プラネタリウム ~紺色の夜空~

杏仁ドウフ

紺色の夜空

『えー。こちらが冬の大三角、プロキオン、シリウス、ベテルギウスでございます。この星座、比較的見つけやすい形をしておりますので、お帰りの際に見つけてみてはいかがでしょうか。はい。続きまして、こちらが――――』


 まったく耳に入ってこない説明。一緒に行くはずだった流星群鑑賞。一緒に行くはずだったプラネタリウム。一緒に行くはずだった想像宇宙旅行。

『ごめん理乙七りおな。りさがショッピングセンター行こって言いだして。』

 一昨日、親友の才華さいかからかかってきた電話。

『いいよ。りさちゃんも、大事だもんね』

 わたしはそういうことしかできなかった。


「はあ。」

 何個目だろう。この重い溜息は。

「べつにいい。想像宇宙旅行は、一人で行けるし。」

 他の人には聞こえないよう、頭の中でつぶやいた。


 でも。

 ほんとは才華といきたかった。


 小学校の頃から超天才。テストを受ければ全国5位で、今まで何人告ってきたか。(全員フったらしいけど)欠点なしの優秀生徒。

そして、私の唯一の親友。


 しかたないけど、しかたない。むりやり納得させてから、プラネタリウムを見る。それはとてもきれいだ。赤いレーザーポインターさえなければ。やっぱり本物の夜空の方がもっときれいだな。でも街でそんなきれいな夜空は見られない。


 空に浮かぶ、白く大きな一つの星。だんだん大きくなって、近づいてくる――ってええ!

「わわわわわわわわ!」

 私は星に激突。ああ、才華。死ぬまで友達っていうのは、達成されたようだよ、、、




「おーい。おーい。だいじょうぶー?」


 ああ、天国ってやつか、、、


地獄、それともその間かな、、、


「何言ってんの!ほら、理乙七!起きて!」

 まだ目が回っているのに。手を引っ張って、無理矢理起こす。その人は、


「え、才華?」

 才華だ。『にてる』じゃなくて、本当に才華だ。

 黒く大きな瞳、茶色でストレートのミディアムヘア、すらっと長い足に腕。白色の長袖ワンピースの裾には、花柄で黒の刺繍がされている。見たことない服だ。小1の時からしょっちゅうお泊まりパーティーをしていて、クローゼットの中の服はほとんど分かる。新しく買ったのかな、でもこんな服好みじゃないよね、、、


「だれ、さいかって。わたしはアスティー。天使なの!」

 そう自慢げにいい、一回転。そこでやっと、才華との違いを見つけた。

「、、、天使って、とがった尻尾、生えてたっけ?」

 見間違いではない。つんととがった尻尾。それが才華との唯一の違いだ。

「それに、わたし。天使がいるなら死んでるし。」

 大きな伸びと溜息をして、アスティーにそういった。

 急に焦り出すアスティー。

「べ、別にいいじゃない!尻尾のひとつやふたつ!」

 あたふたと言い訳。天使じゃなく、悪魔だったのか。尻尾って、1本2本ってかぞえるんじゃ、と思ったけど。まあいいや。悪魔なら、地獄なんだろう。


 ふぁあとあくびをし、まん丸の目のアスティーを見た。

「・・・」

「・・・」

 沈黙が流れる。特に話すこともないし、地獄に連れて行かれるものだと思っていた私だから、向こうから話してくるのかと思っていた。でも、その考えは違ったらしい。


 しばらくたって、ポケットから紙を取り出すアスティー。ゴホンと咳払いをし、こういった。


「理乙七の夢の『宇宙旅行』。かなえてあげる。」

「え、」

 一瞬で景色が変わった。今までの花が咲いた丘から、急に紺色の夜空へと飛び出した。いつの間にか私の服も、アスティーとおそろいの長袖ワンピースになっている。アスティーと私のワンピースの裾が光った。星みたいに。

 たくさんの子供の声が聞こえてくる。「わあわあ」「きゃあきゃあ」。ろうかで追いかけっこしているときの、バタバタという音、水道の水が流れる音。幼稚園と小学校、中学校の休み時間が集まった音だ。


「どう?きれいでしょ。」

冬の夜空。すんで美しい夜空。

きれいだった。黄色、青、白色に輝く星たち。真っ白の月。背景の紺色。すべてがきれいだった。

「私のお姉ちゃん、神様なの。」

唐突に変なことをいいだしたアスティー。まあ、あり得る。

「星ってね、みんなの願いが形になったものなの。」

「え、だって。ビッグバンが起こって、星ができたんでしょ?」

「ビッグバンは、みんなの願いがあふれてできたの。そうやって、お姉ちゃんが言ってたの。」

そういうアスティーの目は、きれいだった。彼女のお姉さんも、さぞかしきれいな人なんだろう。そう思った。

「そして、ここにいるのは願いを持った子供。あの頃の浪漫ロマンを忘れていない大人。」

だんだんアスティーが透明になっていることに気づく。遠くなる声。弱くなる星の光。


「忘れないで。ずっと。願ってて。」


それが、最後の言葉だった。


***


「ねえ理乙七!これ見て!」

「ああ!これね。今度一緒に行こうよ!」


「「プラネタリウム!」」


青い空。雲はナシ。今夜も、美しい夜空が見えるだろう。

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