第2話 カメレオンとハエ

「……で、」


 と、体育館のセメント製の壁に背中を預けた光一こういちは、ブロンド髪の少女へ質問をした。


「俺に、何か用です? 珠美たまみさん」


 彼女は、首をたてに振った。


透明怪物インビジブルの仕事よ」

「……ですよねー」


 ――透明怪物インビジブル


 それは、光一と珠美が所属するの名前であった。


 透明怪物インビジブル……その組織の役割とは、軍隊や警察などの行政機関では手に負えない凶悪事件を、ありとあらゆる手段を使って秘密裏ひみつりに解決するというものだ。


 要は、暗躍部隊あんやくぶたいである。


 事件解決のためであれば、違法手段さえも許可されている、まさに裏世界の住人。


 そして、透明怪物インビジブルの所属者は、全員何かしらの能力に特化した人間ばかりだという特徴とくちょうもあり、そのことから界隈かいわいでは『怪物』と呼ばれている。結果、組織名が透明怪物インビジブルとなったのだった。


 ちなみに、珠美は光一の先輩的立場である。


 といっても、だ。


 それは所属期間の年数によって出来上がった上下関係であり、実は光一の方が彼女よりも一つ年上だったりする。


 光一は、そんな年下の少女へ聞いた。


「今回の仕事の内容は?」

連続殺人魔れんぞくさつじんま――カメレオンの暗殺よ」

「連続殺人魔、カメレオン……?」

「文字通り、無差別の一般人殺害を繰り返す、今回の標的ターゲットの二つ名」

「なぜ、二つ名がカメレオン?」

風貌ふうぼう体型たいけい、性格をガラガラ変えながら、様々な雰囲気ふんいきの人間を演じ、殺人を実行するその様子が、まるでカメレオンのようだと言われ、そんな二つ名になったらしい」

「なるほど……でも、なんでその任務が、また俺たちに渡って来たんです?」

「光一が必要だからよ」

「俺が?」

「ええ」


 珠美は、説明した。


「カメレオンの変装能力は、そのクオリティの高さのあまり、五感ごかんを使っての正体判別が、ほぼ不可能とのことなの」

「ほう……」

「足が不自由な人間を演じる時は自分で自分の足を骨折させるし、無痛症むつうしょうの人間を演じる時は薬物やくぶつを服用して痛覚をにぶくする……みたいに、変装にかりが無いみたい」

「徹底していますね。それに、色々な意味で変態だ」

「そう、その変態と徹底ぶりのおかげで、普通の人間ではカメレオン本人を見つけることすらできない……」

「だから今回、俺の第六感を利用しようではないか、という戦略になったわけですね」

「そそ。ハエさんの『殺気感知能力』で敵を見つけ出す」

「そのハエさん呼びは、できればひかえてもらいたいのですが……」

「今とてつもなくイライラしているから、ハエ呼びを控えるつもりは全くないわ」

「本当に……誰が珠美さんをこんなにも怒らせたのか……」

「殺されたいの?」

「どうして……っ?」


 ちなみに『ハエ』とは、光一の二つ名であった。


 彼は、生まれながらにして、とある能力に特化しているのだ。

 それは、『殺気を感知する能力』である。


 生き物が放つ殺気を、彼は第六感とも呼べる感覚で、いち早く感知することができる。

 彼は、その殺気感知能力を利用して、素早すばやく危機を予知して、大抵の攻撃を瞬時に避けることができるのだ。


 それはまるで、部屋中を飛び回るハエのように……。


 だから、二つ名が『ハエ』なのだった。


早速さっそく、今から任務スタートですか?」

「当然。カメレオンがいると予測できる場所に向かうわよ」

「了解です……」


 仕事の始まりであった。

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この男、最強の「ハエ」らしいっ!! バーカ・アーホ @mahousyoujyo

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