第27話 早すぎる再会

「おはよう」


「おはようございます‥‥‥。あぁ、違うわ。おはよう」


 朝、待ち合わせ場所のロビーに先に待っていた二階堂さんからの挨拶に、クセで敬語で返してしまったが、すぐに言い換えた。

 これからはタメ口で行くと約束したから。


「ハハ。ぎこちないな。‥‥‥っていうか、早乙女くん、もしかして徹夜?」


「ザッツライト」


 朝倉さんの呪詛を浴びた後、もう4時近かったのでそのまま起き続けたのである。

 今更ながら眠気がきて、頭が働かない状態だ。


「なんだ。実の妹に欲情して眠れなかったの?」


「それだけはありません」


 これだから、妹のいないエロ漫画好きは困る。


「ただ、何となくだよ。そういう日もあるでしょう」


「ふーん」


 耳をイジりながら言う二階堂さん。

 俺が徹夜していようが、本心はどうでも良さそうだ。


「おはよ‥‥‥」


「おはようございます‥‥‥」


 しかし、その後に現れた朝倉さんと明日香も、あからさまに徹夜明けの状態で現れたことで、俺への疑いが再発してしまった。


「え? 3P‥‥‥?」


「その口を閉じろ」



\

 近くの喫茶店で朝食を摂りながら、何とか3P疑惑を解消できた。明日香と朝倉さんの援護のおかげだ。


 しかし、車で帰るに当たって、今にも眠ってしまいそうな朝倉さんに運転を任せるのは若干の‥‥‥いや、かなりの不安がある。

 きっと、朝倉さんは俺を面白さで殺すために、心身を削って執筆活動に勤しんでいたのだろう。この事態は俺の責任がデカい。


「少し寝てから出発した方が良さそうだね」


「うん‥‥‥お言葉に甘えて、ちょっと漫喫で仮眠を取ってきます‥‥‥。3時間くらいで戻ります」


 珍しく、申し訳なさそうにしているが、運転という極めて重要な役割を負ってくれている功労者に、我々が何を文句を言えようか。


「大丈夫。ゆっくり休んで」


 そう言って彼女を送り出し、我々はお土産を見たり、もう1度海を眺めたりしながら時間を潰した。

 すると、丁度3時間後に朝倉さんが戻ってきた。


「完全復活!」


 良かった。どうやら俺達は今日中に帰れるらしい。

\



 運転手が最も腹が立つのは、助手席にいる奴が爆睡することだと聞いたことがある俺は、睡魔と戦っていた。


 後部座席の2はグースカ寝ている。

 俺に付き合って徹夜していた明日香は分かるけど、二階堂さん、アンタはどんだけ寝るんだ。


 そんな不満を抱きながらも、無事に我々の最寄駅まで到着した。


「もも。運転本当にありがとうね。早乙女兄妹も、一緒に旅行できて楽しかった。また、どっか行こうね」


 二階堂さんの完璧な総括によって、解散の流れになった。


 後は家に帰るだけ。

 しかし、俺はこの2日間我慢していたことがあった。


 そう。エロ漫画である。

 良くも悪くも刺激の強い旅行だった。

 ここいらで性欲を解放しておかないとマズい。


「明日香。俺ちょっと寄るところあるから、先に帰っててくれ」


「うん‥‥‥」


 普段だったらついていくと言いそうな妹だったが、今日ばかりは睡眠欲が勝ったらしい。


 よし! いざエロ漫画収集へ!

\



 人間、疲れていたらロクなことをしない。


 二階堂さんに初めて会ったエロ漫画コーナーで、俺は心底そう思っていた。


 普段なら、1回の買い物では2冊を限度としているが、判断力が落ちている今、5冊のエロ漫画をレジに持って行こうとしているから。


 奮発しすぎだが、今回は仕方がない。

 自分に甘すぎる言い訳をしながらレジへ。店員さんが女性だけど知ったことか。

 こういう時は、店員さんと目を合わせないようにするのがマナーだ。


「こちらの商品をお買い上げの方に、ポストカードをプレゼントしております。1番から5番、好きなものをお選び下さい」


 提示された見本の資料には、どれもエロい格好をしたキャラクターが描かれている。

 俺は、海に行っていた影響から、水着を着ているキャラのポストカードを選んだ。


「4番で」


「はい。少々お待ちくださいませ」


 レジの奥へと消える店員さん。


「‥‥‥」


 この時間、結構苦手なんだよな。

 後ろで会計を待っている人の目が気になって仕方がない。


「お待たせしました」


 しかし、今回は早めに持ってきてくれた。なんてデキる店員さんなんだ。

 軽く感動したため、マナーとして伏せていた目線を上げてしまった。


「‥‥‥えっ」


「やっと気づいた」


 ニヤリと、不適な笑みを浮かべる店員さん。


 その正体は俺の元カノ、江田シオンだった。

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