暦を守れ

白川津 中々

◾️

働いてください。


手紙にはそう書いてあった。


俺だって働けるものなら働きたい。しかし、どうも駄目だ。上手く体が動かず、精神の方ものたりとしている。働きたくない。もう疲れてしまった。そんな気持ちが胸を締めている。かつてのようにはもういかない。

手紙には、俺がいなければ多くの人が困るとの脅し文句があった。だが、そんな大層なものじゃない。確かに俺の仕事は変えが効かないが、皆が皆、俺を望んでいるわけでもないし、いなければいないでなんとでもなるものだ。ハワイだって人は生きていける。この時代に、俺は必須ではない。


ただ、一つ。

一つだけ、未練というか、心に残っているものがある。


手紙に書かれた最後の一文。

皆、雪降るクリスマスを願っています。お正月を待ち望んでいます。バレンタインを、楽しみにしています。


サンタに胸躍らせる子供や食卓を囲む家族の姿を想像すると、胸が騒つく。そして、正月を迎え、桜咲くまでの一間。厚着した人々の心が徐々に暖まっていく季節。この刹那は、俺が最も誇りをもって勤める期間。忘れられない、最低気温。


……やるか。


重い腰を上げ、支度を整える。

日本の四季、冬。本日より、出勤。

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