第5話 一縷の望み
「萌絵ちゃん、これ…昨日直哉さんからもらったの。色々あって粉々になっちゃったけど黙ってるのも違うって思って。」
まるで何事もなかったように翌日はごく普通の一日が始まった。昨夜の一連の中でもらったお菓子はヒビが入ったり砕けてしまったりしたが琉璃は一応萌絵にこのことを報告した。同じグループの琴葉と梨乃もその場におり、二人は驚いた顔をする。しかし萌絵は「いいよ、それ。食べちゃって。」と二つ返事で伝え、表立って琉璃を責めたりはしなかった。むしろ不信感の矛先はちゃんと直哉に向いたわけだが、どこか琉璃にヤキモチを妬かずにはいられなかった。
「ねえ、これ大きな事件だったみたいだね。」
琴葉が差し出したスマホには『電車内ジャック謎の覆面集団 乗客は怪我なしか』という見出しと共に昨日の事件がニュースになっていた。梨乃と琴葉が先程から真剣に見ていたのはこのニュースだったようだ。
(何だか色々説明がややこしくなりそうだから私がその場にいたことは黙っていよう。)
「私も見た。本当怖いよね、何なんだろうその人たち。」
梨乃も別のニュースアプリで同じ事件の記事を見ている。しばらく電車通学の際は気を付けるようにと学校の掲示板にも貼り紙がされていた。
____一方、魔術界。
「しばらくずっとコソコソしていたから何をしていたかと思えば魔術を使いこなせる人間を探していたと?」
あの後、晴とも琉璃ともはぐれてしまい殺人鬼も捉え損ね、魔術の暴走を防ぐために強制的にエレスに連れ戻されたアルファは椅子に座らされ、エレスに事情聴取を受けていた。エレスは他の魔術師と協力してどうにか魔術界の崩壊を防ぎ、ガンマの思い通りにさせないよう力を尽くし続けていた。そのおかげか、今は一旦落ち着いている状況だった。図星ゆえに何も答えないアルファにエレスはため息をつく。
「…君は何も分かっていない。魔力だ何だと言っていたが人間が持つ魔術と重合するものは『
「…やはりエレスは頭がいいな。」
「君が後先考えず行動しすぎなだけだ。魔術界の静寂もあいつが人間世界に気を取られているからだろう、悪いがこちらに矛先が向くまでにどうにかしなければ。」
「だから、俺が彼女らに魔術武器を渡そうとしたんだ、上手くいかなかったのはごめん。」
結局彼らの力はまだ目覚めていない。晴に渡したあの武器も消えてしまった。月日だけかけて何も成せなかったことを実感し、
「…出来る限り手伝うよ。しかし魔術師の契約がこうも厄介だとはね。僕らはガンマを殺すことはおろか、直接的に人間に手助けをすることもできない。そこには代償が生じてしまうから…。」
魔術師が願いを叶えればその人間には代償を支払ってもらわなければならない。これからの希望にそんなことしたいはずがなく、エレスもアルファも同じ気持ちだった。
「…もし、本当に
何だかんだ憎まれ口を叩きつつもアルファの抱く希望に自分も乗ってみたくなったエレスは少し微笑んで言った。
「その二人以外にまだ
[直哉、琉璃にお菓子を渡した件について詳しく聞かせてほしい。]
別にお菓子くらいプレゼントしても構わなかったのだが、それについて自分に一言あってもいいじゃないかと思ってしまう。単刀直入に送ったその言葉にはすぐ既読がついた。
[ごめんね、お詫びに放課後迎えに行くよ。海でも見に行こう。]
はぐらかされた気がしないでもないが直哉の運転で海に行くのは好きだった。言われた時間通りに直哉は萌絵を迎えに来て、手を振って見送る琉璃たちにも直哉は微笑んで会釈をした。
「……直哉、何で琉璃にいきなりお菓子なんてあげたの。」
車内で萌絵はもう一度聞いた。彼女として考えたくない未来が脳裏に浮かんで離れないからだ。運転しながら直哉は至って普通に返事をする。
「たまたま貰ったものがあったからあげただけだよ。」
「理由になっていない。それなら…私にくれても良かったじゃない。」
海についた。萌絵のその言葉に直哉は答えず、黙ったまま浜辺まで歩く。
「……こちら…そうなんです、急に海が…。」
「多分、そこにいる人たちの……。」
近づくにつれ、海上自衛隊らしき人間が浜辺にポツポツと見えてくる。
「あ、今こちら立ち入り禁止なんです。先程ここで水難事故があって。」
直哉と萌絵に気づいた警察の女性が二人を制止しにやってきた。
その人混みの奥、一人の青年が崩れ落ちて涙を流していた。
「
魔術師××計画 LIRY @LIRY-Crystal__
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