第2話 ~雪の小包~
冬の寒気が空気を切り裂く朝。明日香は、トラックのエンジンを入れながら今日の配送先を確認した。場所は山間部の村、道路状況は雪で悪化していると注意が書かれている。荷物は「小包ひとつ」とシンプルだが、そこには「至急」と大きく赤字で書かれていた。
「こんな日に山道かぁ……でもやるしかないね。」
いつものようにトラックを運転し始める明日香。道が険しくなるにつれて雪が深くなり、タイヤチェーンをつけることにした。時間がかかるが、急ぎながらも安全を優先して進んでいく。
配送先に着いたのは、予定より30分遅れた昼過ぎ。雪に埋もれた小さな一軒家の前で、外に出てきたのは40代くらいの女性・田中涼子さんだった。
「あぁ、ありがとうございます!待っていました!」
涼子さんは息を切らしながら明日香に駆け寄り、小包を抱きしめるように受け取った。その姿に、明日香はただならぬ様子を感じた。
「何か、大切なものなんですか?」
「実はこれ、息子の学校で使う大事な資料で……間に合わなかったら、授業に支障が出るところだったんです。」
涼子さんの息子、陽斗(はると)くんは遠くの中学校に通っており、雪の影響でバスも遅れていたという。明日香が荷物を運んだことで、彼の授業が無事に進められると感謝の気持ちを伝えられた。
明日香が帰ろうとしたその時、陽斗くんが学校のバスから帰宅した。
「この荷物を届けてくれたのはお姉さん?」
「そうだよ、陽斗。ちゃんとお礼を言いなさい。」
陽斗くんは頭を下げ、少し照れくさそうに微笑んだ。
「ありがとうございます。これがないと今日の発表ができなかったんです。」
その場にいた全員の心が少しずつほぐれていくような、不思議な瞬間だった。
すると涼子さんが「少しお茶でもいかがですか?」と明日香を誘った。暖かいこたつに入ると、手作りのおはぎが運ばれてきた。涼子さんは冬になるとこのおはぎを作り、近所の人たちにも配るのだという。
明日香が一口頬張ると、優しい甘さが口の中に広がり、冷えた体がじんわり温まった。
「こんなに美味しいものをご近所さんに届けてるんですね。」
「届けるなんて、大げさよ。ただ、みんなが笑顔になればそれで十分なの。」
その言葉に、明日香は自分の仕事の意義を重ねた。
帰り際、陽斗くんがまたお礼を言いに出てきた。そして彼は、明日香に小さな雪だるまを手渡した。
「雪で作ったお礼です!気をつけて帰ってください!」
その雪だるまは少し歪だったが、温かい気持ちが詰まっているのが伝わってきた。明日香はそれをトラックの助手席に大切に置き、またエンジンをかけた。
届ける先のぬくもり @mynameisai
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。届ける先のぬくもりの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます