45. 全武装展開

「てめぇ……馬鹿なのか?」

「だったら、どうした?」


 睨み合うゲスタとデスト。しかし、それも長く続かなかった。


「また息吹ブレスが来るよ」

「って、お前が攻撃したせいだろうが!」


 遅れて放たれたカーティアの異能に対して、灰色龍が反撃を放ったのだ。ナジルの指摘は真っ当なもの。しかし、カーティアの行動はそれを理解した上でのこと。一触即発の二人を止めるため、あえて反撃を誘発したのだ。


 脅威の存在を思い出したゲスタは苛立たしげに下層に一瞥をくれたあと、吐き捨てた。


「っち、勝手にしろ! 行くぜ、ナジル」

「あ、ああ……カーティアは?」

「その気があればついて来るだろ」


 背を向け歩き出したゲスタを、ナジルが慌てて追いかけていく。カーティアはそのあとを追わなかった。代わりにデストへと駆け寄る。


「あんたも無理やったね」

「すまん……それより、良かったのか?」

「あったりまえでしょうが。あんたがいないチームにもどるくらいなら、あんたと一緒に死んだほうがマシよ。アタシはあんたのことが……」

「カーティア……」


 命の危機を前に燃え上がる二人の想いは――――


「デストさん! 話がついたなら、支援をお願いますね!!」

「あ、ああ、悪い!」

「……まったく、空気を読みなさいよね!」


 下層から聞こえる必死な声によって、本格的に燃えきるには至らなかった。


 もちろん、アシュレイも状況が状況でなければ空気は読んだ。だが、今は無理だ。上層の支援がなければ、一人で灰色龍を相手にしなければならない。


 いや、二人か。


「……っ!」


 ネイが漆黒のメイスで灰色龍を殴りつける。が、ほとんどダメージになっていないらしい。それどころか、煩わしげに振るわれる尻尾の一撃で吹き飛ばされてしまう。


「ネイ! 無理しないでね!」

「……!!」


 魔窟の壁に飛ばされぐったりとするネイリムスは、それでもしばらくすると立ち上がり灰色龍に立ち向かっていく。優れた回復能力のおかげなのだろうが、それでも見ている側は痛ましい。


 だが、止めることはできない。彼女が一部とは言え気を引きつけてくれているおかげで、アシュレイもどうにか灰色龍の攻撃を防げている状態だ。


「〈貫きの矢ペネトレイト・アロー〉!」


 待ちわびた支援が来た。飛来する矢は灰色龍の鱗を穿ち……しかし、体を貫くには至らない。首に刺さった矢は灰色龍に確かなダメージと屈辱を与えた。だが、それまで。致命傷には程遠く、その動きには僅かな乱れもない。


「っち、これじゃ顔も出せん! そっちは大丈夫か!」

「僕とネイは! でもブロンの意識が戻りません!」


 幸か不幸か、灰色龍の憎しみヘイトはデストがさらっていった。アシュレイやネイリムスには目もくれず、穴の底から上層を睨みつけている。


 この状況を利用して、アシュレイたちは情報のやり取りをしていた。今はデストがちらちらと穴から顔を出すことで灰色龍の気を引いているが、それもいつまで続くことか。速やかに状況を改善せねばならない。


「龍を倒せそうな攻撃はありますか?」

「……いや、さっきのがアレじゃ無理だな。カーティアは?」

「相性が悪いわ。アイツ、トカゲのくせに、アタシの火を食いやがったのよ!」

「だ、そうだ」

「そうですか」


 つまり、灰色龍を倒す手段はないということだ。ならば、逃げの一手しかない。


 しかし、それも当然簡単ではない。上下に分断された状況、気絶者の存在、そして圧倒的な戦闘能力の差。何一つとして優位な点はない。


 こうなれば、覚悟を決めるしかない。


「縄梯子の予備は?」

「あるが……今かけても、無駄だぞ。また焼き払われるだけだ」

「そうでしょうね。だから、僕が龍の気を引きます。その隙にブロンを頼みますね」

「はっ!? お前何を……うぉっ!?」


 思わず顔を出そうとしたデストが灰色龍の息吹に焼かれそうになって慌てて顔を引っ込める。


「大丈夫です。短い間なら、なんとかなると思います……全武装展開フルアームズ・マテリアライズ!」


 宣言ともに、黒い影がアシュレイから湧き出した。それは腕輪に、装束に、靴に、円盾に姿を変えてアシュレイの体にまとわりつく。羽根帽子を含めれば五つの影装の同時展開。通常ではあり得ない姿がそこにはあった。


 影装はただ一つでも飛躍的に身体能力を強化する。では、五つの影装を纏ったアシュレイの力は如何程のものか。少なくとも、灰色龍が無視できないほどの力はあるらしい。穴を見上げていた頭をゆっくりと振り、新たな脅威へと向ける。


「〈切り裂け、風〉」


 アシュレイの放つ風の刃が、灰色龍の鱗を幾つも斬りつける。一つずつの威力はデストの貫きの矢には及ばない。しかし、それは何度も何度も、執拗に繰り返された。


――――ガァアアア!


 怒る灰色龍が吼える。同時にその巨体がぶれた。急加速の突進。最初に不意打ちを受けた攻撃だ。


 しかし、今、アシュレイにはその動きが見えている。真っ向からねじ伏せる力はないが、直線的な動きなら避けることはできる。


「はっ!」


 ギリギリで横をすり抜けつつ、龍の顔に円盾を叩きつける。威力はないが、目を狙ったので多少は怯ませる効果があったようだ。それがますます龍の憎しみを増幅させる。


「今です! 長くは持ちませんよ!」

「お前……いや、わかった!」


 穴から顔を出したデストは、アシュレイの姿にしばし硬直する。だが、問答をしている時間はないとすぐに動き出した。



−−−

ここまでご覧いただき、誠にありがとうございます!

しかし、大変申しわけありません……

本作は休止とさせていただきます。

pvが伸びずさすがにメンタルが……(泣)


ちょっと構成がよくなかったですね。

せめて能力開示は最初にすべきでした。

振り返ってみればいろいろ反省点はあるんですが……


一応、書き溜めたところまでは投稿しますが、それ以降は未定です。いつか書きたい気持ちはあるんですが……



反省を生かして能力開示を早めた作品を置いておきます。よろしければどうぞ……


https://kakuyomu.jp/works/16818093091868082312

理外の復讐者、復讐があるけど冒険も楽しむ!~あ、それルール適用外です。戦闘システムが違いますので~

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2025年1月11日 07:05 毎日 07:05

アビス落ち少年の英雄譚〜どんな逆境もなんとかなるなるの精神で乗りきります!〜 小龍ろん @dolphin025025

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