少女が自殺に至るまで

猫井はなマル

第0話 ある廃屋

林川はやしかわ沙代さよ。わたしの名前です。

わたしは、友達の絵麻えまれいと3人で、ある廃屋に行きました。


夏の話です。


太陽がギラギラ照りつけて、ひどく暑かったことを覚えています。


ええ、昼です。肝試しに。昼って珍しいですよね。でも夜だと怖すぎるじゃないですか。少なくとも絵麻たちはそう言っていました。


廃屋の扉は、なかなか開きませんでした。ようやく開いた時の、ホラー映画のような音……言葉には表しづらいですね。ホコリとカビのにおいが風にのって届いてきました。

真夏、昼、それなのにひんやりとしていました。


たしか、絵麻が「引き返そう」と言っていました。それを無視して進んでしまったのです。


しばらく歩いたあと────床がガタガタ揺れて、傾きました。

地震が起きたと思いました。絵麻も礼もそう思っていたはずです。

ドアがゆがんで、出られなくなりました。


その時、声が聞こえたんですよ。「いただこうか」って。


3人のうち、誰の声でもありません。


暗い暗い廃屋の中でそんなことあったら、怖いでしょう?わたしも絵麻たちもそれはもう叫びましたよ。


そうしたら、急に明るくなったんです。廃屋だから、電気なんてないはずなのに。


きゃあああ、という声、絵麻のモノです。ひびきました。わたしも礼もかたまってしまって。


また暗くなりました。すると、鼻の上に生あたたかいものが触れました。

暗くて最初は分かりませんでしたが────血です。怖すぎると、声も出なくなるんですね。


ゆっくり上を見ると、絵麻が宙づりになっていました。暗がりの中でも、人間はよく見えます。

死んでいる?

なぜか冷静な考えが浮かびます。


また明るくなりました。絵麻は消えていました。


さっきの揺れ、あれは地震ではなく、なにか恐ろしいものだったんじゃないか、そう思えてきました。


「いただこうか」


あの声がしたんです。礼が叫んで────もう、あとはさっきと同じです。え?さっきって何かって?───絵麻のことですよ。


本能的に、2人とも死んだんだろうな、と感じました。

逃げなければ、逃げなければ、あの声がきこえる前に。無我夢中に入口付近まで走りました。


扉は開いていました。ゆがんでいたはずなのに。


足を1歩踏み出すと…声がしました。「いただこうか」ではないですよ。


絵麻と礼の声です。

「沙代、助けて」


その声は、よどんで、暗くて、低くて。


まだ、耳の奥でひびいているのです。

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