第8話
アイスも食べたし、今日の分のノルマ分の勉強もした。夕飯も食べ終えた。最後風呂も入ったら、もう今日も終わりだ。だけど、なんとなく風呂に入る気分になれなかった。
壁にかかっている時計を見ると針が徐々に十二時に近づいていく。
「なあなあ」
ベッドの上で横になりながら悠斗がいると、ベッドの脇に立っている陽狐が声をかけてきた。悠斗は目を陽狐に向けた。
「悠斗はどうだった? オレといて」
なんて答えるのが正解か、わからない。口ごもっていると、クスッと陽狐が笑う声が聞こえた。
「オレは楽しかったよ。最後まで、ありがとうな」
声だけは明るいが、表情が分からない。部屋の中が暗いせいだと今更気づいた。ベッドから降りて、部屋の入り口にあるスイッチに手を伸ばし、灯りをつけると、そこに陽狐の姿はなかった。
「……陽狐?」
さっきまでいたはずの陽狐はどこにもいなかった。。慌てて時計を見ると、十二時ちょうどになっていた。
「……もうそんな時間だったか」
悠斗は力なくベッドに座った。ぼんやりと窓の外を見た。星も月も瞬いている。何も変わらない、いつもの夜空だ。
いなくなれば、せいせいすると思っていたが、違った。胸の中にぽっかり穴が空いてしまった気がした。
どのくらいそうしていたのか、わからない。
ふと明日からは塾の夏期講習があることを思い出して、時計を見ることもなく寝ることにした。灯りを消して、ベッドに横になった。クーラーから噴き出してくる風が心地よい。蒸し暑い夏の夜でも、部屋の中は快適だ。
こんなに静かな夜はいつ以来だろうか。
部屋の中には、クーラーが冷風を吐きだしている音しか聞こえない。
「静かだな……」
独り言が静かに闇夜に溶け込んだ。このままだと真っ暗な世界に閉じ込められそうな気がした。悠斗はタオルケットを抱え込んで、無理やり寝ようと枕に顔をうずめる。
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