Column1 「ビスケット」と「クッキー」の違いとは?

 今回は「ビスケット」と「クッキー」にまつわる、「言葉のイメージ」について取り上げようと思います。


     ☆


 早速ですが、皆さんに質問です。「ビスケット」と「クッキー」の違いとは何でしょうか。


 何となくは分かるかもしれませんが、「厳密な違いを説明せよ」なんていわれたら困ってしまうような話ですよね。私も調べるまでは「油分が少なそうなのがビスケット」で「油分が多そうなのがクッキー」みたいな説明しかできませんでした(笑)


 さて。

 二つの違いを考える前に、まずは辞書でそれぞれについて調べてみましょう。(今回は多くの語釈を載せたため、小さい辞書のみ引いています)


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【ビスケット】

☆『明鏡国語辞典 第三版』の場合

 小麦粉に牛乳・油脂・卵・砂糖などを混ぜて焼いた菓子。


☆『新明解国語辞典 第八版』の場合

 子供のおやつなどにする、堅焼きの洋風干菓子。小麦粉にバター・砂糖などを入れて作る。


☆『三省堂国語辞典 第八版』の場合

 小麦粉・たまご・バター・砂糖などをまぜてこね、小さく分けて焼いた菓子。


☆『旺文社国語辞典 第十二版』の場合

 小麦粉に砂糖・卵・バター・牛乳などをまぜてかたく焼いた小形の洋風菓子。


☆『新選国語辞典 第十版』

 小麦粉に砂糖・牛乳などをまぜて焼いた菓子。

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 このようにしてみると、どうやらビスケットは小麦粉に牛乳、卵、バターを入れて焼いた、かたいお菓子であることが分かります。

 辞書によっては、卵が入っていなかったり、砂糖が入っていたりするようですが、この辺りは商品や作る人によって違うということなのかもしれません。


 次にクッキーを見てみましょう。


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【クッキー】

★『明鏡国語辞典 第三版』

 小麦粉にバター・牛乳・卵・砂糖・香料などをまぜて焼いた、小さな洋菓子。脂肪分が多い。ビスケットの一種。


★『新明解国語辞典 第八版』

 香料を入れた堅焼きの洋風千菓子。ビスケットと違い、手焼きで形・味に変化のあるものが多い。


★『三省堂国語辞典 第八版』の場合

 小麦粉にたまご・バター・砂糖などをまぜ、一口サイズに焼いた菓子。ビスケットよりあまく、コクがある。


★『旺文社国語辞典 第十二版』の場合

 小麦粉・バター・卵・牛乳などを材料にして焼いた、ビスケットに似た小さな洋菓子。


★『新選国語辞典 第十版』の場合

 小麦粉にバター・砂糖・牛乳などを加えて焼いた千菓子。

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 うーん(笑) どう見てもビスケットとそれほどの差がないような気がしますね(笑)

 どっちがどっちでもいいような気もしますが……皆さんはどうでしょう。


 ここまで書いておいてなんですが、食べ物関連の名前と言うのは、こういうことってよくあります。同じものなのに土地によって名前が違っていたり、違うものなのに同じような名前が付いていたり。

 日本ですと、「ぜんざい」とか「おしるこ」なんかが、ビスケットとクッキーに似ているかなと思います。


 ですが、どこかで私たちはビスケットとクッキーは使い分けていると思います。

 それは人によって違う部分はあると思うのですが、この点についてお菓子の本を見て確認したところ、興味深いことが書いてありました。


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 ビスケットはイギリスを代表する菓子である。

(中略)

 日本では、クッキーと呼ぶ方が通りがいいかもしれない。日本ではビスケットとクッキー、どちらの言葉も使われており、そこには若干の区別がある。昭和46年(1971)に施行された公正競争規約によると、クッキーは糖分とバターなどの脂肪分を合わせて総量の40%以上を含み、手作り風の外観を持つものとしている。ビスケットはそれ以外のもので、平たくいうと、ビスケットよりもクッキーの方が高級というわけだ。

 この区別は日本独自のもので、本来は同じものである。国によって呼び方が異なり、日本では混在している状況なのだ。イギリスではビスケット、アメリカはクッキーとなる。

(『伝統からモダンまで、知っておきたい英国菓子135選 増補改訂 イギリス菓子図鑑 お菓子の由来と作り方』より引用)

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 このように書いてあります。実際の「ビスケット」と「クッキー」は同じ者なんですね。


 そして「ビスケット」と「クッキー」を分けて考えているのは、上記にあるように公正競争規約による「クッキー」の定義があり、脂肪分が40%以上ある商品については「クッキー」と付いているというわけですね。

 ここから私たちの無意識下に、ビスケットとクッキーの違いが何となくあるように思っていたのかなと思います。

 そのため「ビスケットはクッキーよりもあっさりしているもの」「クッキーは油分が多いもの」という風に捉えている方がいらっしゃいましたら(私ですね 笑)、それは日本独特の捉え方が、生活している中で定義されていったのだろうと思います。(誤解のないように申し上げておきますが、だからそれがいい、悪いというわけではありません)


「ビスケット」と「クッキー」に違いがあるように感じていた理由が分かったところで、ここまでの内容をまとめてみようと思います。


<まとめ>

 言葉の由来から見れば、ビスケットとクッキーは本来同じもの。

 ビスケットよりもクッキーのほうが高級と感じるのは、日本独特の捉え方。公正競争規約による「クッキー」の定義から由来する。

 ——ということかなと思います。


 皆さんの「ビスケット」と「クッキー」のイメージは、どういうものでしょうか。


 以上、「ビスケット」と「クッキー」の違いの話でした。

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