第7話  迷臣ストッカおじ



 オッドロウが、あわてて先ほどよりも一段深い礼を取ろうとした瞬間、


「おひいさま――」


 足早に近づいてくる青年があった。


「やあ、ストッカおじか」


 少女、いや王女ノアコアードが振り返る。


「大魔道士どのとひさしぶりの再会、旧交をあたためていたところなんだ」


「ほうほう、それは結構でございますな。それにしては、さして会話が弾んでいるようにも見えませんがね」


 年の頃は二十代半ば、引き締まった体つきの長身の青年である。精悍な顔に王族相手にはやや不謹慎に見える皮肉っぽい笑みをうかべ、やれやれといった風にこちらに駆け寄ってきた。


 オッドロウはこの青年を知っていた。七年前の昔、アキアル王国で編成した勇者パーティに加わり、魔王討伐に参加したアキアル貴族だ。


 魔王討伐の旅に出発前、勇者パーティがアキアル近郊の「深淵の森」で魔獣相手に戦闘訓練に励んでいた頃、オッドロウが経営する魔法具屋で高価な戦闘補助系の魔導具を大量に、幾たびも買い入れてくれたものだ。


 ――金で買える安全は惜しまず買っておけというのが信条でね。


 青年がまだ十代の若造だったころから、オッドロウが度々聞かされた彼の口癖である。そういう彼のスタイルを、冒険者連中などは、


 ――小鬼ゴブリン一匹倒すのにも、まるでドラゴン討伐みたいな装備を毎度持ち出してちゃ、なにをやっても大赤字になっちまう。


 金頼みの貴族さま、と侮る者も少なくなかったが、本人は当時から意にも介していない様子だった。彼は実に魅力的な容貌をもった男だったし、そうなるに相応しい艶福家でもあったようだ。そういう面からのやっかみもあったのだろうが。


 各国連携の魔王討伐事業がうやむやに終わったあとも月に一度は魔法具屋を訪れ、毎度気前よく金を使ってくれている。顔見知りかつ気心の知れた、付き合いの長いお得意様なのだ。


「ストッカどのよ、これは助かったわ」


「ここしばらくはお見限りだったが、なにか良い品は入ったかな、オッドロウ師」


「いやいやいや、そんなことよりのう」


「ふふふ、おおかた、いきなり馴れ馴れしく話かけられ難儀していたというところでは? わがおひいさまは、どうもズケズケとしたところがある。単に人見知りをしない性分なのを、これが自分の長所と勘違いして改めようとしない」


「なんだと、ストッカおじ――」


 傍らの王女ノアコアードが背伸びをしつつ、ぎろりと目を剥く。その姿はようやく年相応の少女にオッドロウの目には見えた。


 ストッカはそれに目を合わせず、ニヤリと笑うと、


「オッドロウ師、実はあなたを探してたところだ。おひいさまに足止めされてるとは思わなかったが」


「おぬし、王女殿下の守り役だったんか? ちいとも知らんかったぞ」


「不良貴族が、いまさら姫君を守る騎士気取りかと下々にわらわれるのもつまらんし、吹聴することでもないのでね。それはともかく聞きたいことが――」


「まって、ストッカおじ」


 はっと気づいたように、ノアコアードがストッカの服の袖をひっぱった。


「そうそう、大魔道士どのに、わたしも尋ねたいことがあるんだ」


 オッドロウの姿を目にした瞬間、思わず懐かしさがこみ上げてすっかり忘れていた、とノアコアードはオッドロウのほうに向き直ると、神妙な顔つきで一瞬間を置き、静かな声で問いかけた。


「魔力検査はちゃんと終えられたんでしょう? わが妹イクシスはこの先……魔力をちゃんと発現できるんだろうか?」



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2025年1月9日 18:15

滅亡王女は世界を変えたい ~先史文明の超科学で魔法文明に挑戦します~ たけながなお @naokichiban14

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