第11話

 悠斗の健やかな寝息が聞こえてきた頃、陽狐はまだぼんやりと窓から見える夜空を見ていた。


(本当は、お前が手を差し伸べてくれた時に、オレは決めてたんだけどな)


 赤子に付くあやかしで良いものはない。全ては祓われるべきものだ。

 わが孫を危険な目に晒したくない悠斗の祖父母の判断は、恐らく正しい。陽狐もうっかり付いてしまった手前、祓われるのを覚悟していた。


 だが、悠斗だけは違った。


 まだ話すこともできない頃に、悠斗だけが陽狐の手をそっと握ったのだ。そして、満面の笑みを向けた。


 悠斗の笑顔を見た瞬間、陽狐は両手をついて祖父母に頭を下げたのだ。


『十五歳になっても、彼に才があるのならば、命がけで守ります』


 鳩が豆鉄砲でもくらったかのような顔をした祖父母は、自分達の式神にもその場で相談をした。


『恐らく悠斗には才がある。だから、今から命がけで守りなさい。守れない場合は、問答無用です』


 厳しくも揺らがない祖母の言葉に、陽狐はもう一度頭を深く下げた。

 この笑顔を守ることを許されるなら、どんなことがあろうと守る。

 そう心に決めてから、陽狐は悠斗に疎まれながらも、ずっとそばに居続けた。


「それにしても、寝顔は昔から変わんねぇな」


 振り返った視線の先には、寝息と共に健やかな笑顔で眠る悠斗がいた。

 今日も無事で済んだことにほっとしながら、陽狐もベッドに背中を預けながら眠ることにした。


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【完結済】最後のお時間です。-俺とあやかしの最後の1日- 有馬千博 @ArimanC

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