ホリゾンブルー 目的なき平山
花森遊梨(はなもりゆうり)
第1話
ストロングチューハイは良いものよ。私のように強烈で誰より優れている。だからあとワンケースは欲しい。あとは大学で知り合ったあの丹も萌葱も欲しい そしてどこかの島で暮らしたい。そしてどっかの島で暮らすことも今の私ならできる。
しかし、あいつら二人は私の所有物ではないしなんの価値もない。私自身も価値がない
私はなぜこんなもんを飲んでしまったの?どうかしてるわよ。いつもそうよ。良くなってもすぐにダメになる みんなが私を嫌うわけよ みんなが正しい 私は役立たずよ
くそ、くそ。私はいい大人なのに酒を飲んでいる。電話をかけてくるのが昼間からカスハラばっかのカスみたいな連中が全員脳が腐った電球を発明しないエジソンばかりになるのは当然だ。私が嫌われるのも当然だ。もっと憎まれてもいい。私だって私自身が憎い。死ぬほど憎い
この辺りで東京の汚い夜明けが視界に広がった
またベッドがわりのゴミ捨て場である。服は乱れていないし変な粘液の感触もないから寝落ちしてる間に妖怪・性欲もてあましにやられたりはしていないようだ。
…そろそろ立冬なんだからそろそろ外で寝たら凍死しかねない気候を迎える。
私は平山珠緒。実はホームレスではない。
20歳にして 大学生で会社員 将来は注射一発でバイオハザードよろしく筋肉ゴリラになれる薬品を開発したいと思っている。その会社は
製薬会社でこの三年あまりに無料の検査やワクチンで500億円以上を儲けた。
今日は会社に行く日だ。ゴミ置き場から這い出し、
それから最寄りの雑居ビルの女性向けスパに入る。清潔さをアピールしたいのか、どこもかしこも丁寧に磨かれている。、人工大理石の質感はかなり安っぽい。というか、間取りからすると、潰れた風俗店の跡地を改装しただけである。東京なんて円高で新大統領の時代でも金や性欲を持て余す成人狙いの施設にも事かない訳だし。そして開店早々年頃の女の子たちがすでに入店済みである。一晩の戦いを終えてツェーマンやゲーマンを掴み取った家出少女、すなわち夜のフリーランス戦士たちの休息である。
「おまえ、何回出された?」とか聞いたら面白そうだ。自分は一回も出されたことはないが。ちなみに世間言うところの子宝の数とか貴族の跡取り候補とか、恐るべき子供たちとイイ感じの言葉を並べているが、これらは結局のところ「お出しされた回数」であり、そう思って読むとヒジョーにコクが深くなる。
「私ね、
「だいじょうぶだよ、応援してあげるから」
「でもね、このあいだ、こんなこと言ったらムッとされちゃって…」
「勇気出して!」
信じられない。家出少女たちはすれていないようだ。完全に、女子中学生の会話ではないか。風俗やパパ活なんて接客業、いや、究極のサービス業の一角。そしてサービス業なんていう品性お下劣人間地獄をやっていると、人間は本来性悪であるという考え方が根底にできる。
だから人間に限ってはいくら苦しんだりくたばったりする姿をナマで目の当たりにしてもヒステリックに心がムーブすることなどなくなるものだ。
つうか人間は突っ込まれた札束も注がれた労力も三日で当たり前と見なすのが当たり前で恩義を覚える機能は基本的にニワトリ以下なんだからニーザでもイデコでも国債でもイイから投資してトランプの力で倍になった利子をお渡ししますとか行って全額自分の預金口座につっこめよと思う。
「暮らしが荒みすぎだ!!」
私の決意は言葉となり、ヒソヒソ話がピタリとやんだ。スパといっても公衆電話みたいなボックスの集合体であり、全然密封されてないし、周りを気にしない内緒話も、こういう奇声もダダ漏れなのである。
酒飲んで肝臓にDV働いて路上で寝て「誰でも良かった(性的な意味で)」という欲望にすら完全無視されて経験人数三國無双な家出少女に紛れてシャワーを浴びて隣でシャワーと一緒に流れる清らかな心に嫉妬の粘ついた炎をドロドロと燃え上がらせる
大卒で製薬会社勤務のお清楚でおハイソな女の暮らしではない。
「もっときれいな暮らしをしなくてはならない!」
弾けるようにシャワー私は2度と後ろを振り返れ
「外に出るなら服くらい着なよ!」
「厚生年金と固定給のくせにスタイルまでいいなんて生意気なのよホームレスビッチ!お前なんか一見真面目そうな男を抱いて梅毒をうつされて狂い死にしちゃえ!」
究極のサービス業で鍛えられた精神は、匿名で言うような悪口を面と向かって言うことを可能にするようだ
「How the fuck are you alive bitch!(その醜いツラ下げてよく生きてられるなクソアマが!!)
翌日
私は今、静岡にいる。
ホリゾンブルーの夜明けが見られる山がある。朝日にはいろんなものを浄化する力がある…とここまで全てを本棚の裏から発掘した雑誌から知り、密かに所有していたバイクにまたがり、静岡に至った。の東横INNから這い出し、レンタルしておいたライト登山キットを見に待とう、山に登り、メマトイに襲われ、
ようやく美しいホリゾンブルーの夜明け
「何も、ないね…」
朝日は浄化作用があるかもしれない。しかし朝日=いろいろあってなんか生まれ変わる、では決してないのだ。
「ちょっとー?」
やりたいことが何もない行きたい場所は思い浮かばないし、いつのまにか一緒になってたこのバックパッカーな若人に絡んでみるなんてもってのほか。
「おーいってば!」
そういえば、高校の修学旅行ではイギリスといういい国に行ったが、私は右手でスマホをまさぐる無口な東洋人だった。英語の成績は学年三位だったにも関わらずだ。学年三位以外は英語もろくに話せないのにイギリス人に体当たりし、友達のふりをしてもらっていた。そういえばあいつらは誰に言われなくても英語の小説を読み、英語の音楽を聴き、英語の映画を観ていたし、私以外の学年一位、二位、四位ではなかった。
「おい、お前を呼んでんだよ!そこの全裸退店常習犯が!」
「Hey people like you make me wanna bounce, homie!!(訳・はっ、お前みてえのがいるからこっちは頭おかしくなんだよ)」
「あのババアを英語で酷いツラのクソアマ呼ばわりして今度はこっちまでビッチ呼ばわり?」
「その声は、いつもスパにいる家出少女?」
あの家出少女の正体は渡部栞。山の中の不都合な真実が明らかになり、この平山珠緒、気分は米国副大統領である
まさかの医学生。未来の年収一千万円であった。その面相は白人の血を感じるやや日本人離れしたキレイ系であり、オシャレ系のSNSでいいね長者の香りも漂っていた。ついでに全員受験勉強ばっかやってきた自分より偏差値も人生の偏差値が高かった。
コイツを家出少女扱いしてなけなしのツェーマンなんだから貯金しろとかぼやいてた私は大恥だったというわけだ。
「「「栞ー‼︎‼︎」」
ふと見ると、間違いなく栞のお仲間たちであるおしゃれな登山グループが下の方に姿を表していた。洒落た光景である。
「すぐに追いつく‼︎先におりていて」
栞みたいな人間って、こんなふうにフラリと気軽に野外にも夜の世界にもにやってきて、いつも仲間とキラキラに過ごしているのだ。
「そうしたいけど、結構スケジュールがタイトな身の上だからさ、ワタシは」
栞とは違う世界に住むワタシは、間も無く山をおおりなくてはならない。そしてキラキラとは無縁の世界が待っている
「待って‼︎渡…栞は。どうしてそんな時間と体力がもつのよ?医学生なんて家族と同級生全員がドイツ語とか英語とか日本語を喋って病魔の首を片手でへし折って24時間働いて目がギンギラの医師免許男と結婚してソイツが突然ドイツ語を喚き散らしてもドイツ語で黙らせながら自分の子どもを医大にダンクシュートするのが当たり前の世界なんでしょう?」
「そういう過酷な暮らしなんだから水筒の2個や3個、持ってんのが当たり前でしょ?」
水筒である。タマナシ乳業とか、ミルキーは(バキューン)の味ですらなかった。栞にとって男とは、それだけ当たり前のものなのか?
「医学生以前に一人で東京で生きてるなんてもう砂漠歩いているようなもんよ?セフレとか痴の繋がりだなんて誤差なのご・さ!」
やっとわかった。栞には目的があったのだ。いずれは医者になるための過酷な旅路、そして
男という水筒から生き抜くエネルギーを得たいという目的があるから、男もころがしまくってる。しょうもないナンパについていったり合コン出たりパパと疑似恋愛して体力を回復できる、
仕事で消耗し、カスハラを英語で罵って消耗し、酒を飲んで消耗して、ゴミと同衾して、週三のパートホームレスといった暮らしぶりである。「これがしたい」という目的なき人生は荒廃のかぎりを尽くすということだ。
山に登った甲斐はあった。
ー
今日は立冬。気温は-1℃
久しぶりに目覚めた自室からも夜明けの空は見渡せる。同じホリゾンブルーでも、ゴミの山から見上げないだけでここまで清々しくなることに微かな感動すらも覚える。
今日は大学の日。今日はベレー帽とカーディガンの色を合わせたコーデ、去年の冬に買った服だった。路上でゴミと5時間添い寝してから出勤してもスーツなら何も言われない会社とは違い、大学は私服だ。つまり、不潔ではなくそれでいて毎回違う服装に揃えなくてはならない。
これがしたいという意思が必要
ーこの大学で目的を探してみるか
「この前テニスサークルで合宿に参加してみんなが乱れ交わって野外で集団気絶してる中で貞操貫いてリタ・カニス力呼ばわりされてまだ二ヶ月だよ?今度はどこのサークル薔薇と百合の花園に変える気なの?」呆れ顔の赤井丹で会った
「AssHole!(くそったれ)もっとマシなアドバイスはないの?」
この赤パーカーはこういう時だけは大嫌い。人の傷口に平気で塩を塗り込んでくるし、しかもその方が傷の治りが早まると信じて疑ってないのが透けて見えている。医学部で正しい傷の手当てを知ってる栞が早くも懐かしい。
「珠緒さんはテニサーで夜のバトルロワイヤルをゲットする‼︎みたいに効果がはっきりしてるものを最短距離で突き進むから色々落っことしちゃってる感があるからさ、これからはよくわからないまんまホイホイと色んなことに首を突っ込めば良いのでは?その栞さんもなんで医学部とか男からユンケルを獲得するかの理由はわからずじまいだったんだし」
「なんか萌葱は保健室の先生って気がしてきたよ」。
怪我や病気を治せないけど、なんとなく調子がよくない時に身を預けて息抜きして、ひととき痛みやだるさを忘れて持ち直すにはうってつけ。
今度は本物の医者になる人材のアドバイスも求めてみるか。会える場所も、エンカ方法も把握済みだし。
ホリゾンブルー 目的なき平山 花森遊梨(はなもりゆうり) @STRENGH081224
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