男装悪食騎士メアリィは自分らしく生きたい

仲仁へび(旧:離久)

男装悪食騎士メアリィは自分らしく生きたい



 私は女だが、騎士として働いている。


 男ばかりの騎士団の一員として、男装しながら。


 女として生まれたが、男として混じって剣を振って、国や民を守っているのだ。


 女は女らしく大人しく、じっとしていろと周りが言う声に耐えられなかったため、こうして剣を振っている。


 だが、後悔はない。


 私が私らしく生きられないのなら、女性として生きる人生に価値などないのだから。


 そんな私は目立っている。




 原因は、男装しているからではない。


 一番の理由は、私が討伐した魔物を食べる、と言う点だ。





「むしゃむしゃむしゃ」

「よくそんなもの食えるな」


 私が魔物を食べていると、同僚の男性騎士が話しかけてきた。


 私は魔物を食べる悪食騎士と呼ばれている。


 つまり、魔物を食べる人間なんていないから、悪目立ちしているのだった。


「俺は食う気にもなれないよ」


 だから友達はまったくおらず、仕事でもだいたい単独高度。


 だけど、この男性騎士だけは私に話しかけてくれるから、良い人だ。


「ソール、これなかなかうまいぞ。食ってみるか?」

「嫌だよメアリィ。なんでそんな魔物なんか食うんだ。お前は良い奴だけど、悪食の趣味だけは理解できないな」


 私はちょっとがっかり。


 ソールは普段から私と話してくれる良い奴なんだけど、魔物に対する食事だけはあまりよく思っていないようだ。


 幼い頃に、魔物に襲われて家族が瀕死の重傷を負ったらしいから、嫌悪する気持ちも分からなくないが。


「魔物を食べられるようになれば、食料難も解決するのに」


 私は騎士団の備蓄がつきかけている事を思い出す。


 今は森の中で、魔物の討伐をしているが、予想外に時間がかかってしまった。


 そのせいで食べ物がなくなりかけているのだ。


 もうじき補給の舞台がやって来るらしいけど、まったくくる気配がない。


 このままだと、騎士団が全滅するのは時間の問題だろう。


 ソールも、他の騎士団員もそれは分かっているはず。


 それなのに、まったく身近にある食材に目を向けないのは、魔物を食うと魔物になるというただの思い込みが原因でもある。


 昔からそういった言い伝えがあるが、実はそんな事はないと最近の研究で分かってきた。


 しかし、長い間すりこまれてきた考えは、そう簡単に消えてなくならないのだろう。


 本来なら、時間をかけてゆっくり意識を変えていきたい所だが、その時間がないかもしれないのが困る所だ。







 数日後。


 私は、一人で森の中で狩りをしていた。


 魔物を剣でざくざく討伐中。


 あの部位は煮込むと美味しそう。


 あっちは焼くと美味しそう。


 ついついそんな事ばかり考えてしまう。


 もちろん、きっちりと仕事はこなす。


 女だからとなめられないように、ミスを出さないように、討伐を行った。


 私の腕前は、所属している騎士団の中でもトップに近い。


 だから、そこらへんの普通の魔物には負けないだろう。


「よし、これくらいか」


 私は討伐した魔物を一緒に持ってきた台車に積んで、拠点に帰る。


 腐りやすい部分とかはその場で、剣を使い、簡単にかっさばいて。


 今回は大量に狩れたので、これをこのまま廃棄するのはもったいない。


 うまく処理すれば、一週間は持つだろうから、余計に有効活用したくなってくる。


 悩みながらとりあえず帰ってきた私は、さてどうしてものかと頭を抱えた。


 なぜなら、騎士の何人かが、体調を崩して倒れていたからだ。


 ここ数日、体力が尽きて倒れてしまう団員が多い。


 原因はもちろん食べるものがないからだ。


 このままでは、長くはもたないだろう。


 そう思った私は、とある決断をする事にした。







 男装している時は、こういう時に役に立つ。


 私は本来の姿に戻った後、仲間達の前に姿を見せた。


「すいません。補給部隊の一員ですが、先行してきました」

「なんだって?」


 驚く彼らを適当な言葉で言いくるめた後、魔物を処理して彼らに食べさせる。


 彼らははじめ抵抗していたが、隊員たちが倒れいている現状は無視できなかったのだろう。


 渋々ながら、魔物肉のスープやステーキに口をつけた。


 すると、彼らは今までの拒否感が嘘の様にかきこみはじめた。


「うまい、初めて食べたけど。まじか魔物の肉ってうまいんだな」

「普通の肉と変わらないな、というか下手な家畜よりうまい」


 一口目がクリアできたなら、あとはもうちょろいものだ。


 団員全員が口をつけてくれた。


 それもそのはず。


 魔物は普通の動物より魔力が多いだけで、根本的な構造は変わらないのだから。


 それどころか、個体によっては脂が乗っていたり、身が引き締まっていておいしい。


 あと、魔物が人間を襲うだけで、食べないのが救いだ。


 さすがに悪食と言われている私でも、人間を食べた魔物なんて、口にしたくないもの。






 そういうわけで騎士団の団員達は回復してきた。


 こういう時、姿が二つあるというのは便利よね。


 頃合いを見計らって男装姿に戻った私は、何食わぬ顔で魔物の討伐をこなす。


 意識もうろうとしているか、ぐったりしている野郎どもが多かったおかげで、私がしばらく姿を消していた事は気づかれなかった。


 団員達が回復してから数週間経過してようやく補給の部隊がやってきたのだが、あのまま私が何もしていなかったら全滅もありえただろう。







 魔物をざくざく剣で討伐している私の横で、ソールが不思議そうにつぶやく。


「なあ、メアリィ。この間やってきた補給部隊の連中、先行している人間なんていないって言ってたけど、どういう事だろうな」

「さあ、もしかして森の幽霊でも見たんじゃない?」

「怖い事言うなよ。実態あったし、調理する幽霊なんて聞いた事ないぞ」


 性別を変えただけで私かどうか判別できなくなるほど、団員たちが弱っていたのか、それとも変装に気合を入れすぎた私の変装スキルがカンストしているのか。


 仲間の騎士団員達が、「先行してやってきた補給の女」と「悪食騎士のメアリィ」に気付く事はない。


 命を救われた事で一目惚れしたとかいう男どもが続出しているらしいが、よほどの事が無い限り、私が名乗り出る事はないだろう。


 私は自分らしく剣をふるえている今の姿の方に、満足しているのだから。



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