少女とケモノは永遠に約束を交わす
霧雨碧
ケモ耳少女ってこの世にいたの?
『私と、✕✕になってくれる?』
◆◆◆◆◆
しっとりとしている長い黒髪。異国の者と思わせるような青い瞳。服は所々ほつれており、ツギハギだらけ。そして、深く帽子を被っている。
世間は「野生児」「異端」と言うかもしれない。
私はそんなこと思わない。むしろ、可愛い。
皆は帽子を外した姿を知らない。
彼女はモフモフの猫耳を有していた。
◆◆◆◆◆
最近、何かしら凄いことが起きる…ような気がしてならない。私は、特別なものを持つ存在ではないし、この世の主人公という訳でもない。むしろ、空っぽの人間だと思う。
そんな自分の直感なんて信じられないけど、最近のはひと味違う。
「おーい。大丈夫ー?」
「…また、ボーッとしてた?」
「うん」
「ヤバいな。最近、癖になってる」
「ここ、教室なのに?ドヤ顔して脳内ポエム語ってんの?」
「ひどい言いよう」
「事実を語っただけです」
そんな会話を繰り広げている相手は、私の友達。
彼女は、持ち前のコミュ力を生かし、仲良くしてくれる。私はコミュ力が皆無といってもいい。むしろ、何故こんな自分が仲良くなれているのだろう。
日々、疑問に思う。そして、有り難いと感じる。
「気分転換に森とか行ってみたら?」
「?」
「ドヤ顔とかして脳内ポエム語る癖ついてるのなら、それは末期だと思う」
「……つまり?」
「森ならさ、自由気ままに脳内ポエム語れるよ」
「なる、ほど…」
突拍子もないことを言い出すのも彼女らしい。
とはいえ、アドバイスらしいので今晩あたりそうすることにしよう。
「今日は金曜日だしね!ゆっくり出来るよ!」
「そか、今日金曜日か……」
「夜遅くは攫われないようにね」
「そんな、攫われる程の美貌は持ち合わせてないよ」
むしろ、攫われるぐらいの美貌を持ってる彼女が羨ましいと感じる。
「そうかなぁ…?」
否定してくれるが、自分には不似合いだ。
ふと、時間割りを眺める。自分が嫌っている数学と英語がまだ、残っている。こんなふざけた金曜日なんぞ早く終われ、なんて思っていたり。
◇◇◇◇◇
放課後、長かった学校が終わり家路につく。
お母さんにどうやって説明しよう…適当なこと言って迷惑かけるのは嫌だし。かといって、正直に言ったらとんでもない事になりそう。
そうやって悩んでいる内に家に着いた。
着いてしまった……もう、勢いに任せよう。
諦めながら玄関のドアを開ける。
ふと、良さげな考えが頭に浮かんだ。それは、母や父にも何も言わず、夜中こっそり抜け出すというものだ。
これなら、今すぐ言い訳を考えなくていい。
そうと決まれば、夜1時まで寝ずに待機しよう。
◇◇◇◇◇
眠い、何で夜遅くにこんな事してんだろ……寒いし。
なんて、グダグダしながら外出する。
夜の町は昼と全然違うものだった。はっきり言ってワクワクより怖いが勝つ。余裕で勝てる。
薄暗い道を一人で歩くのは、勇気が必要かもしれない。ブスでもカツアゲとか誘拐されそうな雰囲気がある。
それより今は森へ行かねば。森は私の家からさほど遠くない。徒歩で15分くらいの近場だ。因みに持ち物は充電満タンのスマホ、携帯食、財布だけ。多くても重いだけですし。おすし……
時折、雰囲気にビビりつつ景色を堪能していると森に着いた。しばらく森を進んでいくと何かいた。
「……動いてる」
最初はただの見間違えかと思ってたのだが、思いっきり動いてるのを見て衝撃を受けた。
ただ、好奇心には勝てなかった。私はスマホのライトを動いているやつに向けた。
それは生命体で人型。格好は、しっとりした黒髪に青い瞳。毛布を被っていて、服はボロボロで深く帽子を被っている。世間でいうホームレスのような感じだ。
歳はいくつだろう。私と同じくらいかもしれない。
その子はライトを向けられて眩しそうに目を細めた。なので私は明度を下げた。すると、今度は目をゆっくり開けてくれた。
「……あなたは、どうして、ここに?」
驚いた。まさか、喋るなんて。少し腰を抜かしそうになる。
「…ちょっと気分転換に」
「そう、なんですね」
どうしよう。質問に答えたのはいいけど、気まずいよ。どうにかして捻り出した言葉は
「そっちこそ、どうしてここにいるの?」
だった。他にあったかもしれないのに。
「家、ないから」
「分からないとかではなく?」
「はい」
もしかしたら、相手の地雷を踏み抜いてしまったかもしれない。自分はいっつもこうだ。いい加減、学ばないと。
そう思いながらも私は更に好奇心が湧く。もっとこの子のことを知りたい、なんて思った私は近付いてしゃがみ込む。
「とりあえず、私の家来る?」
バカだろう。いきなり出会ったかと思えば、家来る?だなんて。そこら辺の不審者と何ら変わりはない。もしかしたら、そいつら以上にヤバい奴だ。
でも、この子は少し考えたかと思えばすぐに
「ありがとう、ございます」
って答えた。しかも続けて
「私は、あなたがもう否定しても、無理矢理にでも、行きたいです」
だと。頭のネジが外れてる。二人とも。
「分かった。行こっか」
「はい」
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