第3話:異世界迷子の魔法

「一日かけて読んだ意味ぇぇ……」


 結局俺が一晩かけて手に入れた魔法の知識についてであるが、大雑把にまとめて言えば魔力と呼ばれる体内のエネルギーを媒介にして、自身の想像した事象を引き起こす超常の力である、とのこと。


 ……うん、本を読む前にした説明と何ら変わりがないように思える。


 原理だとか、どんな魔法があるのかといった説明が欲しかったはずなのに、その重要な詳細を何も得られないとは……いや得られはしたんだが、その内容が簡潔すぎた。


 挙句の果てには、中盤からは誰のかもわからない日記帳となっていたため、ほとんど流し読みである。おかげでかなり分厚い本であるはずなのに、一晩かからずに読み終えてしまった。


 つまるところ、今後の魔法の使用に関しては自分で学んでいくしかないと言うことか。


「まぁじかぁ……」


 とりあえず、魔法の発動については昨夜もやっていたようなやり方でいいようなので、あれを基本にしてできそうなことを片っ端から試していくしかない。


 とりあえず、今日一日は結界内に閉じこもって魔法の練習にあてる必要がありそうだ。でなければ、この結界の外にいる化け物どもを相手に、安全無事に生き残れる気がしない。最低限、まともに戦えるくらいには魔法を使いこなせるようにならなくてはなるまい。


「そうなると、魔力の補充をしておかないとだな」


 周囲に張り巡らせた【サークルプロテクト】の結界に視線を向けて呟く。

 この魔法は一晩の安全を確保できるよう朝まで持つ分の魔力を使っているため、もうそろそろ魔法が強制的に解除されてしまう頃合いだ。そのため、もう一日持続するようにと追加で多めの魔力を結界に注ぎ込む。


 すると、僅かながら俺の体から『何か』が抜けていく感覚があった。

 この何かが、魔法を使用する際の代償となる《魔力》である。力の源となるその力は、意識を集中すれば体の中心付近で塊が渦巻くように留まっているのだ。この塊から使用する分の魔力を流し込むことで魔法の使用が可能となっていたりする。


 さて、環境は準備できた。


 あとはどう練習するかであるが、とりあえずは魔法と言えばでお馴染みの火、水、風、土、あとは雷の効果を持つ魔法を練習するのが良いだろう。


 ただ、火の魔法はやめておこう。ここが森の中であることももちろんなのだが、結界という閉じた空間で使えば、あっという間に結界内の酸素が枯渇し息苦しくなってしまう。


 となれば……


「手頃なのは……土、かな?」


 ここは森の中。当然下を見ればそこには土があるため、この土が操作できるのかを試してみることにしよう。もしできたのなら、次は風、水の操作を行うつもりだ。火や雷といった、少し危険そうな魔法は結界を解除した後だ。


 よし、と使用する魔法の属性を決め、適当に地面の土を動かしてみる。


 これが案外面白いのだ。


 思った通りに触れてもいない地面がうにょんうにょん動く様子は違和感がすごいのだが、これを自分がやっているのかと思うと何か少し楽しくなってくる。

 そしてしばらくの間、土を操作して動かしていた俺は、粘土細工のように何か作れるんじゃないかと土の操作に意識を集中させる。


「……お、なかなかうまいんじゃないか?」


 できたのは、想像した通りの土人形。犬をイメージして作ったのだが、色が土一色であること以外は完璧なデフォルメの土人形が作成できた。どうやら、この人形も魔力による操作で動かすことができるらしい。


 いくつか作れば、一人で土人形の劇なんかもでるかもしれない。


「さて、次は……」


 そこから土だけではなく、他にも試したいと思ったものをどんどん試していく。主に使用するのは決めていた通りの土、風、水の魔法であるが、少しばかり興味がわいた俺は、指先程度に火と雷の魔法使用した。


 正直、めちゃくちゃ楽しかった。


 そしてその結果得られたのは、どうやらこの魔法と言うのは俺が思っている以上に自由度の幅が広い、ということである。それこそ、本当にやろうと思えば何でもできてしまうだろう。

 土や水と言った、魔法に加えて、昨夜使用した光の魔法。加えて、少し苦労したとはいえ、重力を操って体を軽くすることもできたのだ。


「これは……極めるのは至難の業だぞ……」


 しかし、使い勝手が良すぎるというのも逆に困ったものだ。どんな状況でどんな魔法を使用するのか、その判断が全て術者である俺の選択に委ねられる。


 選択肢が多すぎて判断が遅れるのは、少しまずいのではないだろうか。


 また、頭でイメージを浮かべ、魔力を流して魔法を構築し、そしてようやく魔法が発動できる、という過程を踏む必要がある。そのため、どうしても発生の速度には難が出てしまうのも事実だ。


 発動前に近づかれて攻撃されれば元も子もない。となれば、常時俺を守ってくれる防御壁なども必要になる。

 魔法の発動までの時間短縮も、今後の課題として考える必要があるだろう。


「まぁ、やれるだけのことはやるしかないわな。俺には、【魔法】これしかないわけだし」


 グッと見つめていた手で拳を作った俺は、再び魔法の練習を再開する。


 ここである程度魔法を使えるようになっていれば、俺は自信をもって魔法使いナオミチと名乗ることが……いや、ダサすぎて逆に恥ずかしいなこれ。


 脳内の俺が名乗りを上げるのだが、第三者視点で置き換えてみればダサいことこの上ない。


 また何か格好良さそうなのがあればいいのだが、二十を超えた男が何を言ってんだか、などと思案しつつも魔法の練習を進めていく。


 現在思いついているものとして、魔法に名前を付けることでその魔法名を言えば瞬時に発動させる、というものがある。要は、先ほどのイメージ→魔法構築→魔法発動のプロセスを、イメージと魔法構築を同時にやってしまうことで魔法発動を短縮するという案だ。


 魔法はイメージが大事。そのため、このイメージをいかに早く思い描けるかが重要となる。


 俺たちがリンゴと聞いてあの赤く丸い実を思い浮かべる様に、使用する魔法にも名前を付けておけばすぐに発動させることも可能になるだろう。


 ファイアーボール、と聞けば火の玉を思い浮かべるようなものだ。


 となると、先ほどの【ファイア】や【サークルプロテクト】のように魔法に名前を付けていたのは、なかなか合理的であったようだ。……本当に、本を読んだ意味があまりなくなってしまっているな。


 魔法の使用に際して詠唱なども考えたが、よく考えれば時間が無駄な上に、そもそもそんな長い詠唱を一つ覚えるなら、魔法の名前をいくつか覚えた方が良いと考えて不採用とした。


「さて、今日一日でどこまでできるようになるかな」


 化物が結界内の俺を虎視眈々と狙う中、自身を奮い立たせて魔法の練習に励む。

 その日、俺は日が暮れても尚、夢中になって魔法の練習をするのだった。


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