この男、最強の『ハエ』らしいっ!!

バーカ・アーホ

第1話 女はこわいよ

 とある高校の体育館裏。

 周囲に人気ひとけのないそこは、恋の告白場所として、生徒間せいとかんで定着している神聖な地であった。

 そんな神聖な地に、今日も少女の告白が響き渡る。


「私と、付き合ってくれませんかっ!!」


 目をぎゅっと閉じ、一生懸命言葉を吐き出す少女。そんな少女の対面側には、1人の男子高校生が立っていた。


 ぼーっ、と。


 さっきまで昼寝していた事がバレバレの、寝ぼけまなこを相手に向けている。

 そんな彼は、返事を返した。


「あー、うん。良いよー」


 あまりにも軽いオーケーだった。

 だが、少女は違和感よりもうれしさがまさったのだろう。緊張した面持おももちがくずれ、ぱあぁっと笑顔になる。


「本当……っ!?」

「本当本当。だって、付き合うって『あれ』でしょ?」


 ――刹那せつな


 彼は、眠そうだった目をくわっ! と解放させて、夜神何某やがみなにがしが浮かべそうな、ワルな笑みを見せた。


「学校内でいちゃいちゃして、非リア軍団にみじめな想いをさせる、至高しこうの『マウント行為』でしょ」

「ん……?」

「クラスのやつらが俺に嫉妬しっとの目線を向けるのが楽しみだなー。――あー、キミたちは一人ぼっちか。そっか、可哀想かわいそうに……ふっ――って鼻で笑ったら、どんな反応を見せるのか……くくくっ! 笑いが止まらんぜ……!」

「さ、櫻井さくらいくん……?」

「休日は、デートってことにしよう! 俺、暇じゃないからさ。デートできんのよ」

「デートできんのよっ!?」

「ということで、今日からよろしくね」

「――別れよう」

「速くない?」

「当然だよ」


 さっきまでリンゴのように赤かった少女のほほは、燃え尽きた焼き肉のように、すっと消えていた。

 両目には、それぞれ一粒ずつのなみだを浮かべ出す。


「綺麗な栗色の髪……学校内でも一際ひときわ端正たんせいな顔立ち……優しそうな雰囲気ふんいき……一目惚ひとめぼれだったのに……っ! だまされた私が悪かったんだっ!!」


 彼女は、右手を大きく振り上げた。


 ――瞬間。


 彼は、


「死ねっ!!」


 そんな暴力的ワードと共に、少女は目の前の人物へ、精一杯せいいっぱい平手打ひらてうちを繰り出す。

 彼は、その一撃を――


「おっ、と」


 ――うしろへ後退して、回避した。


 急な少女の逆上ぎゃくじょうに対して、しかし少年はおどろいた表情など見せていない。

 まるで、『そうなること』が予知できていたかのように、平静な様子を保っていた。


 渾身こんしんのビンタが外れた少女は、バランスを崩し、ボウリングのピンのようにドンッ! と地面へ転ぶ。

 起き上がって、


「大嫌いっ!!」


 そんな言葉を吐き捨ててから、その場を走り去った。


 彼――櫻井さくらい光一こういちは口を開ける。


「女って、こわ……」


「――それは、私も?」

「げっ、その声は……っ!」


 光一は、体育館のかげからいつの間に姿を現していた、見知った人物を視界にうつした。


 こしまで伸びたブロンド髪を風になびかせ、するど眼光がんこうを放ったそのジト目は、かわいいとも取れるが、少年からしてみればおそろしいことこの上ない。


 それは、昔からの強い関わりゆえのものだろう。


 美少女は、光一の目の前まで近づいた。

 そして、口をとがらせる。


「げっ、て何? げっ、て」

「ど、どうもです。珠美たまみさん」

「あぁ?」

「なぜに威圧的いあつてきで?」

「ちょうどさっき、とてつもなくムカつく光景を目にしたからよ……っ!」

「ちょうどさっき……?」

「そう、ちょうどさっきよっ!!」

「珠美さんがこんなにもムカついているなんて……っ! 誰だ? 彼女をイラつかせたのは……!」

挑発ちょうはつしとんのか?」

「なんで!?」


 彼女――金井かない珠美たまみは、光一をにらみながら、言葉を発した。


「良いこと? 光一。好きでもない人と、付き合うのは絶対にダメよ! 絶対に!! 次、不純な動機で告白を受け入れてみなさい」

「は、はい……?」

「1万回は殺してあげるから……!!」

「やっぱり女は怖い……っ!」

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