EX. 序章~半年前~
「……どうだった、ルシア?」
「連絡が取れました。彼女は今、隣国のモンスター掃討作戦に参加していて、数ヵ月は身動きが取れないとのことです」
「何よそれ。それじゃ迷宮図書館の探索が終わっちゃうかもじゃん!」
「お静かに! ……ディグ様達に気付かれますわ」
「ごめん」
「……気付かれなかったようですわ。夜間の見張りを利用して秘密のお話をしているのですから、もう少しお静かに」
「だからごめんってば。で、話を戻すけどさ。ギルティナが来たところで、
「それについては考えがあります。ギルはグゥさんの後任としてパーティーに招きます」
「マジ? ディグはグゥを妹みたいに思ってるのに、どうやって追い出すのさ」
「グゥさんの食費が活動資金を圧迫しているのはご存じですね。ディッシュタウンに着きましたら、彼女に連日高級レストランを手配します。迷宮図書館は百階層あるとも言われるダンジョンですから、踏破には半年以上かかるでしょう」
「つまり、ギルティナが合流する頃を見計らって、資金難に喘いだディグの方からグゥを追い出させるわけね」
「はい。そうすれば、ディグ様もギルを受け入れやすいでしょう。
「うん。あのお人好し勇者でもそれなら行けそうだね」
「ですが、マホさんはそれでよろしいのですか?」
「何が?」
「マホさんとグゥさんはずいぶん仲がよろしいようですから、こんな形でのお別れというのは後ろ髪を引かれるものかと」
「まさか! グゥは同い年だからって勝手に懐いてきてるだけよ。あいつの頑丈さは前衛として役立つから話を合わせてやってるだけ」
「あらあら。そんなことだから、魔法大学でお友達ができなかったのですよ」
「うるさいっ‼」
「――どうした、マホ‼」
「敵襲かい⁉」
「……なんでもありませんわ。少々、マホさんと意見の相違があったもので」
「なんだいそりゃ。見張りの最中に雑談なんてしてんじゃないよ」
「申し訳ありません、フィーさん、気を引き締めますわ」
「明日の夕方にはディッシュタウンに着く旅程なんだ。直前にモンスターの不意打ちで怪我でもさせられたら、たまったもんじゃないんだからね」
「承知しております。お任せください」
「ルシア、マホ。朝まであと少しだから、頑張ってくれ」
「大丈夫大丈夫、任せておいてよディグさん!」
「ディッシュタウンのダンジョンは図書館タイプだから、マホが気に入る魔法書も見つかるかもしれない。全員ベストコンディションでダンジョンに挑むため、もう一晩だけよろしく頼むよ」
「りょ~かい!」
「……」
「……」
「二人ともテントに引っ込みましたわね。グゥさんだけ出てきませんでしたけど、どうしたのでしょう?」
「あの馬鹿、ぐぅぐぅ寝てるんじゃないの。あいつ、暴れて食べた後は頭叩いても朝まで起きないもん」
「グゥさんらしいですわ」
「で、肝心の剣と鏡はどうなってるわけ?」
「……そちらについては、やはり難しいですね」
「あんたの色仕掛けでもとうとう落とせず仕舞いか。清楚キャラより、ワイルドな女傑の方がディグ好みなんだね」
「まぁ、ディグ様とフィーさんは幼馴染ということですから。わたくしが途中から割り込む余地などありませんでしたね」
「それじゃどうすんのよ。ギルティナだって女として見ないでしょ、あいつ」
「ええ。ですから……やむを得ません」
「まさか……力ずくで? 仮にギルティナが合流した後でも、それはきついんじゃ」
「おそらく問題ありませんわ。その時には、彼は意気消沈していつもの覇気を失っているでしょうから」
「どゆこと?」
「自らの意思で仲間をパーティーから追放する――そんな真似をして、あの優しいディグ様が心を乱さないわけありませんもの」
「な~る。その隙を突けば、勇者でも殺――おっと。失言失言」
「ディグ様はギルに任せればよろしいでしょう。問題はフィーさんですが、警戒心の強い彼女まで同時に戦闘不能にするのは難儀ですね」
「心配しないでよ。動けなくするだけなら、私にだってできる」
「フィーさんはあなたに任せても?」
「私の火炎魔法であのクソ女の手足を燃やしてやる。その後はギルティナに任せるよ。私が全力で魔法を使えば、死体が炭になっちゃうからね」
「二人の死体を残し、わたくしたちは姿を消す。そうすれば、ギルドの連中も〈アライバル〉は全滅したと思うでしょう。遺体の捜索隊が派遣されるかもしれませんが、下層深くまで探索を続けるとは思えません」
「邪魔者を始末して剣と鏡を手に入れた後は、私達で最下層を目指すってわけね」
「ええ。神官長様の情報が確かなら、迷宮図書館の最下層にこそ悪の根源が眠っているはず。わたくしの使命はそれを討ち果たすことですから」
「私は、古代の魔法の知識を得ること。最終的に、見つけた書物の類は私の自由にしていいんだよね?」
「もちろんです。そういう契約のもと、共に勇者パーティーに入ったわけですから」
「もっとも、そんな密約なんてディグは知る由もないけどね」
「――ふわぁぁ~」
「‼」
「⁉」
「おしっこ……」
「……」
「……」
「グゥさんたら、何てはしたない」
「あの馬鹿、野蛮な戦闘民族の村出身だからね。脳みそまで筋肉なんでしょ」
「でも、あと半年程度の付き合いとなると、一抹の寂しさを感じますね」
「そう?」
「何も知らない野生児の彼女に、人前でのマナーを色々教えて差し上げましたから。少なからず愛着が芽生えておりまして」
「嘘つけ! それが愛着を抱いてる奴の顔?」
「ふふふ」
「まぁ、あんな奴でも盾役としては便利だったからね。生きたまま放逐するくらいは私も同意してあげる」
「……」
「……」
「……マホさん、裏切りはなしですからね?」
「そっちこそ、そういうのは勘弁してよ」
「ふわぁ~。むにゃむにゃ――」
「グゥさんたら、半分眠りながら戻ってきましたわ」
「都育ちの私には理解し難い存在だな」
「……」
「……」
「そろそろ見張りに戻りましょうか」
「だね」
「……今宵の満月は綺麗ですわね」
「私はもう森での野営はごめんだけどね」
次の更新予定
ダンジョンで拾ったパンが最強のパワーアップアイテムだった R・S・ムスカリ @RNS_SZTK
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ダンジョンで拾ったパンが最強のパワーアップアイテムだったの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます