第10話
「遺伝した……」
「正解」
「で、でも姉ちゃんは視えてないぞ、お前のこと」
「それも、遺伝あるあるだ。つまり偶然、何らかの遺伝的作用により、悠斗には受け継がれたんだ」
信じたくない話だ。でも、今はそれ以外に理由をつけられない。
茫然とベッドの上で座っている悠斗の顔の前に手が差し出された。
「これからもよろしく、相棒」
陽狐の言葉に悠斗は目を瞠った。
「こ、これからも、って」
「そりゃ、お前の式神だし」
「う、噓だ」
「ウソじゃない。お前が四歳くらいか? ちゃんと契約したんだよ、ほら」
夏でもハイネックを着ていた理由がこの時ようやくわかった。ぐいっと見せられた首筋には、へたくそな字で『ゆうと』と書かれている。
「保育園に持っていく荷物にはいつも名前が書いてあったからか、お前も真似したんだろ。オレが寝ている隙に血文字で書きやがって」
「血文字?」
「あのとき転んだか何かで、手をケガしていたから、そのまま書いたんだろ。覚えてないのか」
わずか四歳の出来事を事細かく覚えている十五歳がどのくらいいるんだろうか。少なくとも悠斗には当てはまらない。
「ま、オレもお前を気に入ってたし、相思相愛かと思って受けたんだが」
「相思相愛っ?」
「昔のお前は、オレを見つけては陽狐って呼んでくれたし、保育園の友達よりもオレと遊ぶのを優先していたしな。忘れたか?」
「あ、ああ」
「マジか。お前って結構薄情なんだな」
陽狐は呆れたように襟を直した。
あやかしが視えると確かに保育園で言っていたが、それがいつの間にか嘘つき呼ばわりされるようになったのが原因だったのは覚えている。嘘つき呼ばわりされた保育園児は、次第に仲間外れにされていった。
そして、そのうちこの能力を憎むようになって……。
今まで全てを無理やり忘れたのかもしれない。自らの意思で。
「そんなお前でも、オレの相棒だからな」
くしゃっと笑いながら、陽狐は悠斗のベッドに背中を預ける。
「もう寝ようぜ。明日も受験勉強するんだろ」
「……わかってる」
受け入れるしか道がないのか、明日にでも祖父母に相談することを決めた悠斗は、タオルケットにくるまって再び眠った。
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