第12話 遙かな、愛するものへ

 新潟を離れる折、駅まで見送りに来てくれた義母は優しげに苦しげに言った。

「こんな事を言うのは早いと分かっています。でもね、今は無理でも、必ず素敵な人を見つけてもう一度幸せを探してね?遙香もきっとそれを願うと思うから」

 義母の手を取った。小さく、弱々しく、遙香のそれによく似ていた。

「お義母さんはいつまでも私のお義母さんです。幸せというなら、私はもう貰いましたよ。私はお義母さんの娘婿を辞めません。その為に墓所をこちらに決めたんです。不出来ですがどうかいつまでも子供で居させてください」

 義母は俺の胸に額を寄せて泣いた。肩をふるわせ、子供のようにしゃくり上げて。大切な人が一人消え、同じ悲しみを持つもの二人がそれを寄せ合った。悲しみを支えられるものがあるとするなら、優しい言葉ではない。同じ悲しみを知る存在だけのように思えた。

 新幹線の中から見ると、義母は泣き腫らした目で笑っていた。それは遙香によく似た眼差しで、俺の心を温めてくれるものだった。

 三通の手紙を胸に、俺は動き出した列車の中で青い海を思い出した。それは、あの部屋の窓辺に並ぶ俺と遙香が夢見た海だ。俺はそっと目を閉じた。

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遙香からの三通の手紙 夢幻 @arueru1016

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