第3話 出発した電車に乗る方法

「でも……」


 と、光一こういちは口を動かす。


「カメレオンがいると予測できる場所といっても、確か普通の人間ではカメレオン本人を見つけることすらできないって、言っていませんでした? にも関わらず、予測はできる……?」

「……カメレオンの行動には、とある法則性がある」

「とある法則性?」

「カメレオンは、模倣犯もほうはんなの」

「模倣犯……過去の犯罪・フィクションの犯罪を真似まねして、実行する人……」

「そう。カメレオンは、ある小説のある架空かくうキャラクターの犯罪行動に強く影響されている。それは、今までの犯歴を参考にすれば、おのずと導き出されるわ。わばカメレオンは、そのキャラクターの犯罪行動をなぞっているだけ」

「……つまり、その架空キャラクターの行動を追っていけば――」

「――カメレオン本人の居場所いばしょも、大まかはつかめるというわけ」


 なるほど、だから予測はできるんですね――と、うなずく光一。

 彼は、珠美たまみに聞いた。


「その、カメレオンのいると予測できる場所って、どこなんです?」

「電車よ」

「電車……。だったら、今から駅に向かえば……」

「しかし残念。カメレオンが乗っていると思われる電車は、すで始発駅しはつえきから出発している」

「なら、最寄もより駅に待機すれば……」

「その電車は、特急なの。だから、最寄り駅には停まらない。次の停車駅は、ここから車で50分もかかるような場所。いくら私たちの現在地が出発駅と到着駅の間にあるからといっても、時速100キロで走る電車には、とても追いつけない。それにおそらく、次の停車駅に向かう頃には、犠牲者ぎせいしゃが出てしまう。キャラクターは、そう動くから」

「……みじゃないですか?」

「でも、あきらめるにはまだ早い」

「……? 今から駅に向かったところで乗りたい電車はないし、特急電車だから遠方地えんぽうちまでノンストップで走るんでしょ」

「光一。この地域の電車が走る経路は、覚えている?」

「それは……海面を沿って走りますよね」

「その通り。そして、同じく海面を沿って走る道路がもう一つある」

「…………?」

「そう。そしてこの高校は、さいわいにも高速道路からとても近い場所にある。さらに、私たちの現在地は、電車の出発駅と到着駅の間――つまり、言ってしまえば

「えーと……何が言いたいんです?」


 嫌な予感におそわれるとともに、冷や汗を流す光一。

 珠美は、言った。


「高速道路から、電車の上にのよ。ビルの屋上から、となりのビルの屋上に飛び移るようにね」

「…………えっ?」


 顔を青ざめさせる栗色髪の少年。

 正反対に顔色を変えない珠美は、口を開けた。


「だから、車に乗って、車の上から電車の上へ飛び込み乗車する」

「…………マジかい」

ぜんは急げよ。さっさと車に乗ろう」

「いや、車に乗るといっても、俺たちは運転できな――」

「だから、乗せてもらうの。車を運転できる人に」

「そ、そうですよね……」


 珠美の考えたその強行計画に、ビビらざるをない光一であった。

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この男、最強の「ハエ」らしいっ!! バーカ・アーホ @mahousyoujyo

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