09:外出

「何の成果も得られませんでした!」

「突然、何言ってるんじゃお主」

「あ、天照様。こんにちは」

「うむ……して、どうしたんじゃ、そんな声を上げて」

「実はですね……天照様が違和感を感じたっていう樹海を調べてみたのですが……最初に言ったように何の成果もありませんでした」


 いや本当にね。

 あれだけ嫌な気配を感じていたのに、実際調べると全然何もないという。これは確かに天照様が分からないというのも無理はない。


「じゃろうな……」

「何なんでしょうね……変な気配とかは感じたんですけど」

「分からぬ、というのが答えじゃなあ……」

「ですよね」


 探索できる限りはしたが、何も見つけることは出来なかった。樹海の中に居た魔物……エネミーを何体か倒したくらいだろうか。強いやつは居なかったので基本的に普通の攻撃魔法でワンパンだった。地球の魔物はやはり弱いらしい。

 まあ……それはわたし自身が異世界のエレスティアに染まってしまっているというのもあるのだろうと思う。地球にとってはそこそこ強いという評価みたいだし。


「そう言えばですが……ってこの世界で使っても大丈夫ですかね? 使う機会がないといいのですけどね」

「アレ……ああ……まあ、使っても大丈夫じゃろ。と言ってもアレを使うほど追い詰められてもいないし、流石にオーバーキル過ぎると思うがの」

「念のためですよ。……仮に原因、元凶が判明した時、弱いはずないので保険ですかね」

「確かにそうじゃな」


 とはいえ、元凶はもちろん、原因すらわ分かっていないのが現状だが。

 まだこっちに来てそんなに経ってないし、時期尚早ではある。そんなすぐに分かるのであれば、わたしが来る必要もなかっただろうし。でも日本は懐かしい。


「まあなんじゃ……のんびりやるといいぞ」

「はい、そうします」


 焦ってもいいことはないし。天照様はそれだけ言って姿を消してしまった。

 一旦、樹海の調査関係は保留にしてちょっとのんびりするか……いやいつも基本的にのんびりしていると思うけども。

 今更だけど、ちょくちょくわたしの前に来るのはいいのかな……いいのだろうけどね。神とかそういう存在は基本的に気まぐれでマイペースだからなぁ。


「少し外に出よう」


 簡単に準備を済ませ、部屋を後にする。

 エレスティアでは夏の季節だったが、こちらは秋。熱くもないけど寒くもない、どちらかというと涼しい季節。まあ年々秋という季節が短くなってきている気はするけど。


「いや、それは春も同じか」


 そのうち、真面目に日本の季節は四季じゃなくて二季(夏と冬)になってしまうのではないだろうか。


「それはそれで面白そうではあるけど」


 因みにわたしは夏か冬の二択なら後者……冬の方が好きだ。二択ではなく四択でも冬を選ぶくらい好き。暑いより寒い方がいいし。


「服、買う予定だったし、買いに行くか」


 この格好って目立たないとは思うが、それでもちょっと変わったファッションなのは間違いないので適当に何か服を買っておくべき。


「とはいえ……服関係に知識とかあまりないんだよねぇ」


 向こうの世界ではエレスティア様やら仲間やら友達やらに選んでもらってたし……というか、わたしが選ぼうとすると何故かストップをかけられる。


「嫌な記憶が……」


 着せ替え人形にされたことなんて何回あったことか。

 回数を重ねるうちに、もう慣れてしまったけど……大事なものを失った感じがしたよ。既に大事なものは失っているんだけども。


「まあなんか適当にすればいいか……」


 男物じゃなければ大丈夫だろう。





◇◇◇◇





「……疲れた」


 ショッピングモールの中にあるイスに座って一息つく。

 1つの建物の中に幾つものお店が入っている、よくある場所だ。こういったところに来るのもなんか懐かしいかもしれない。司時代の時はゲーセンとかよく行ってたなぁ。

 そしてテーブルに置かれている2つのそこそこ大きな紙袋。そう、疲れた最大の原因でもあった。


 若干場違い感のある服だったけど特に変に見られることもなく、服屋に行けたのだが……そこで無駄に疲れた。原因はやはり店員……わたしが適当にお任せしたら何故か着せ替え人形にされたのである。

 まさかこっちでもああなるとは思わなんだ。そのうち、違う店員やしまいには店長まで出てきてげんなりした。まあ、その分、割引はしてくれたんだけど……しかも結構な額。


「……いやまあ、許可したのはわたしだけどさ」 


 無理やりされた訳ではないのでそこは勘違いしないでほしい。まあでも少しお得に色んな服を購入できたので良しとするか……非常に疲れたけど。


 因みに今の格好は家から出てきた時とは違い、買ったものの1つを着ている。全く違和感のない普通の服。シンプルだけどフリルが使われている可愛らしい長袖のワンピースの上からカーディガンを羽織っている。あとはおまけで頭にはリボンがつけられている……うん、わたしがつけた訳じゃないよ?


「……」


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 以前というか、転移したすぐ辺りとかでは頑なに可愛らしい服など着ずに居たものの、気付けばもう何とやらで普通に着ている。


「うん。完全に女の子寄りになってる」


 辛うじて司としての心というか自我みたいなものはあるが、もうほとんどがこの身体寄りとなっており、可愛い服とか着ても何とも思わないというか、むしろもう少し可愛くできないかなとか思うくらいなレベルである。

 とはいえ、確かに女の子寄りとなっているが、それでも男と恋愛したいのかと言えば、全力で拒否したい。ここは変わってしまっても譲れないものだ。


 どうやら恋愛観点までは変わってないようだ。


「何だかなあ」


 それは置いとくとしよう。

 そろそろ休憩は終わりにして帰ろうと思ったのだが……ふと向こう側に見えるゲームセンターを見る。


「うっ……」


 物凄い行きたい衝動に駆られる。

 いや、だってね? 向こうの世界っで娯楽とか全然ないんだもん!? 遊びとか、お風呂とかそう言うのはあるけどそうじゃないんだ。ゲーセンみたいな施設が欲しいんだよ!

 似たようなものでカジノはあるけど、賭け事して楽しむのは何か違うんだよね。あれって結構頭使うし、何も考えずにゲームやりたいよ。


「お金はあるし……ちょっとだけ、ちょっとだけなら、いいよね?」


 誰に言うものでもないがそんなことを呟いていた。


「ただ荷物、どうするかなあ」


 この紙袋を持ってあそこに行くのは邪魔になりそうだし。


「あ……ストレージがあるじゃん」


 すっかり忘れていた。


「よし……ストレージ」


 誰も見ていないことを確認したあと、素早くストレージを使い、その中に紙袋を突っ込む。手元にあったはずの紙袋は姿を消し、空間に飲み込まれるように消えていく。


「便利だよねーこれ」


 空間魔法にも属するこのストレージだが、これが非常に便利だ。持ち運びが楽になるし、何より中の空間は時間が止まっているのもあり、出来立ての料理を入れればいつでも出来立てが食べられるという。

 ……まあ、使える人少ないんだけどね。一応向こうの世界では勇者みたいなものをやっていたし、英雄姫とか言われてるので別に使ったところで何とも思われない。勇者なら使えるよね、みたいな感じだ。


 こっちでは分からないので使うにはちょっと気を付けないといけないが。

 そういえば地球だと空間系の魔法ってどうなってるんだろうか? 火と水、風と土に闇と光の6属性は聞いているけど。

 エレスティアでは空間とか時間系の魔法は特殊属性3つ目として時空属性とされていたけど。こっちには時空属性はなさそうなんだよね。


 どこかに統合されているのか、そもそも存在していないのか。


「まあいいか。さてと、ゲームセンターに行こう!」


 今考える事でもないし、思考を切り替える。

 荷物はなくなって手ぶらになったのでこれでゲームセンターに行っても問題ない。わたしは座っていた椅子から立ち上がり、向こうに見えるゲームセンターの方に足を進めるのであった。

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