11:エレスティア
ルーナディア=エル=エクレール=エレスティア。
英雄姫と呼ばれる少女……彼女は、魔族と和解し世界を平和に導いた、言われている。女神エレスティア様から姓をもらい、今ではすっかり有名人。
「で、エレスティア様……今更なんですけど、なんでわたしの名前の姓にエレスティアが入ってるんですか」
「物凄く今更だね?」
「忘れてた。それでなんで?」
「そりゃもちろん、私の子にするつもりだったからね!」
「はい?」
なんかとんでもないことを言っているぞこの女神様。
「そんな目で見ないで! いやね? 真面目にルーナには女神というか神になる資格はあるんだよね。私の後継者にしようかなって」
「後継者って……」
「まあ、神に寿命はないけど……殺す方法はあるからね。もし急に私が殺されたらエレスティアは混乱するでしょうし、保険みたいなものだよ」
「縁起でもなこと言わないでください」
「お? 心配してくれてるの?」
「そうですよ、悪いですか」
「! ルーナが心配って!」
「これでもエレスティア様には感謝しているんですよ」
「……う、直に言われると恥ずかしい」
エレスティア様にしては珍しく顔を赤くしていらっしゃる。
一応、これでも感謝しているのだ。肉体消滅やら転移やらの時はどうなるかと思っていたけど、これでもかというほどエレスティア様は面倒を見てくれたし、色々としてくれた。
性別が変わったことに関しては納得できていないものの、こっちについてはもう割り切るしかないだろう。消えてしまったものはいくら神様と言えども、復元することは出来ないらしいし。
「こっちに来るのになんか久しぶりな気がしますねー……」
「いつでも来れるようにしたのに中々来ないからちょっと寂しかったよ」
「いや、エレスティア様は普通に世界超えて地球でもわたしの前に来るじゃないですか」
「それはそれ。これはこれ、だよ!」
さて、今のわたしはエレスティアの方にやって来ている。
随分と遅くなってしまったが、行き来ができるかの確認も兼ねて、だ。結果はまあ神様が作ったのだから当たり前だけど問題なく行き来することが実際に証明された訳だ。
「相変わらず平和だねこっちは」
「平和なのはいいことですね。……でも平和すぎるとむしろ、危機感を忘れてしまいますよね」
「まあ、そこは魔物が居るし、大丈夫だと思うよ。魔物も魔物で強い魔物も居る訳だし」
「確かに」
平和とはいえ、エレスティアには魔物が日常的に存在している。
それはこの世界にとってはいいことだとは思う。魔物なんて居なければいいのに、と思う人は少なからず居るが、仮に魔物が居なくなった時、この世界の人は戦い方や魔物の対処方法、危機感を忘れてしまうのではないか。それは衰退と同じだ。
今現在はいいかもしれない。……でも将来的に見てどうなのか? そう考えると魔物の存在は大きいなって思う。
魔物を狩ってその素材を使って武器や防具、服や道具などを作っているし、食べられる魔物の肉は料理に使われている。
……魔物の恩恵は皆が思う以上に世界を支えている。
とはいえ、無差別に攻撃してきたり、死傷者が出ていることもまた事実。死傷者の家族や親族、友人等は悲しむだろうし、魔物への恨みは強くなるだろう。
そういうのも考えると、色々と難しいところではある。
「やっぱり、ルーナは女神の資格あるね。向いていると言ってもいい」
「どうしたんです?」
「そういう考え方ができるというのは貴重なことだよ」
「そうですかね? 考えれば普通に分かることだと思うんですが」
「そういう考え方をできる人って言うのは結構少ないんだよ? ま、ルーナの場合は元地球人というのもあるのかもしれないけどね」
「うーん? 地球人は関係あるのかな……むしろ、エレスティアよりも平和だったし」
いや、正確には平和とは言い難いけど。
結構、各国がバチバチしているし互いに牽制しているのもあるし……戦争は起きていないが、戦争が起きれば被害は恐らくかなりのものになるからしないだけだろうし。
でも、地球は今魔物の出現もあってわたしの知る地球とは情勢が異なっているけども。地球に似た異世界? と何回思ったことか。
わたしの、いや僕だった時の家は普通に存在していたし、見慣れた両親の顔もあった。だからここは僕が居た世界なのは確かなのだろう。
ちょっと前にこっそり気配とかを消した状態で懐かしの自分の家に行ったところ、僕の部屋は記憶に新しい状態のまま清潔さを保ってそのまま残っていた。ゲーム機やPCなどの私物や、服などの衣類も。
「掃除してくれてたのかな」
お母さん、お父さん、それから真白、ごめんね。
「……本当にごめん、ルーナ」
「エレスティア様はもう何度も謝ってくれてますし、大丈夫ですよ」
「でも……ううん。そうだね」
真白は元気にしているだろうか? あの時は遭遇というか姿を見かけなかったけど。
「そういえば妹さんが居たんだっけ」
「ですねー。真白って名前ですけど……それなりに仲良かったと思う」
とはいえ、暫くの間見ていないのでもしかしたら気付けないかもしれない。
まあ、家に居るなら完全にそれは妹の真白と言えるだろうけど、何処かで遭遇していた可能性もあるかも。
「んー……ん?」
「どうかしたの? 変な顔して」
「いや、そういえば……ショッピングモールで見た4人組の少女の中に、何となく真白っぽい子が居たようなと思って。まあ、人違いの可能性が高いけどね……」
今更ながら思い出した。
服を買いにショッピングモールに行って、そのあとゲームセンターで遊んだあとに見たあの4人組のことだ。じろじろ見るのは失礼なのでちらっと見た程度なんだけどね。
そのあとは知っての通り、サイレンスとフィールアウト、インビジブルを使って姿や気配を完全に消した状態で帰ったのだが。まあ、ストレージを使いたかっただけだけど。
「真白が魔法少女やってる可能性とかあるのかなー?」
「女の子なら可能性はあるんじゃない? 分からないけど」
「結局、変身するから仮にやっていても誰が真白なのか分かりませんけどね」
基本的には全く別の姿に変身するから特定は困難である。特定出来たら出来たらでそれは大変なんだけどね。せっかく、魔物を倒してくれている子たちの邪魔になってしまうだろう。
特に報道関係はしつこいし、面倒だもんね……このご時世、ネット上のニュースでもいい気がしてる。ネットはネットで色々な悪意が蔓延っているけど。
「確かに」
さて話を戻そう。
今回これで行き来可能であることを実際に確認できた訳なので、やることはないのだが……うーん。
「えー、もう帰っちゃうの?」
「いやだって今回試してみたかっただけですし……」
これ以上することは特に考えていなかった。
地球での調査もあるし……あ、そうだ。
「なになにー?」
「……こっちの世界の人を向こうに連れていくことって流石にできませんよね?」
正直、人手が足りない気がするんだよね。
わたしという人間は1人しかいないので、やれることは限られてくる。協力者とか仲間とかが欲しいのが本音である、情報収集担当とか、魔法省の方の確認担当とか……魔物の確認担当とかさ、人が居れば分担できるんだけどね。
「出来るけど、まあそれをするには天照の許可も必要になるかなー」
「まあそうなりますよね」
期待はしていなかったけど。とはいえ、天照様が許可すれば連れて行けるというのは驚いたけど。普通異世界に異世界の人を連れて行くとか何か駄目そうな感じだし。
「別に転生とかでもないからねー。転移。つまり戻ることもできる訳だからそんな重要ではないかな」
「あ、なるほど」
「うん。転生は色々と大変だけどね。転移については特に、ね。強いて言うなら転移先の文明とかをめちゃくちゃにしなければいいかな。何の罪もない人を虐げたり、殺したり……そういうのも駄目。というかこれをしたら流石にまずいし」
「異世界の神の元の人への攻撃になりますしね」
「そうそう。こういう場合は双方の神が話し合って処断を決める感じ」
「処断……」
「まあそれくらい重いってことかな」
そういう規定みたいなものもあるんだなと思いつつエレスティア様を見る。
さっきまでのちょっとふざけた感じはなく、真面目な顔をしている。エレスティア様って普段はあれだけど、やることはきっちりやるからなあ。ギャップ差がすごい。
「ギャップ差だったらルーナも十分に負けてないと思うけどね?」
「……仕方ないじゃないですか。これで元は男というか中身は男なんですからね」
と言ってもこんなこと言っても信じてくれるのはわたしの状況をよく知る人たちくらいだろうけど。エレスティア様と天照様くらいしか知らないかもなあ。まあつまり、誰も居ない。
「ルーナのことを全部知っているのは私と天照だけだね。エレスティアの居る人たちにはある程度のことは伝えてあるけど、元の性別のことは流石に言ってないし」
「言われても困りますけどね……」
変に思われそうだし。
「変に混乱させるだけだもんね」
「ですね」
エレスティア様が言えばそりゃ信じるかもだけど、自分で言ったらたぶん冗談だと笑い飛ばされるがオチだろうな。
「もう少しだけこっちの世界に居ようかな」
ほんの少しだけだ。
ちょっと街に出て軽く散策と化してから帰ろう。散策とっても、これでもかというほどこの街については知っているのであれだけど。
そういう訳で、ちょっと準備をしてから外に出るのであった。
次の更新予定
2024年12月29日 20:00 毎週 日曜日 20:00
異世界出戻りTS少女と魔法少女 月夜るな @GRS790
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