第31話 捕らわれのエルフ
運、久遠、五十鈴の三人が決意を新たにし、マケフ領に向かうエルフ族の一団から抜けてコエ領に出発しようとしたとき声を掛ける者があった。
「あの、もし……」
三人が振り返るとそこにはオクヤの森のドリアード代表、カレンが困った様子で立っていた。
「あっ、あなたはドリアードのカレンさんっ!」
「はい。先日はどうも」
カレンは丁重に一礼をした。
「運様。もしよろしければコエ領への出立、私もお供させてはいただけないでしょうか?」
「それは構わないが……どうしてだ?」
「実は、先ほどからフィリーの姿が見当たらないのです」
「「えっ!?」」
驚く三人。
「おそらくは公国軍にさらわれてしまったものかと……」
「そういえばフィリーだけでなく、ミューの姿も見ていません! おそらく二人は一緒にいるはずです」
「大変っ! お兄ちゃん!」
「わかってる。絶対に助けだす!」
カレンの言葉を聞いて三人の緊張は一気に高まる。
「ありがとうございます。彼女たちは私たちドリアードの良き友人でもありますので……」
「そうだったな」
「また、私たちであれば微力ながらお手伝いできることもあるかと存じます」
「カレンさん、どういうこと?」
「おそらく捕らえられたエルフ族の方々はどこか建物内に監禁されることになろうかと思います。その場合、領内の建物の中から特定の建物を探しだすことは困難です」
「なるほど、そこでカレン殿のお力が有効であると」
「はい。我々は樹を司る精霊。多くの建物には木材が使用されておりますし、そうでない建物の付近にも何かと植物はありましょう。必ずやエルフ族の捕らえられた場所を探しだします」
「カレンさんすごいっ!」
「そのような訳ですので、なにとぞよろしくお願いします、運様」
すがるような表情で身を乗り出して懇願するカレンに運は力強く頷いて答えた。
「とんでもない。そりゃあこちらこそ助かるってもんだ」
「そうだよっ! よく考えてみれば考えなしにコエ領に向かったって、現地でエルフ族の捕らえられた場所がわからず苦労してたってことだもんねっ! お兄ちゃん?」
「お、おう」
「……となると、運殿ははじめ、コエ領に着いてからどのようにエルフ族を探すおつもりだったのですか?」
「ん? ……建物を全部ぶっ壊してやるつもりだった」
運は平然と答えていた。
「「ぶっ!」」
久遠と五十鈴は吹き出した。
「それじゃあエルフのみんなも巻き込んじゃうでしょ!」
「そ、それに関係のない領民の家まで壊してしまうことになるのでは……?」
「関係ねーよ」
運は言った。
「たしかに冷静に考えてみればエルフ族を巻き込んでしまうのは良くないわな。だがな、領民に関して言えば俺は形振り構ってやるつもりは微塵もねえ」
運はさらに語気を強めた。
「あいつらは、森を焼いた」
久遠も五十鈴も表情を曇らせた。
「慈悲はねーよ」
それに応えたのはカレンだった。
「はい。私も憤っております」
「だろうな。だからカレン、俺から一つ頼みがあるんだが」
「はい運様。なんでも協力を致しましょう」
運は不敵に笑った。
「ではまず手始めに、精霊同士、ナヴィと自己紹介してもらう」
その頃、コエ領では捕らえた100名ほどのエルフが一堂に集められていた。その両手には押しなべて魔力を封じる手枷がはめられている。
「ふひっ! ふひひっ! いいっ! エルフの女は美女ぞろいだぁ~!」
それを下腹の大きく出た醜悪なコエ領の領主、デミオが品定めして回っていた。
「しかし、予定とは違って数が少ないのぉ」
デミオは側近の男に言った。
「はっ! なんでも先日、帝国との戦場に現れたトラックがエルフ側の用心棒としてついていたとの情報が入っており、思いどおりの戦果が上げられなかったとのことです」
「チッ! それで黒騎士は?」
「森を滅ぼしたあと、黙って姿を消されたとか」
「そうではないっ! 邪魔者は消したのかと聞いている」
「はっ! 見ていた兵の話によれば敵のトラックを粉砕し、運転手の男に重症を負わせたそうですが、仲間に連れ去られたのを追わずに逃がしたとのことです」
「逃がした? 何をフザけたことをっ!」
「ごもっともです。しかしながら申し上げます。敵の脅威はあくまで尋常ならざるトラックによるものですので、それが大破した今とあっては運転手など取るに足りません」
「フン。まぁそうだな。帝国の聖女でもなければ直すことなどできまいて」
「左様でございます。そして今やその帝国の聖女も、勇者パーティとともに行方知れずになったとの噂が広まっております」
「ふっふっふ。どうせ先の戦争で討ち死にしたのを恥ずかしくて言えんのだ、帝国も」
「はい。これで帝国も大きく力を削がれました。そして機動兵器トラクターを作ることのできる技術も、エルフ族を制したデミオ様がもはや独占したも同然」
「それはいったい、どういうことかな?」
デミオの下卑た問いに側近の男は畏まって彼を称えるように答える。
「はっ! デミオ様がエヒモセスのすべてを統べる時代が訪れようというものです」
「ふっふっふっふ……はぁ~はっはっは!」
デミオは満足げに胸を張って高笑いした。
「よしっ! ではさっそく捕らえたエルフどもを仕分けせよっ! 男は労働力、女は奴隷として売り飛ばすっ! ただし家族のいる女は把握しておけ、男どもを働かせる餌とする!」
「はっ!」
「それから……」
デミオは糸を引くような醜悪な口を卑しく開いて不気味な笑みを浮かべた。
「わかっております」
側近の男もデミオの意図を理解していたように得意げに頭を下げた。
そしてその後、側近の男はデミオを別の部屋へ案内した。
その部屋は無駄に豪華な装飾で満たされていた。中央には巨大な黒檀のデスクが鎮座し、その上には金銀の装飾が施された文具や乱雑な巻物が無造作に積まれている。壁際には重厚なソファが並び、暗い赤と金色を基調とした刺繍があしらわれたクッションが散らされていた。
部屋の隅では甘くむせるような香がくゆらされ、香炉から立ち上る白煙がゆったりといやしく漂っている。棚には金細工のカップや異国の絵画が並び、装飾の多い調度品が窮屈に詰め込まれていた。ただし、その不統一さは品位よりも欲望を優先する所有者の趣味の悪さが特に際立っていると言わざるを得ない。
そんな部屋の中に美しいエルフの女性が五人、両手を拘束されて立たされている。その誰もが怯えて震え、不安の表情を隠さずにいた。そしてその五人のなかにはミューとフィリーの姿もあった。
「デミオ様のお好みに合いそうな女を数人、用意しておきました」
デミオは肥えた身体を弾ませるように喜んだ。
「むほお~。これはまた美女のなかの美女たち! 奴隷にするのが惜しいくらいだ」
「どうぞお楽しみになってからごゆっくりとお考えください」
「むほほ~。たまらんの~」
デミオの下卑た視線に並べられたエルフたちはみな視線をそらした。デミオは目をそらそうとするエルフたちの顔を覗き込みながら、一人ひとり順々に見て回った。そして前からうしろから舐めまわすように欲望にまみれた視線でエルフたちを辱めたあと、再び彼女たちの前に戻ったデミオはそのなかの一人を指差して言った。
「決めたっ! 今日は一番恥じらいを見せたこの女にするぞっ!」
指名されたのはフィリーであった。
「ひっ! いやっ……」
フィリーは恐怖に顔を歪ませて怯み、うしろにさがろうとして転倒した。
「んん~、そそるのぉ。その反応。ますます楽しみになってきたわい」
「いや、やめて……」
床を這うようにあとずさるフィリー。
「待って」
そこに割って入ったのはミューだった。
「この子は好きな人がいるの、勘弁して。その代わり私がなんでもする。ほら、同じ顔でしょ? 私たち双子だから。私はこの子よりも、その、働くから……」
「ミュー……だめ。そんなの嫌」
フィリーは倒れたまま今にも泣きそうな顔をミューに向ける。ミューはそんなフィリーに振り返り、気丈な笑顔を向けて言った。
「いいのいいの。私、お姉さんだからね!」
ところが二人の会話を聞いてデミオは余計に嬉しそうにその肥えた身体を揺らした。
「むほお~! 美しき姉妹愛! 素晴らしいの~。……でもそういうのを見るとワシ、余計に妹のほうを辱めたくなるのぉ~」
「! 最低っ! このっ!」
ミューは手枷をはめられたままデミオに向かって噛みつかんばかりに飛びかかったが、それは側近の男に防がれ、床の上で完全に制圧された。
「どれ。ではこの姉の目の前で妹をたっぷりと可愛がってやるとするかな。それが終わったあとは……同じ顔だからな、姉はお前たちが好きにして良いぞ」
おお、と歓喜の声を上げる護衛兵たち。
「さて、ではのちほどこの二人をワシの部屋へ連れてくるように」
「はっ!」
命令を発したあと淡々と部屋を出て行こうとするデミオを追うように身体を抑えられたままのミューは必死でもがいた。
「待って! やめてっ! お願いっ!」
押さえつけられた床の上で必死に懇願するミューの声は届かず、デミオの去った部屋の扉は閉じられた。そのうしろでフィリーは静かに涙を流していた。
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異世界トラック ~冒険者登録すら出来ない半強制追放の底辺運転手が極振りトラック無双で建国余裕の側室ハーレム。家族を大事にしようとしてたら世界から魔王扱いされててツラい~ @nandemoE
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