第3話

騎馬警官に連れられて、まずは病院へ。ベンは痛みに耐えながら医者に連れられて病院内に、彼の仲間は待合室に通された。続いてミラ達は警察署に向う。

 目的の場所に着き皆馬を降りる。警官に導かれ署内へと案内される。

 署内は多くの人でごった返していた。それぞれの用事がある市民たちが受付に並び自分の番が来るまで今か今かと待っている。警官達は書類の作成や街で捕まえてきた犯罪者の拘束だと各々の職務を全うしている。その中を縫うように歩きながらミラ達はとある部屋へと通される。部屋には中央に机と椅子が置かれている一般的に言われる取調室そのもの。


「では用意する物があるからここで待っていてくれ」と言って部屋を出る警官。

 二人はそこで待たされてた。

 どれだけの時間がたっただろうか。ミラが時間を確認する。時間は、わずか数分しかたっていない。体感的には数十分は経っていると思った。


「私たちどうなるんでしょう」


 ミラにとってこんな大きな警察署に入るなんて初めての事だ。また警官に連行された事も初めての経験、なんだか自分が悪い事をしたのではないかと錯覚してしまう。

 不安になるミラに対し。


「悪いようにはならないさ」


 少しぶっきらぼうな言い方で彼女を落ち着かせようとする。


「慣れているんですね」


「少しはね」


 廊下から足音が聞こえてくる。足音は扉の前で止まりドアノブがガチャガチャと音がある。部屋の扉が開かれてさっきの警官が入って来た。手には何かの書類と筆記用具を持っていた。


「待たせてしまったね。君はそこに座ってくれ。お嬢さんはそこで待ってて」


 ジョセフに椅子に座るように促す。


「さっさと終わらせるとしよう」


 彼はそう言って椅子に腰掛ける。ミラは壁にもたれ掛かり彼らを見つめる。


「街中で派手にやったものだね」


「あっちから絡んできたんだ」


「それは分かっている。が、この街にも規則ってもんがあるんでね。君の銃は街から出るまでこっちで預からせもらうよ。異論は無いね?」


「仕方ないな」


 おもむろにガンベルトを外し机に置く。


「大事に保管してくれよ、とても高かったんだからな」


「ではここに署名してくれ」


 と言って一つの書類を差し出す。その書類は物品の保管を証明するため物。彼はそれに名前を書く。


「これで良いか?」


「ああ。もう帰っていいよ」


 二人は警察署を後にする。





「銃、取られちゃいましたね」


 悲しそうに言うミラ。


「豚箱にぶち込まれるよりはマシさ」


 悪い方よりも良い方に考えるジョセフ。そんな彼に習って彼女も良い方に考えようと思う様にした。


「で、これからその子を探しに行くのか?」


「ええ、一秒よりも早く見つけたいです!」


 彼女の目からは熱い意志のようなものを感じる。


「丸腰で行くのか?」


 彼に言われてキョトンとする彼女。


「丸腰じゃないですよ。短剣持ってますし」


「短剣で銃に勝てると思うか?」


「…無理ですね」


「買いに行くか」





 大きな街でも小さな町でも必ずある店、それは銃砲店。最新の銃から古いガラクタな銃まで様々な物が売っている。ミラの故郷では雑貨屋に銃が置いてあったから専門店に行くのは初めて。


「ここが銃砲店ですか」


「行くのは初めて?」


「故郷には無かったので」


「相変わらず平和なとこだな」


「行った事あるんですか?」


「あるよ。最もそんなに居たわけじゃないがね」


 と話しながら店の扉を開ける。店内には数々の銃が置かれ、重々しい空間を形成している。カウンターの机に座り込み新聞を読んでいる30代くらいの店主がこちらに目をやる。


「いらっしゃい」


 店主が新聞を畳み椅子から立ち上がる。


「どんな物をお探しで?」


「この子用の銃が欲しい。何かあるかい?」


「ほほう、その子の」


 店主は覗き込むようにミラを見つめる。


「銃を持たすには少し幼すぎるとちゃいます?それよりもお兄さんが持った方がええんと思いますよ」


 訛りの利いた口調で話す。少し嫌そうにも聞こえる。


「護身用の為だ。それに今、この街は何かと物騒じゃないか。可愛い可愛いこの子に銃を持たせるのは、俺にとっても安心できるんだがね」


「そうですか。それでしたら何丁かお持ちします」


 店主はカウンターを離れてお目当てのモノを探し始める。


「ところで、何かこだわりとかあったりするか?グリップは白い方が良いとか」


「そうですね。可愛いのが良いです!」


 年相応な答えをする。


「可愛いのか…あると良いな」


「ジョセフが選んでくれるんですか?」


「そうだ。銃の事は分からないだろ」


「そうですね。じゃあお願いします」


「お待たせしました」


 店主が何個かの箱を手に戻ってきた。カウンターに箱を置き、中から銃を取り出しカウンターに並べる。


「まずはこの手のモノでは定番のレミントン・デリンジャー。上下二連式で弾は44口径、小型で扱いやすくポケットに忍ばせるのにも丁度いい。手元のはブラックですが、シルバーのモデルもありますよ。お好みで選んでください」


 ミラは興味津々に見つめている。


「この握り手のところが丸っこくて可愛い」


「そうでしょそうでしょ。これは女性にも人気なんですよ」


「で、これはいくらだい?」


「そうですね。これだと120クレジットですね」


 値段を聞いた時、ジョセフは顔をしかめた。


「高いな…」難色を示す。


「ダメですか?」


「予算が足りないな」


「でしたらこれはどうですか。コルトシングルデリンジャー。弾は一発しか入りませんが、先ほどよりも小さく扱いやすい。値段も手ごろですよ」


「一発か、心もとないな」今度は装弾数に難色を示す。


「装弾数が気になるのなら、これならどうです。プロテクターパームピストル。変わった形をしていますが装弾数はなんと7発。使う時はこうやって手に握り込んで使います」


「ふむ…」首を傾げる。


「何か問題ありますか?」 


「威力はどれくらいあるんだ」


「護身用の銃ですよ。熊を倒しに行くんじゃないんですよ。威力なんて求めるなら普通の銃を買いなさいよ」


「なら普通の銃も見せてくれるか?」


「あいよ、わかりました」


 店主は少し不機嫌になりながら陳列棚から銃を取り出す。

 カウンターに並べられた銃を見つめていたミラは、ふと端の方にある木箱に目をやる。木箱には「激安品」と書いてある。


「ジョセフ。あっちにあるのは」


 彼女は木箱の方を指差す。彼もそれを見る。


「あれの事か?」


「そう。あれです」


「ガラクタしか入ってないだろ。何か気になる物でも入っていたか?」


 二人は木箱に近づき中を覗く。その中にはジョセフが言ったようにガラクタがたくさん入っていた。


「店主さん、この木箱の中身見てもいいですか?」


「あ、それかい。お嬢さんのような人物には似合わないもんですよ。それでも良いなら見てもええよ」


ミラは汚れるのを気にせず手を突っ込み漁り始めた。


「変わった形のモノがありますね。この銃はなんですか?」一つの銃を取り出す。胡椒引きのような形をしていて店主に聞く

「それはペッパーボックスと言う銃だよ。一時期安くて手に入るもんでみんな持ってたもんだよ」


「同じのが沢山入っていますね」


「今じゃそれよりも性能が良い銃があるからね、廃れるのも早かったよ」


 ペッパーボックスの中をかき分けてさらに漁る。その先にはそれらと比べると真新しい銃を見つけた。


「この銃はなんです?」


 彼女が手に取ったのはローディングレバーが付いていたない五連発のリボルバー。コルトベビードラグーン。


「それかい。それは…」


 言葉に詰まる店主。


「どうした?何か言えない事があるのか?」


 ジョセフが詰め寄る。


「それがですね。その銃は呪われてるって言われていましてね」


「呪われている?」


「ええ。これを持つとすぐに死んでしまうと言われているんですよ」


「そんなものがなぜこんなガラクタの中に?」


「そこなら誰も見ないから置いておいたんだよ」


「そんな危ない物、捨てたらどうだ?」


「何回も捨てようとしたんだが。その都度、どうゆうわけか戻って来るんだ」


「本当か?君の勘違いじゃなくて?」


「ほんとさ。お客さん信じてないな」


「そうゆう訳じゃないが」


 彼にとって呪いの類は信じている方だが。いざその物を目にして信じるかはまた別問題だ。


「お嬢さん。その銃だけはやめておきな。他にも良いモノがあるから」


 店主の話を聞いてミラは少し考える。


「私、これにします!」


 それを聞いて店主は驚く。


「ええ!?話を聞いていなかったのかい。それを持ったら死んでしまうだぞ」


「私には、この呪いを解く方法を知っていますので大丈夫です」


「解く方法?お嬢さん、そんな事知っているのかい」


「知ってますとも。これでも私、魔女見習いですから!」


「なら…」


 店主はしぶしぶ売る事にした。


「決まりだな。では支払いを」


「金なんて要りません。そいつが無くなるだけでもありがたいのに」


「ならこの銃が入るホルスターとフラスコ、弾、それと鋳型をくれ」


「全部で15クレジットだ」


 懐から紙幣を取り出し支払いをする。


「毎度あり」


 二人は銃砲店を出た。ミラは新しく買ってもらったベビードラグーンを見ていた。


「これが私の銃」


「街中ではホルスターに入れておけ。警官に没収されたくないだろ」


 言われた通り腰のベルトに通したホルスターに入れる。


「それでさっきの話は本当か?」


「呪いを解く方法ですか」


「そうだ。君が死んだら君の両親に顔向けできないからな」


「出来ると言うか、その…」


「どうした?」


「私が知っている方法は呪いを他に逸らす事です」


「さっき言ってた事と違うじゃないか」


「これから覚えるから大丈夫です!」自身満々に言う。


 彼は喜ぶべきか、怒るべきか、その二つを合わせた複雑な表情を浮かべながら肩をすぼめる。


「ねえジョセフ。私に銃の使い方を教えてくれますか?」


「構わないが今からか?」


「扱い方くらいは知っておきたくて」


「そうだな。あの路地裏で教えよう」


 彼が指を指す先には。建物と建物間で影になっており光が入り込まない薄暗い路地裏がある。

 二人は路地裏まで行き、そこで銃の他使い方を教える。


「銃の扱い方を教えるが、今まで使った事は無いんだな?」


「父が持っていましたが、触った事はありません」


「そうか。じゃあまずは、銃を使う前に大事な事を教える。一つ、傷つけたくないモノに銃を向けない。二つ、撃つまで引き金に指を入れない。三つ、常に弾が入っていると思って扱え。こんな所か、覚えたか?」


「なんとか」


「よじ、それでは構えだな。銃を握ってみろ」


 言われた通りホルスターから銃を抜き、壁に向って構える。


「こうですか?」


「まぁ、悪くは無いな」


「これからどうするんです?」


「親指でハンマーをコックしてみろ」


 また言われた通りの動作をする。ハンマーが下ろされこれで発射準備は完了だ。


「銃口を撃ちたい方向に向けろ。そうしたら引き金をゆっくり引くんだ」


 緊張しながら引き金に人差し指を掛け、ゆっくりと力を入れる。

 カチ。ハンマーが落ちる音が辺りに響く。

 銃弾は撃ち出されなった。弾は入っていなかったからだ。


「はぁ…緊張した」


「残るは実際に撃ち出すだけだな。ここでは出来ないが、この街に射撃場はあったかな」


「撃つのはまた今度で良いです。それよりも」


「分かってる。探しに行くんだろ」


「はい!」


 元気の良い返事をする。


「それじゃあ精霊さん、お願い」


 その声に答えてか、ミラのポケットから光の玉が出てくる。光はそのままどこかに飛んで行く。


「そっちね。ジョセフ、ついて来て」


 二人は再び通りに出る。人ごみを避けながら進んでゆく。やがて人通りが落ち着き、静かな通りに入ってゆく。そのまま歩き続けて、光がとある路地に曲がっていく。それを追いかけて彼らも路地に入ってゆく。その先は行き止まりだった。光もその場でくるくる回っている。


「ここが終着点と言う訳か」


「そんな…」


 自分には見つけられると信じていた彼女は落胆する。


「でも精霊は止まっていない。彼女が居るなら止まるはずだもの」


「そうなのか?俺には見えないから分からんが」


「ここじゃない。でも、確かに妖精はここまで来た…」


 ますます肩が落ちてゆく。ミラの中には自信があった、絶対に見つける自信が。しかし、現実はそう行かなかった。

 これで終わりかそう思われていた時。ジョセフが何かに気づく。


「落ち込むのはまだ早いようだ」


「…?」


「下を見てみろ」


 足元を見ると、下水道に繋がる入口にマンホールが横たわり塞いでいた。

 ミラは再び元気を取り戻す。


「妖精が回っていたのはそのためだったのね。さっそく入りましょう!」


「そう慌てるな。ここに入るためには準備が必要だ。まずはそれを取りに行こう。話はそれからだ」

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最後のフロンティア ハークネス @harkness

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