世界の中心より、この美しき世界へ~What a wonderful world~

 回遊街トレサムラ。


 都会的なビルやマンションだけではない。所々に畑や空き地、公園があったりと、息苦しくなく住みやすい。ごく平凡なありふれた街。


 歩道を進む、白いワンピース姿の女性。


「いい天気ね。それでいて過ごしやすいわ」 


 本日は晴天。心地よい風が吹いているのも相まって、まさにお出かけ日和といったところ。


「さて……喫茶店『星の導き』はこっちかかしら」 


 上り坂の途中。シンプルなシック調の喫茶店が佇んでいた。


 扉を開き、中に入る。


 カランカランと、ベルの音。


 店内は木でできた落ち着いた雰囲気となっており、会話もまばら。


「いらっしゃいませ! あちらの席へどうぞ!」 


 ウェイトレスが手差しで案内。


 ――ラッキーね! 一つだけ席が空いていたわ! 


 カウンター席に、腰掛ける。


 と、ここで。


 ドン、と。隣の男性の肩幅が広いためにぶつかってしまう。


「あっ、ごめんなさい――え?」 

「いや、こちらこそ申し訳な――あ?」 


 その顔を、覚えている。なぜか、片時も頭から離れなかったその顔を――。


「ほ、焔姫!?」 

「魔剣士!?」 


 再び「最強の魔剣士」と「無敵の焔姫」が邂逅。


 店内に響き渡る、二人の声。ざわざわと騒がしくなり、熱量が上がってゆく。


「なっ、なんてことをしてくれたの……! ああっ、もう! 面倒なことになるからいったん出ましょう!」 

「えっ」 


 無意識か。焔姫が、魔剣士の手をぎゅっと握る。その繊手せんしゅは少し力をこめれば砕けてしまいそうで。


 ――っ、手をっ……!!!


 そのままエリザはローシュを連れて退店。







 喫茶店から少し離れた、二階建ての開けたパーキングエリア。現状、人の気配がなさそうだったここで二人は話す。


「あのねぇ! どうしてわたくしについてくるの!?」 

「そんなことを言っても、偶然ではないか?」 


 理不尽な説教だが、なにも言い返せず腕を組むローシュ。


「もうこれっきりよ! わたくしには女王になって、宝具で世界を救うという夢があるの!」 

「いや、それは間違っているな」 

「なんですって……?」 


 ローシュはその夢をキッパリと否定した。エリザは眉をひそめる。


「宝具は破壊しなければならない。必ず悪事を働くもの者が現れる」 

「駄目よ。それだけじゃこの二国の争いは止まらないわ」 

「宝具を壊せば争いも止まるだろう」 

「違うわね。宝具が存在する前から戦争があった。つまり原因はもっと根深いものよ」 

『……』 


 沈黙が流れる。


 ……雨が降り出した。


「もういいわ。これで、さよならよ」  

「………………」 


 相容れない思想。どうしようもない隔たりが、二人を別ち。


 その女性(エリザ)は行ってしまうかに――思われた。


 刹那。


「こんなところでデートかい? 随分と吞気じゃぁないか」 

『っ!?』 


 嫌味っぽい声。その方向、上空に二人が振り返ると。


 紫色の頭髪。にこやかな相好そうごう。灰色の貴族服をまとった男が浮遊している。


 レイアジュ王子だ。


「王子……? なぜここに?」 

「単刀直入に言おう。僕の狙いは君さぁ。最強」 


 レイアジュが指差し。


「私?」 

「あぁ、そうとも。君にはここで」 


 こくりと頷く王子。そして。


傀儡くぐつになってもらおう」 


 指先から魔弾が放出。一直線にローシュへ。


「そう簡単にやられるとでもお思いで――」 

「魔剣の無い君が人質を守れるとでも?」 

「なっ……!」 


 あろうことかローシュは固まってしまう。魔弾が直撃してよろめく。膝をついた。


「ぐうっ」 

「そうさぁ。それでいい。僕に一度でも反撃してみろ。術式を発動して祖国の王様たちを糸切れ人形にするぞぉー」 

「貴様……!」 


 下衆げすな作戦。気分を悪くするためにあえて王と大臣たちを選んだのだろう。


「君が『宝具を壊す』とかのたまっているのを知ってさ。民を守る為に頑張っている王様を勝手に裏切るのは止めなくちゃ。でも君は優秀だ。 だから傀儡にしようと思って。これなにか間違っているかい?」 


 ――確かに、私の落ち度だ。独断専行どくだんせんこうで理想を叶えようとした私の在り方は間違っていた……な。


 更に飛来する魔弾。


 敗北だ。戦闘も、理想も。


 そんな絶望の暗がりを、照らすように。


 エリザの炎が魔弾を受け止めた。


「これ以上彼を傷つけるなら、わたくしは黙っていられませんわ」

「……ここで君が邪魔をする理由が解からないなぁ。厄介な敵を潰せるんだから問題ないよね。しかもなんの事情も知らないだろ」 

「確かにそうですわ。しかしお言葉ですが、彼の優しさが王を護るように、今のわたくしは彼を護ることを優先しますわ」 

屁理屈へりくつを……!」 


 焔姫が、魔剣士に歩み寄る。


 その花のように清らかな手に、情熱の炎剣を造り出す。


 それを魔剣士に手渡した。


「さぁ、立って。……貴方の今の、魔剣よ。これで切った相手は術式が途切れるわ」 


 ローシュはやっと立ち上がる。


「今度こそ、しっかり話し合いをしましょう。みんなでね」

「……感謝する」


 そして二人で諸悪しょあく根源こんげん対峙たいじ


「勝手に納得するなよな! ゴミどもがっ――」


 レイアジュが腕を振り上げ術式を発動しようとした、が。


「『火焔一閃かえんいっせん』」


 瞬きすらなく、ローシュの魔剣から飛ばされた焔色ほむらいろの閃光がレイアジュを切り裂いた。


 術式が途切れ、人質が解放される。


「ガァッ、ア! ふざけるなぁ! 全て、全て僕のモノなんだァァァ!」


痛みと屈辱に怒り狂った王子。身体中が鈍色に発光。自爆の予備動作モーションだ。


「本性を現したわね」

「……あぁ」


ローシュとエリザは、並んでてのひらを突き出す。


 ――彼にも理想があるかもしれない。けど、それはただの傲慢ごうまんではなかったわ。だから彼に賭ける。


 ――関わる事の大切さを教えてくれてありがとう、エリザ。そして王子。次は貴方と分かり合えるかもしれない。


「『未来照らす一筋の光明オーバーロード !!!』」


二人の掌から、極彩色ごくさいしきの魔法が解き放たれる。


それは闇をかき消し、天にも届く。


曇り空をかき消し、晴天せいてんの輪をつくった――。







世界の中心「流星光の庭園(スターズ・フラワー)」。


香る花畑。中央の台座には願いを叶える「星の指輪」。


対峙する「最強の魔剣士」と「無敵の焔姫」。


と、焔姫の背後からひょっこりと顔を出すエルフが。


「あの男がローシュ様ですか。陰気ですね」

「こら! 彼はいい人よ。話せば分かるわ」

「ふっ。構わない。実際そうだからな」

「とにかく。あの男は初対面で姫様を抱いたのだから信用なりません」

『誤解だ(よ)!?』


こほん、とエリザが咳払い。気を取り直して。


「今度こそ決着をつけましょう」

「あぁ。望むところだ」


 魔剣士と焔姫の絶技が、ぶつかり合うのだった――。


 魔剣士(ローシュ)がもし、焔姫(エリザ)に恋をしたとするなら……彼等を中心にして世界が、少しずついろどられるのだろう。

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もし最強の魔剣士と無敵の焔姫が恋に落ちたら? 楪 紬木 @YZRH9

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