10:帰路と遭遇
「すっかり遅くなっちゃった」
いや流石にゲームに熱中しすぎでしょ。お金も結構とんだぞ……まあ、向こうで稼いだお金はたくさんあるから別に生きられなくなる訳ではないけど、それにしてもわたし、やり過ぎ。
「また荷物が増えた」
ウサギのぬいぐるみに、猫のぬいぐるみ、ハムスターのぬいぐるみにクレーンゲームによくあるお菓子に、幾つかのキーホルダー。ちょっとした小物やらおもちゃやら。
周りの視線が痛い……いや別に冷たい視線とかそういうものではなく、何というか物凄く暖かな視線をいっぱい感じてむず痒いったらありゃしない。しかも、多分、これらを持っている間わたしはほくほく顔をしていたと思うからそれもあると思う。
し、仕方がないじゃないか、そうなってしまうのだから。欲しいものが手に入ると嬉しくなるみたいな、それと同じだと思いたい。あとは恐らくこの身長のせいだろうなあ……。
「土日だからいいけど、これ平日とかだったら絶対補導されるよね。まあ、身分証あるからそれ見せれば大丈夫だろうけど」
しかしそれでも面倒なのは確かだ。
平日とかは極力、普通に出歩くことはやめた方がいいかな。気配消して歩けば見つかることもないだろうけど、そこまでするのはちょっと面倒だ。
「ま、そんな出歩くことはないだろうけどねー」
今日はたまたまだ。
久しぶりのゲームセンターだったのでついつい夢中になってしまったのは仕方がないと思う。それはさておき、この荷物どうするかな。
周りを見る。
当たり前だが、今居る場所はゲームセンターなので人がかなり多い。出入りも多いし、普通に歩いている人もいる。
「まあ……<インビジブル>」
範囲は自分を含めた荷物類。
そうすると体内から少しだけ魔力が消費され、発動したこと確認する。近くに居た何人かが自分の居る場所を驚いて見ていた。
まあそれもそうか……いきなり人が消えた訳だし。
光属性魔法、インビジブル。
自身の姿を消す魔法であり、実はこれ闇ではなく光属性に分類される魔法だ。気配を消す、とか音を消すとかそう言った魔法は闇属性になるけども、完全に透明になるこのインビジブルは光属性になる。
そもそも”何かを見る”とはどういうものなのか……例えば、暗いところでは何も見えない。目が暗闇に慣れてきても真っ暗であると認識できない。
光を絶てば姿を消せる。それだけ聞くと闇属性なんだけど、インビジブルは光に干渉して対象の姿を見えないようにする魔法なので光属性だ。
ほら、地球でも光学迷彩とかあるじゃない? あれみたいな感じ。いやまあ、こっち魔法なので完全に姿見えなくなるんだけども。
「<ストレージ>っと」
その状態でストレージを使い、ゲームセンターで取りまくったものを収納する。こうすることで、誰にも見られな状態で使うことが可能だ。
さっき座って居た時にも使えば良かったのでは? という疑問もあるだろうけど、あの時は別に外れの方だったのもあって人もいなかったし……一手間かかるのでやらなかっただけだ。
「もうこのままいくか」
因みにそんな強そうなインビジブルだけど、欠点もある。それは姿こそは完全に見えなくなるが、音までは防げないという点。この状態で走ったりとかすると普通に足音は聞こえてしまう。
ついでに言えば、完全に透明化する訳ではないため、誰かとぶつかった時は普通にぶつかる。まあ、向こうからすると何もないのにぶつかったという感じにはなるだろうけど。
視覚的には消えるが、物理的には消えない。簡単に言うと、幽霊のような状態になる訳ではなく、あくまで姿が見えなくなるだけでそこには存在しているという訳だ。
「まあ、音を消したいなら闇属性の<サイレンス>を使えばいいんだけどね」
気配を消すなら<フィールアウト>を使えばいい。
この3つを合わせると完全に見えない状態の出来上がりだ。音も出ないし、気配すらも感じさせない。いや、インビジブルでも気配は消えるんだけど稀に勘付く人とかも居るから油断ならない。保険のためのフィールアウトである。
「<サイレンス><フィールアウト>」
これでよし。
こんなん場所で何やってんだって話だけど、まあこれも実験の1つってことで。ぶっちゃけ、地球の魔法がどのくらいのレベルなのかが分かってないんだよね。エレスティアよりも低いことは分かるんだけど。
「うん。音も消えてるし問題なさそうかな? 気配の方はどうしようもないけど」
その状態で試しに床を強く踏んでみる。普通ならそこそこ大きな音が響くだろうけど、音が出ることはなかった。気配の方は自分では確認できないので何とも言えないが、サイレンスとインビジブルが機能しているなら問題なく効果はあるはずだ。
「……ん?」
そんなことをやっていると、近くから妙な気配を感じた。いや、妙というか……つい最近も似たような気配を感じたようなそんなやつだ。
「……魔法少女?」
ちらっと気配の感じた方を見れば、そこには仲良さそうに4人の少女たちが一緒に歩いていた。中学から高校生くらいだろうか? ショッピングモールだし、居てもおかしくないのだが、その3人、何かが違うような感じがする。
「ホワイト?」
容姿は全く異なっているものの、どうにもあの時やられそうになっていた魔法少女……ホワイトに似た感じがする。ただの勘違いかもしれないが。
「……まあいいか」
仮に魔法少女だとしても、それはあくまで変身して戦うとき。当然だが彼女たちにも彼女たちの日常があるだろうし。ここに居てもおかしくはない。
ってか、もしかして他の3人って援軍で来ていた子たちなのかな? ふむ……普通とは違う気配はあるけど、魔物みたいな嫌なものではない。
「さてと、帰ろうかな」
ゲーセンで時間をかけ過ぎたのもあるが、そろそろいい時間なので帰ることにする。今自身にかかっている魔法についてはそのままに、ショッピングモールを後にするのだった。
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◇◇◇
「うーん……」
「どうかしたの、真白?」
そうポツリと声を出すと、心配そうに私の方を覗き込んでくる茜ちゃんが居た。
「あ、茜ちゃん。……うん、この前、助けてくれた子のことでね」
「あー……情報降りてたわね」
新種のトレントと交戦した時に、助けてくれたのだろう謎の少女のことを思い浮かべる。彼女は私を治すために回復魔法を使っており、更に言うと私にとどめを刺そうとしていたトレントをあっさりと討伐してしまったのだ。
そして少し離れた場所には氷漬けにされていたもう1体のトレントが居た。研究所の方で解析したところ、やっぱりあのトレントは普通のものではなかったということがつい最近公表されたのだ。
「あの氷、今も解けてないみたいよ?」
「うん。聞いてる……本当に何の魔法を使ったんだろう?」
「そこまでは分からないけど……まあ、真白を助けたその子は異常に強いことくらいかしらね」
「そうなの?」
「そうでしょ? 氷漬けに、炎で焼き払い、光属性の回復魔法。この時点で色々おかしいでしょ」
「あー……だね。よくよく考えたらそれってあり得ないよね」
魔法少女が使える魔法の属性は基本的に1つと聞いている。稀に2属性を扱う魔法少女も出てくるが、圧倒的に数が少なく、魔法少女の大半が1属性のみだ。
日本の魔法省にも一応、2属性を扱える魔法少女は居るけど数える程度……というか、5人しか居ない。世界的に見ても2属性を扱う魔法少女の数は限られているのだ。
中には居ない国もあるし、それだけ少ないと言える。日本の5人というのは、世界的に見ても多い方であり一番数の多い国でも8人。
あとは基本的に居たとしても精々1~4人であり、どれだけ少ないのかが分かると思う。それほど2属性を扱える魔法少女は希少な存在なのだ。
まあ、もしかすると野良の魔法少女に居るかもしれないから何とも言えないけど、そもそも野良の魔法少女はそこまで多くないと聞いている。居るには居るけども。
話が逸れたけど、私を助けてくれたであろう少女はさっき挙げたように複数の属性を使っていた。私に対しての回復魔法は光属性だし、トレントを焼いた炎は火属性、氷漬けについては水属性だ。
「でも情報が少ないからまだ確定とは言えない、だったよね」
「そうね。普通なら冗談だろ、って笑い飛ばされるくらいのことだし」
2属性すらそんな居ないのに3属性とは何なのかという話になる。
「でも真白は見たんでしょ? 実際に」
「うん……回復魔法は間違いなく使ってたと思う。火属性についてもあの状況からしてやったのは彼女としか言えないし……」
それは氷漬けのトレントについても同じことが言える。
あの場に居たのは私とその少女だけ。ガーネットたちが駆け付けた時には既にその少女は既にその場には居なかったし。
「お礼が言えてないなって思って……」
「そういえばその場からすぐに去って行っちゃったんだっけ」
「うん……」
「支部長もお礼を言いたいなとは言ってたわねえ……でも肝心なその子の正体は不明で住所とかも不明、名前も不明だものね」
「名前だけでも聞いとくべきだったかな……でもあの時は麻痺のせいでまともに話せなかった」
「仕方ないわよ」
……何者なのかは分からないけど、お礼は言いたい。
「銀髪のロングヘアに赤と青のオッドアイってかなり目立つ容姿よね」
「うん。私もだいぶ、印象的だった……魔法少女なのかな?」
「それはそうじゃない? 魔法を使えるってことはそうとしか考えられないわ」
でもあの子、見た感じ普通の状態……変身もしていないような感じだった。悪い意味ではないけど、魔法少女らしくない服装だった。
「真白の話を聞くと確かに……魔法少女っぽくない服装ね」
「うん……まあ、あれが魔法少女としての衣装と言われれば反論できないけどね」
あくまで私としては魔法少女っぽくないなと感じた程度である。
……またどこかで、あの子と会えるだろうか? その時にはお礼を言いたいかも。助けてくれなかったら私は死んでいたのだし。
……魔法少女として戦う以上、死や怪我というのは割と身近だ。それは理解できるし、覚悟の上で魔法少女をやっている訳だけど、それでもやはり死ぬときは怖いものだ。実際臨死体験のようなものをした私だけど……。
「お待たせ!」
「ただいまー」
そんなこんな話していると、
何をしていたのかと言えば、休日だというのもあって4人で集まって近くのショッピングモールにやって来ていた。みんな同じ学校でクラスは私と茜ちゃんは一緒だけど、翠ちゃんと葵ちゃんは別クラスなんだよね。
「あ、翠ちゃんと葵ちゃん。お帰り」
「何か話してたのー?」
「ちょっとね」
あの子については今考えても仕方がない。そう思い、考えるのを一度やめ、3人と一緒に移動をするのであった。
「……?」
ん? 今何か……。
私は不思議な気配を感じて、周囲を見回す。しかし、特に気になるものはなかった。
「真白ちゃん?」
「あ! ごめん。葵ちゃん、今行くね!」
何か感じたことがあるような気配だったけど……それもつい最近。
とはいえ、おかしなところはないので、私は気のせいだと判断して少し離れてしまった3人の元へと少しだけ駆け足で向かうのだった。
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