世界の中心より、この美しき世界へ~What a wonderful world~
回遊街トレサムラ。
都会的なビルやマンションだけではない。所々に畑や空き地、公園があったりと、息苦しくなく住みやすい。ごく平凡なありふれた街。
歩道を進む、白いワンピース姿の女性。
「いい天気ね。それでいて過ごしやすいわ」
本日は晴天。心地よい風が吹いているのも相まって、まさにお出かけ日和といったところ。
「さて……喫茶店『星の導き』はこっちかかしら」
上り坂の途中。シンプルなシック調の喫茶店が佇んでいた。
扉を開き、中に入る。
カランカランと、ベルの音。
店内は木でできた落ち着いた雰囲気となっており、会話もまばら。
「いらっしゃいませ! あちらの席へどうぞ!」
ウェイトレスが手差しで案内。
――ラッキーね! 一つだけ席が空いていたわ!
カウンター席に、腰掛ける。
と、ここで。
ドン、と。隣の男性の肩幅が広いためにぶつかってしまう。
「あっ、ごめんなさい――え?」
「いや、こちらこそ申し訳な――あ?」
その顔を、覚えている。なぜか、片時も頭から離れなかったその顔を――。
「ほ、焔姫!?」
「魔剣士!?」
再び「最強の魔剣士」と「無敵の焔姫」が邂逅。
店内に響き渡る、二人の声。ざわざわと騒がしくなり、熱量が上がってゆく。
「なっ、なんてことをしてくれたの……! ああっ、もう! 面倒なことになるからいったん出ましょう!」
「えっ」
無意識か。焔姫が、魔剣士の手をぎゅっと握る。その
――っ、手をっ……!!!
そのままエリザはローシュを連れて退店。
☆
喫茶店から少し離れた、二階建ての開けたパーキングエリア。現状、人の気配がなさそうだったここで二人は話す。
「あのねぇ! どうしてわたくしについてくるの!?」
「そんなことを言っても、偶然ではないか?」
理不尽な説教だが、なにも言い返せず腕を組むローシュ。
「もうこれっきりよ! わたくしには女王になって、宝具で世界を救うという夢があるの!」
「いや、それは間違っているな」
「なんですって……?」
ローシュはその夢をキッパリと否定した。エリザは眉をひそめる。
「宝具は破壊しなければならない。必ず悪事を働くもの者が現れる」
「駄目よ。それだけじゃこの二国の争いは止まらないわ」
「宝具を壊せば争いも止まるだろう」
「違うわね。宝具が存在する前から戦争があった。つまり原因はもっと根深いものよ」
『……』
沈黙が流れる。
……雨が降り出した。
「もういいわ。これで、さよならよ」
「………………」
相容れない思想。どうしようもない隔たりが、二人を別ち。
その女性(エリザ)は行ってしまうかに――思われた。
刹那。
「こんなところでデートかい? 随分と吞気じゃぁないか」
『っ!?』
嫌味っぽい声。その方向、上空に二人が振り返ると。
紫色の頭髪。にこやかな
レイアジュ王子だ。
「王子……? なぜここに?」
「単刀直入に言おう。僕の狙いは君さぁ。最強」
レイアジュが指差し。
「私?」
「あぁ、そうとも。君にはここで」
こくりと頷く王子。そして。
「
指先から魔弾が放出。一直線にローシュへ。
「そう簡単にやられるとでもお思いで――」
「魔剣の無い君が人質を守れるとでも?」
「なっ……!」
あろうことかローシュは固まってしまう。魔弾が直撃してよろめく。膝をついた。
「ぐうっ」
「そうさぁ。それでいい。僕に一度でも反撃してみろ。術式を発動して祖国の王様たちを糸切れ人形にするぞぉー」
「貴様……!」
「君が『宝具を壊す』とかのたまっているのを知ってさ。民を守る為に頑張っている王様を勝手に裏切るのは止めなくちゃ。でも君は優秀だ。 だから傀儡にしようと思って。これなにか間違っているかい?」
――確かに、私の落ち度だ。
更に飛来する魔弾。
敗北だ。戦闘も、理想も。
そんな絶望の暗がりを、照らすように。
エリザの炎が魔弾を受け止めた。
「これ以上彼を傷つけるなら、わたくしは黙っていられませんわ」
「……ここで君が邪魔をする理由が解からないなぁ。厄介な敵を潰せるんだから問題ないよね。しかもなんの事情も知らないだろ」
「確かにそうですわ。しかしお言葉ですが、彼の優しさが王を護るように、今のわたくしは彼を護ることを優先しますわ」
「
焔姫が、魔剣士に歩み寄る。
その花のように清らかな手に、情熱の炎剣を造り出す。
それを魔剣士に手渡した。
「さぁ、立って。……貴方の今の、魔剣よ。これで切った相手は術式が途切れるわ」
ローシュはやっと立ち上がる。
「今度こそ、しっかり話し合いをしましょう。みんなでね」
「……感謝する」
そして二人で
「勝手に納得するなよな! ゴミどもがっ――」
レイアジュが腕を振り上げ術式を発動しようとした、が。
「『
瞬きすらなく、ローシュの魔剣から飛ばされた
術式が途切れ、人質が解放される。
「ガァッ、ア! ふざけるなぁ! 全て、全て僕のモノなんだァァァ!」
痛みと屈辱に怒り狂った王子。身体中が鈍色に発光。自爆の
「本性を現したわね」
「……あぁ」
ローシュとエリザは、並んで
――彼にも理想があるかもしれない。けど、それはただの
――関わる事の大切さを教えてくれてありがとう、エリザ。そして王子。次は貴方と分かり合えるかもしれない。
「『
二人の掌から、
それは闇をかき消し、天にも届く。
曇り空をかき消し、
☆
世界の中心「流星光の庭園(スターズ・フラワー)」。
香る花畑。中央の台座には願いを叶える「星の指輪」。
対峙する「最強の魔剣士」と「無敵の焔姫」。
と、焔姫の背後からひょっこりと顔を出すエルフが。
「あの男がローシュ様ですか。陰気ですね」
「こら! 彼はいい人よ。話せば分かるわ」
「ふっ。構わない。実際そうだからな」
「とにかく。あの男は初対面で姫様を抱いたのだから信用なりません」
『誤解だ(よ)!?』
こほん、とエリザが咳払い。気を取り直して。
「今度こそ決着をつけましょう」
「あぁ。望むところだ」
魔剣士と焔姫の絶技が、ぶつかり合うのだった――。
魔剣士(ローシュ)がもし、焔姫(エリザ)に恋をしたとするなら……彼等を中心にして世界が、少しずつ
もし最強の魔剣士と無敵の焔姫が恋に落ちたら? 楪 紬木 @YZRH9
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