第9話

 絶対寂しいと感じることは無いはずだった。

 でも、想像していた以上に、胸に押し寄せて来る寂しさに悠斗は何とも言えない感情になった。


(もっとかまってやれば良かったかな)


 いずれ視えなくなるのだから、それくらいしたって良かったかもしれない。いなくなったからこそ気づいてしまった存在感に理解が追いつかない。

 これまでも怪異の調査で何度も助けられたし、助けられたこともあった。契約もしていない相手に良く付き合ってくれたものだ。


 今更後悔しても遅いのはわかっている。


 枕に顔をうずめたまま、眠ることができずに、悠斗は陽狐との思い出をただ振り返っていた。さすがに息苦しくて顔を上げようとした時に、聞きなじみの笑い声が聞こえてきた。


「おーい。そんなんじゃ、窒息するぞ?」


 勢いよく顔を上げると、真ん丸の月をバッグに、窓辺にカッコつけて座っていたのは、よく知っている顔のあやかしだった。


「……陽狐」

「どーもー」


 へらへら笑った顔で悠斗に手を振っている。能天気な笑顔を見て、さっきまで悩んでいたものを返して欲しいくらいに苛立ったが、そこでようやく一つだけ疑問が浮かんだ。


「……なんでいるの?」

「え? だって死んだわけじゃないし」

「なんでお前が視えるんだ?」

「そりゃあ、陰陽師の才能があるわけですよ、悠斗には」


 嘘だ、という言葉が口からこぼれ落ちた。

 昨日まで、十五歳になれば、視えなくなると両親にはずっと言われてきた。祖父母のようにずっと視えるのは、類稀なる才能なのだと。両親はその才能はないから、きっと引き継がれることが無いだろうと。

 両親が嘘をついているとは思えない。何故なら、あの二人は嘘が下手だから。


「隔世遺伝って知ってるか?」


 陽狐がいたずらっ子のような笑みを浮かべながら、困惑している悠斗の前に立つ。聞いたこともない言葉に悠斗は首を振った。


「個体の持つ遺伝形質が、その親世代では発現しない。祖父母やそれ以前の世代から世代を飛ばして遺伝しているように見える遺伝現象のこと。つまり?」

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