作っておくべきだったと…」
こいつ、夫人を愛するがあまり、ずっと王宮に閉じ込めていたものな…結局今、苦労しているという訳か。自業自得だから、知った事ではないが…
「とにかく僕は、アンネリア嬢を傷つけたくはないのだよ。やっぱりお披露目は中止だ。今日の仕事は終わったし、もう帰るよ」
「もう終わったのかい?それならこの仕事も…」
「自分の仕事は自分でやってくれと、言ったばかりだろう。それじゃあ僕はこれで」
急いで部屋から出て、馬車に乗り込んだ。今日はいつも以上に頑張ったから、アンネリア嬢の乗馬に付き合えそうだぞ。
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