第21話 バイキングは性格が出る

「今更ながら、よく食べるねぇ」


「それだけ食べて太らないの、ホント羨ましい」


「私、兄さん以外で、こんなに食べる人見たことないですよ」


 午後6時20分。


 俺は女性陣にとやかく言われながら、次々とバイキングを満喫していた。


 5周目の今回は、カレーを中心にハンバーグとポテトフライと串カツ3種。そして合わないことはわかりきっているのに手が伸びてしまった寿司5貫。


 我ながら馬鹿みたいなプレートだ。センスのカケラもない。

 みんなは優しいから言わないけど、そのセリフにこう付け足したいだろう。


「あんなことがあったのに」


 そう。


 俺はトラウマで倒れた6時間後に、馬鹿みたいな量を食べている。


 早乙女優弥の体調不良の処置の1つに、とにかく美味いものを食うというのがある。

 おかゆやゼリーも、胃に優しい素晴らしい食べ物である。しかし、俺の場合、これらのものを口にしてしまうと「自分は今、病気なのだ」と必要以上に思い込んでしまう。


 そんな馬鹿な脳みそを騙すために、美味いものを食う。

 美味いということは、大抵が健康に良くないものだ。

 故に、身体はいじめることになる。

 しかし、心は回復するのだ。


 基本的にネガティブな俺だが、この世に美味いものとエロ漫画がある限り自殺はしないと思う。


「ゴクッ‥‥‥ゴクッ‥‥‥クハァァァァ!」


「飲料水のCMくるんじゃない?」


 苦笑いしながら、朝倉さんは言う。


「だって、ここ、水まで美味しいんすもん」


「水にそんな差があるかいな」


 そんな、つれないことを言う朝倉さんのプレートがチラッと見えた。


 まず、目が向くのは面積の半分以上を占めているサラダである。

 サラダ! これだけ色々なタイプの美味いものがあるバイキングでサラダ!


 健康的で頭が下がる。

 朝倉さんのスリムな身体はこういう食生活に支えられているのだろう。


 その流れで、明日香のプレートも見てみる。


 こちらはスイーツオンリーの甘味パラダイスが広がっていた。

 モンブランやチョコケーキ。さらには生クリームが乗っているプリンを一心不乱に口に入れている。


「モック、モック、モック」


 小さな口では処理しきれない量を入れたために、頬が膨らみながらも懸命に食べている。


 リスみたい。

 もしかしなくても、俺の妹は可愛いのかもしれない。


 最後は二階堂さんだ。


 綺麗で格好いい彼女のことだ。きっと完璧なプレートに違いない。

 そう期待を込めて視線を移す。


「‥‥‥」


 そこには、信じられない光景が広がっていた。


 カレーオンリーだ。


 何十種類もの食べ物があるバイキングで、カレーオンリー。


 一体、どうしたことだ?

 身体を張ったボケか? いや、二階堂さんは食べ物でふざけるタイプではない。


「えっと‥‥‥二階堂さん。カレーだけっスか?」


「うん」


「何故?」


「え? 好きだから」


 あまりにシンプルな答えに、ぐうの音も出なかった。


 そうだよな。


 せっかくのバイキングなんだから、色んなものを食べようという考えは一般論に過ぎない。

 食事を楽しんでいるのなら、カレーオンリーでも良いじゃないか。


「そうですよね」


「そうだよ。あ。食べ終わったから、もう1周してくるね」


 カレーを食べきった二階堂さんは、席を立つ。

 次は、どの料理オンリーでくるのだろう?


 寿司? ラーメン? ケーキ?


 食事をしながら、少しワクワクして二階堂さんの帰りを待つ。

 その間、1分。


「はやっ」


 あまりにも早すぎる帰還に、驚きが声に出てしまった。

 さすが二階堂さん。メニューを決める決断力もあるらしい。


 さて。今回は何を持ってきたのかな。

 二階堂さんが持っているプレートを見る。


 カレーだった。

 またもや、カレーオンリーだった。


「もうカレー屋にいけや!」


 6時35分53秒。

 俺が初めて、二階堂さんに荒い言葉遣いをした瞬間だった。

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