可愛い子には名前を聞かねば

ルンルン気分で家に着いた。そして、その気分が消えていった。冷静に考えて、森に女子おなごが一人いたので連れて来ました、なんてまともじゃない。

親にもなんて話せば良いんだ。ノープランの状態はかなりまずい。

「はやく、中へ」

急かされた。

「静かに、物音立てず、気配を消して入るよ」

「分かりました」


カチャ


本当に小さく、耳を済まさないと聴こえないぐらいの音で入った。地獄耳の父は起きなかった。

私はジェスチャーで二階の自分の部屋に入るよう指示した。その意図をこの子は理解してくれた。

ありがたい。めちゃめちゃ。

気配を消して、音もない。泥棒にでもなった気分だ。

そして、無事に私の部屋に着くことができた。

「ここが私の部屋。今日はとりあえず……押し入れで寝てもらうしかないな」

「この程度、平気」

「ほんっとにごめん。明日にはちゃんとした寝床確保できるようにするよ」

この子、どこで喋れる知能を得たんだろう。不思議だ。というか、敬語もたどたどしいけど使ってる。

「室内だし、帽子も脱いだら?暑いでしょ」

気遣いのつもりだったが、この子は首を振って断った。

「何かとんでもなく嫌な理由が?」

「いや………あなたになら、見せてもいいです」

「そ、そう…なの?そういうものなの?」

そう言って、帽子を脱いだ。するとそこには可愛いケモ耳があった。私は即座にモフりたいのを我慢した。

「これを見せると、大体の人は血相かえる」

そうなんだ。その人達とは一生分かり合えないと仮定した。

「いい意味?悪い意味?どっちで」

「…多分、悪いいみ」

一応聞くと悪い意味だった。一生分かり合えないと悟った。

「こんなに可愛いのに?」

しょうがないと汲み取れる頷きで返された。

この後、気まずい空気が流れたので寝るよう催促した。

「今日は、もう寝よう。これからの事は寝ながら考えておくから」

「わかりました」

「おやすみ」


◇◇◇◇◇


本当にこれからどうしよう。親にバレるのも時間の問題だろうし。辛うじて明日は休みだからいいけど、私が学校行ってる間はどうにもできない可能性が高い。

既に床に就いてから30分は経ったろうか。今後のことを考えると寝れる気配がない。いや、寝れないのはいつものことかもしれない。

なんか……面倒くさい!もう、明日の自分に全て託そう!そして、寝よう!


◇◇◇◇◇


「なんか、めんどくさい事託された」

最高の睡眠と最悪の目覚めのような気がする。

時計を見ると7時ちょうど。まだ、起きるのはダルいからスマホでも眺める。

何か、忘れてる。なんだっけ。

綺麗さっぱり消えた昨日の記憶を掘り起こす。

学校で、脳内ポエムなら森がオススメと言われ、夜に向かった。そこには……何かいたはず。

「ケモ耳!」

思い出した。可愛いケモ耳がいたんだ。それで、家に連れて帰った。その子は、押し入れにいるはず!

スパンッというキレのいい音を立てて扉を開けた。やはり、ケモ耳の可愛い子がいる。

「モフりたい」

「…え」

寝起き一番にこれは驚くだろう。でも、欲望に抗うのも限界なのだ。

「モフりたいのですが、良いですか?」

「……?どうぞ?」

許可をもらった。ならば、私は全力でモフるのみ!

モフモフ、モフモフ。

「癒された。ありがとう」

「???」

「そういえば、その耳はなんの動物の耳なの?」

「ネコかと思われます」

「可愛いね」

ペットを飼えない私はネコ耳を見るだけでなく、触ることもできたのか。一日の出来事にしては中々良い。

「お腹減った?」

「…いえ」

「いやいや、絶対減ってる」

「そんなことないです」

「お腹鳴ってるじゃん。起きてからずっと」

私もお腹減ったな。聞きたいことも沢山あるから、食べながら話そう。

「何食べたい?」

「美味しいもの」

「分かった。持ってくる」

静かにドアを開け、リビングへ向かう。

そして、リビングに着くと冷蔵庫から卵二個、戸棚からはチ○ンラーメンを二袋。小さな鍋に水を適量入れた後、コンロに火をつけ沸騰させる。待ってる間にラーメンを入れる大きめなお椀を用意。お椀に麺をそれぞれ入れて待機。

数分後、湯が沸騰したのでそれぞれのお椀に湯を入れる。次に、卵を割って入れて蓋をする。これから三分待つ。

ただ、ラーメンだけだと物足りないので、デザートをつける。

なんかないかなぁ……

冷蔵庫を物色していると、この間とっておいたプリンが。しかも、都合良く二つ。

ラッキー、デザートはこれにしよう。

三分経ったので、お盆に箸、レンゲ、プリンと食べるためのスプーン。それから、本命のチキ○ラーメン。重いが、気合いで自室に運ぶ。


◇◇◇◇◇


「ごめん、待った?」

「そんなことないです」

「そっか。じゃあ、食べようか」

そう言い、ラーメンを差し出す。この子はどうやって食べるのか分からないみたいだった。

「大丈夫?食べれる?」

「へいき」

…猫舌かもしれない。ネコ耳ついてるし。可愛い。

箸は、最初は苦戦していたけれどコツを掴むと、すぐに上達した。飲み込みが早くて凄い子だ。ちょっと羨ましい。

「あのさ、まだ自己紹介してないよね」

「ですね」

「てことでさ、名前教えてよ。私は、前宮つき」

「……なまえは日和です」

「いい名前」

やっぱり、会話が続かない。もう何回も変な空気を生み出してる。

じゃあ、一緒に暮らすかどうか提案しよう。

「これから一緒に暮らす?」

「もちろんです」

「即答だけど、後悔しない?」

「大丈夫です」

「そ、そう」

「これから、よろしくお願いします」

「あ、うん。よろしく」

結構、メンタル強い。こっちが押される。

「つきー?起きてるー?」

誰だろ…あ!お母さんだっ!ヤバい!

「とりあえず、押し入れに」

小声で指示した。伝わったようだ。

ドアが開いた。

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少女とケモノは永遠に約束を交わす 霧雨 碧 @Kirisame-Midori

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