08:最初の調査と動き

 ――青木ヶ原樹海。

 それは富士山の麓に広がる広大な森である。森というか森林というか……いや、普通に樹海でいいと思う。


「予想はしていたけど流石は樹海。薄暗いなあ」


 ジャングルにでも入った気分になる。

 実際に日本のジャングルと言っても過言ではないのではなかろうか。そりゃ、生態系は全く違うけど、ジャングルって言ってもいいよね。

 昨日は流石に遅くなりそうだったので、行くのを止め明日……まあ今日だね。今日行くことにしたのだが、昼間であるはずなのに木が多く薄暗さがある。普通に明るいところもあるけど、全体的に見ればやはり薄暗いという方が正しいだろう。


「……自殺防止の看板かね?」


 樹海の出入り口付近にそんな感じの看板がいくつかあった気がする。

 やっぱり、ここで自殺してしまう人は居るみたいだ。そうじゃなければ、わざわざこんな看板とか立てないだろうし。


「確かに……嫌な感じはしてる」


 でもそれが何かまでは分からない。

 魔物気配を感じることはなく、ただただ嫌な感じがする。こう何か……危ないものがあるような、変な胸騒ぎもする。


「魔物……ではなさそうだけど」


 こういった場所とか割と魔物にとってはいい立地だと思うけど。


「……?」


 今何か探知に引っかかったような。


「魔物かな? 弱い反応だから警戒レベルⅠかⅡといったところかな」


 こういう場所ってさっきも言ったけど、魔物にとっては絶好の住処なんだよね。草原を走る魔物とかも居ると言えば居るけど、基本的に薄暗いところを好む。


「向こうの世界じゃ無視してもいいレベルだけど、ここは地球だし……」


 討伐するべきかな。

 あと恐らく、複数いると思う。範囲を広げてしっかり確認したいところだけど、探知魔法の範囲を広げると魔法省とかに感知されかねないしなぁ。そうなると魔物の反応と勘違いして魔法少女を送ってくる可能性が高い。

 魔法省の魔物を感知するシステムについては全く分かってないけど、まあ恐らくは魔力に関連する何かを使っているだろうし。


「そういえばあのトレント、1体は凍結させたままにしたけどどうなったんだろうか」


 目立つだろうし、魔法少女が見つけていると思うけど。あ、でも見つけたとしてもどう運ぶのかな……物理的に運ぶのか、それとも魔法省が専門の何かを向かわせるのか。まあ、わたしの知るところではないけども。


「有効活用はしてほしいところ」


 魔法少女……あの子、ホワイトって言うらしい。あの子の傍を離れたあとに、援軍? の魔法少女がそう言っているのがたまたま聞こえたので間違いはないと思う。

 そんなホワイトの反応からして、あのトレントは今までに確認されたことがないタイプなのだろうと予測できる。わたしは見慣れているけど……。


「それは置いておくか」


 今気にすることじゃないし。

 それよりも、樹海の調査の方が優先度は高い。相変わらず嫌な感じの正体は掴めないけど、天照様の言う通り何かがあるのは確かだ。


「<ホーリー・アロー><マルチ><スタンバイ>」


 一瞬にして光を纏った魔力の矢が数十本生成され、わたしの周囲に浮遊する。


「ショット!」


 1本の光の矢が浮遊する群れの中から発射され、狙った方向へまっすぐと飛んで行く。そのまま飛翔したあと、何かにヒットしその姿を消す。


「魔物か……これは……ゴブリン?」


 はえー……地球にもゴブリンが。

 いや、ホワイトを助けた時に既にトレントを確認してるけど、他にもやっぱり魔物が居るんだなって改めて認識できた。

 ホーリー・アローが刺さって絶命しているゴブリンを見つつ感慨深さを感じる。いや、感慨深ってなんだよって話だけど。


「地球にも魔物がね……」


 原因は不明だけど、天照様は時空の乱れが原因とみてるけど……うーん、なんだろう? 本当にそれだけなのかな。


「まあ、それらを調査するのもわたしの役目、なんだろうなあ」


 退屈しないけどさ。

 なんか異世界……エレスティアでそこそこ長く過ごしていたから完全に感覚がくるってる気がする。地球に居た頃の感じには戻れなさそうだなあ。


「さて、他の魔物も倒さないと」


 そんなこんなでわたしは樹海の中を進むのだった。




■■■




「やっぱり新種だったのね」

『新種というのも何か違うかもしれないですが、今までには確認されたことがないトレントですね』

「……そう」

『幻惑や幻影、麻痺と言った闇属性の力を持っていました』


 魔法少女……ホワイトが交戦した新種のトレント。

 2体居たとされるが、1体については目の前で燃え上がって消滅した、と聞く。ホワイト本人もそう言っていたし、嘘をついているようにも見えなかった。

 2体目については少し離れた場所で氷に包まれて凍結している状態で発見された。

 その2体目を魔法省直属の研究機関にて解析してもらったところ、やはり普通のトレントとは大きく異なっていたことがこれで改めて分かった。


「闇属性、ね」


 闇属性と言えば、魔法属性の1つで特殊属性に分類されるものだ。同じく特殊属性とされる光属性と相反するであり、互いの魔法を打ち消したり等の特性を持つ。

 それは火属性と水属性の魔法をぶつけた時と同じようなものではあるけど、光と闇の場合は特殊で互いの魔法効果すら打ち消すのだ。

 例えば、闇属性の魔法で状態異常を付与するような魔法があるが、それに対して光属性の魔法を使うとそれらを打ち消すし、光属性のリフレクション等の防御系統の魔法もそうだけど、そこに闇属性の魔法を打ち込むと、これまた互いに相殺されて消滅する。


「いつかはそういうのも出てくるだろうとは思っていたけれど」


 段々とエネミーが強くなってきている。それはもう前からそういう傾向だったので分かってはいたけれど、新種に近しいものが出てくるのはこれが初めてかもしれない。

 しかもこのトレント、ホワイトを窮地にまで追い込んだと報告されている。当のホワイト本人は無傷で帰ってきていたものの、そこで聞いたことは驚くものだった。


「……謎の少女」


 ホワイトはその少女に助けてもたったと言っていた。

 ただ、その子が魔法少女なのかどうかは分からなかったみたいだけども。


「……状況から見て、1体目のホワイトにとどめを刺そうとしていたトレントを燃やしたのは恐らく、その少女、なんでしょうね」


 それだけならいいのだけど、その子はそのあとホワイトのことを光属性の回復魔法で治療している。これはホワイト本人がはっきりと、少女を目にして見たことなのでほぼ間違いないとものだと思う。


「2属性の魔法……いえ、2体目のあの凍結させられていたトレント、あれもその少女の仕業だとすると3属性を扱っている?」


 そんなことってある?

 魔法少女が使用する魔法の属性は基本的に1つ。稀に2つ扱う少女も出てくるものの、1属性が大半である。


「3属性……」


 魔法少女かどうかは分からないと言っていたけれど、魔法を使っている時点で魔法少女の可能性は高いけれど……。


「うーん」


 もし本当に3属性を扱うのであれば、逸材どころか史上初の3属性を扱う魔法少女になる。


「でも、情報が少なすぎるわね」


 今回初確認されたということだし。

 恐らくこの子は野良の魔法少女……なのだと思うけれど、可能であればそんな逸材、引き入れたいところではある。

 別に力が欲しいという訳ではなく、正直言ってこの話が本当なら世界規模で驚くことになる。同時に、当然だけどそんな魔法少女が居ると分かれば各国が黙っていないだろう。


 色々と面倒になる前に日本として保護したいという考えもある。


「……」


 3属性とは言ったけれど、もしかするともっと使う可能性があるかもしれない。

 今更ながら思い出したけれど、その少女はホワイトを治療したあと、忽然と姿を消したと言っていた。まるでそこに最初からいなかったかのように。


 それを考えると……姿や気配に干渉する魔法、闇属性系の魔法を使えるという可能性もあるわね。光に闇、火に水? いやもうこれ、手に負えなくない?


「……風と土も使うんじゃないかしら」


 全属性……そうなると真面目に世界中に激震が走るわね。


「まあ、憶測にすぎないから何とも言えないけれども」


 世界に知られるまでは時間はかかると思うけど、うーん。


「とりあえず、その少女についても調べつつ、かしらね」


 そうと決まれば、と私は携帯電話を取り出し、とある人に電話をかけるのだった。

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