痴漢撃退! ドラマみたい!

崔 梨遙(再)

1話完結:1400字

 僕は、勇敢にも痴漢を撃退したことが2回ある。高校生、18歳の時だ。



 1回目も2回目も、某地下鉄の朝の満員電車だった。僕は人口密度の高さにウンザリしながら揺られていた。そこで、違和感を感じた。OLなのか大学生なのか? わからない22~23歳の女性の様子がおかしい。俯いて、汗をかいて、なんともいえない苦しそうな顔をしていた。体調が悪いのだろうか? もしや、吐きそうとか? 


 僕はとりあえず人混みをかきわけてその女性に近付いた。何故、近付いたのか? その女性が美人だったからだ。僕は女性には優しいつもりだが、美人には更に優しいのだ。困っているなら助けて上げたい!


 近付いてみてわかった。毛むくじゃらの手が、明らかにその女性のお尻を撫で回している。Oh! これが痴漢か? 実際に見るのは初めてだった。一瞬、驚いたが、女性が苦しそうな表情をしている理由はわかった。満員電車の中、僕は更に近付いて、尻を撫で回しているその手首を掴み、ねじり上げた。その手は、中年サラリーマンの手だった。


「やめといたれや」


 僕が睨みを効かすと、中年男は人混みの中、ドアの方へ逃げていった。僕は痴漢中年を睨み続けた。電車が駅に停まりドアが開くと、痴漢は慌てて車両から出て走って逃げた。これで、もう安心だ。


 僕もその駅で降りる。尻を撫でられていた女性も降りて来た。


“来た! 来た!”


「あの! すみません」

「なんでしょう?」


 僕は余裕を持って、ゆっくりと振り返った。やっぱり美人だ。スタイルも私服のセンスも良い。こんな女性が恋人だったら最高だ!


「あの……ありがとうございました」

「いやいや、当たり前のことをしただけやから」


 と言いつつ、僕は階段の手前でその女性の様子をうかがった。女性はホームに立ち、次の電車に乗って去って行った-!


「嘘やろ? “ありがとう”って言葉だけ?」


 普通、こういうことがあれば、連絡先を交換して付き合ったりするんじゃないの? これって、ドラマみたいな“きっかけ”じゃないの? 僕は期待を裏切られて気を失いそうになった。これが現実か……? 映画でもドラマでも漫画でもアニメでも、ここから始まるストーリーがあるというのに、現実ではストーリーが始まらないのか?



 そして、また僕はいつもの満員電車に乗っていた。眠い。ところが! 僕の目を一瞬にして覚ます事件が起こった。僕が痴漢に遭っているのだ。明らかに僕の股間が鷲づかみされている。そして、揉まれている。まさか、男の僕が痴漢に遭うなんて!


 一瞬、突然の出来事に僕は金縛りに遭ったが、次の瞬間、我に返った。痴女か? 痴女の犯行なのか? 僕は満員電車の中身体をねじってその手を見た。毛むくじゃらの男の手だった。痴女なら許すが、男は許さん! 僕は股間を揉んでいるその手を取って、中指を折った。実際に折れたか? わからない。突き指かもしれない。だが、ポキッという音はした。手は引っ込んだ。後ろを振り向きたかったが、人混みで上手く動けない。電車が駅に停車してドアが開いたら、僕達を強引に押しのけて出たスーツ姿の男がいた。男は右手を押さえていた。あいつに間違いない。追いかけたかったが、人混みが邪魔で追いかけられなかった。


 僕は駅長室に行った。


「どうされました?」

「痴漢です! 痴漢がいました!」

「そうでしたか、それで、被害者の方は?」

「僕です!」



「え?」







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